第133話 夏の終わり、それは夢の終わりでもあり人生の終わり②




 慎二と結衣はそのままお祭りの会場になっている場所まで談笑しながら歩いて行った。


 そこでは沢山の人達が色々な屋台で遊んだり食べ物を買ったりしているその光景を見た結衣は子供ながらとてもはしゃいでいた、勿論慎二も大いに楽しんでいたが。


 だが、楽しいからと言っても祭りではマナーをしっかりと守らなくてはいけない。


 他の人も来てる訳だから迷惑になる様な事はやってはいけない、後はあまり金品類を持ってくるのはオススメしない、こういう人々が浮かれている所を狙って悪い人がスリとかをしてくるからだ。


 なので用心をするのには越した事が無いだろう。


「結衣ちゃん、僕の側から離れないでね?祭りの熱気に当てられてはしゃいだりしてる人がぶつかったりして来る可能性もあるし、スリだってされる可能性もあるからね」


 しっかりと慎二自身も結衣にその事を話していた。


 結衣も慎二が言った内容を理解してるのか頷いてくれた。


「はい、慎二さんの側から離れない様にしておきますね!!……このままずっと………」

「ん?今最後に何か言ったかい?」


 結衣が最後にボソッと何かを言った様に慎二は感じられた為、重要な事を聞きそびれたらいけないと思い聞いてみた。


「いえ、いえ!何も言ってないですよ?周りに沢山の人がいるので聞き間違いとかでは無いでしょうか?」

「そうかな?んー、そうかもねこんなに人がいるから聞き間違いか……なら、良いやごめんね?変な事聞いちゃって」


 結衣の話を聞き「何だ間違いか」と思った慎二はそれ以上何も聞かなかった。


「いえ、良いんですよそんな事より楽しみましょう!」

「そうだね、初めは何処を回ろうかぁ」

「はい!何処が良いでしょうかぁ?」


 結衣は話を逸らせた事に安心していた。


(危なかったですね……慎二さんに好意が知られるのは好都合ですが重い女だとは思われたくはないですからねぇ)


 そんな事を弱冠10歳の少女が考えていた、慎二は知らないだろう今の子供はかなり発達しているのだと。


 でも子供なのは確かだ、結衣は無邪気な顔をすると慎二に行きたい場所が決まったのか伝えるのだった。


「まずは金魚すくいがやりたいです!」

「じゃあ、行こうか」

「はい!!」


 何処に行くか決まった慎二達は近くにあった金魚すくいの屋台に行く事にした。


 一回300円とかなり高いと思うかもしれないが、お祭りの屋台というものは割高なものが多くその理由は特に分かっていないが、雰囲気や祭りの気分を楽しめるならその値段でも良いと考えている。


 慎二自身も昔から値段が変わらない屋台を見て逆に安心していた。


(屋台って高い!ってイメージあるけど何でかそれでも「アレがやりたい!とかコレがやりたい!」ってなるのが不思議だよね、それが屋台の醍醐味かもしれないけどさ)


 慎二が内心屋台について考えていると値段が高い事に気付いたのか結衣が申し訳なさそうな顔をして慎二を見てきた。


「………慎二さんごめんなさい……金魚すくいをやりたいとは言いましたが、値段がこれ程高いとは思いませんでした。やっぱり違うので「おじさん金魚すくい一回やります!」……慎二さん!?」


 結衣は断ろうとしていた所に慎二がいきなり言葉を被せてきた事に驚いてしまった。


 だが、慎二はそんな結衣に優しく声をかけた。


「結衣ちゃん金魚すくいをやりたいんでしょ?なら断る事はないよ?」

「でもお金が………」


 それでもお金の事が気になる様で暗い顔をしていた、そこに慎二は。


「そんなの気にしないよ、それにこれでも僕はこの夏休みの間を暇さえあればアルバイトをしていたからそれなりにお金はあるんだ、だからお金の事は気にしなくて良いよ」


 下を向き暗い顔になってしまった結衣の頭を優しく撫でながら言い聞かせていた。


 それが功を成したのか結衣は頭を上げると慎二にお礼を言ってきた。


「は…い……分かりました、ありがとうございます慎二さん!」

「うん、前も伝えたけどごめんなさいよりそっちの方が何倍も良いよ!じゃあやろうか」

「はい!」


 返事をする結衣の顔にはさっきの暗い表情が無く、晴れ晴れとしていた。


 慎二と結衣の会話を聞いていた金魚すくいの店主は気を利かせてくれたのかずっと慎二達の話が終わるのを嫌な顔一つせずに何も言わず待っていてくれた、慎二達が話が終わると共に話しかけてきた。


「おう、嬢ちゃん良かったな!優しい兄ちゃんがいて、それに安心してくれここの金魚すくいは一回300円と高いかも知れないがポイが破けてもしっかりと好きな金魚2匹をあげるからな、だから肩の力を抜いてやんな」


 気の良さそうな性格の店主は結衣にそういうとニカッと笑顔を向けてきた、結衣も何か返事をしなくてはと思い口を開いた。


「あ、ありがとうございます!では、やらせて頂きます!」


 結衣は本当は慎二の事を兄では無く、彼氏と思って欲しかったが、流石にこんなに年が離れていたら無理かと思っていた。


 でも今はそんな事よりも祭りを楽しむ事にした。


「おう、じゃあ、一回300円な!」

「はい、じゃあこちら300円です」

「毎度!こっちがポイとおわんだからな、ゆっくりとやっていきな!」


 慎二がお金を渡すと店主は結衣にポイとおわんを渡してきた。


 それを受け取った結衣は店主にお礼を言った。 


「ありがとうございます!では、いきます!!」


 張り切って金魚すくいに結衣は挑むのだった。






 結果は1匹金魚を捕まえる事が出来た。


 頑張って1匹の金魚を捕まえた結衣だったが、その後は直ぐにポイが破れてしまったが、1匹だけでも初めてやって取れたので達成感があり結衣は嬉しがっていた。


 そんな結衣に店主が「もう1匹あげるがどれがいい?」と聞いてきたが……結衣は「この金魚だけで大丈夫です!大事に育てますね!」と店主に言うのだった。


 言われた店主は「嬢ちゃんがそう言うならそれでいい、しっかりと面倒みてやれよ!」と言ってくれた。


 その様子を楽しそうに慎二は見ていた。


「結衣ちゃん金魚を1匹捕まえられて良かったね、その金魚は家で飼うのかな?」

「はい!この子はしっかりと飼います!」

「そか、なら帰ったら金魚を飼う準備しないとね」


 慎二と結衣は金魚すくいの屋台を離れると金魚を飼う事について話し合っていた。


 その後もりんご飴を買ったり、射的をしたりわたあめを買ったりと充実した時間を過ごした。


 祭りに来た時は午前10時だったが、今は休憩を挟んだり屋台を回ったりして既に午後5時を回っていた、今回の祭りの花とでも言える花火が上がるまで後1時間しか無かった。


 慎二も結衣と一緒に楽しんでいたが、内心では「誰もクラスメイトとも会いません様に!」と考えたいたがそれは叶う事がなく……屋台を見ている時に美波や優奈とバッタリ会ってしまった。


 その時は特に何も言われなく済んだが、去り際に「その子に手を出したらアンタの大事な物を引っこ抜いた後に警察に出頭してもらうから」や「………手を出したら割礼」と言われてしまった。


 その事に結衣は気付いていなかった様で助かったが、言われた慎二は震えていた。


 割礼については調べない方が身のためだろう……特に男子。


 いや、本当に怖かった……深夜にあんな事言われたら失禁してる覚悟はあるね。


 そんな事があった中も無事?ほとんどの屋台を回る事が出来た、今の時間が気になった慎二が時刻を見たらあと少しで打ち上げ花火が上がる事を知った、知った途端結衣が何故か慌てだした。


「慎二さん!!ちょっと今から行きたい場所があるのですが着いて来てもらっていいですか?」


 矢継ぎ早に言われた慎二だったが結衣が真剣な表情をしていた為、何も言わず着いて行く事に決めた。


「………分かった、案内してくれ」

「はい、コチラです」


 結衣がそう言って案内してくれた場所は歩道から離れた獣道になっている場所だった。


 「そんな所に何かあるのか?」と思っていたが、結衣が慎二の手を引きながらズンズンと進んでいってしまうので「結衣ちゃんに任せるか」と思い身をかせる事にした。


 5分程歩いただろうか?結衣に連れられながら歩いていたら開けた場所に出たので慎二は周りを見回していた、その時に気付いたことが。


「凄い……桜田町を見渡せる場所があったのか……よく結衣ちゃんはこんな場所知ってたね?」

「この間商店街に買い物に行く時に聞いたんです、花火を見るなら絶景が観れる穴場があると、なので何も言わず慎二さんを連れてきました」

「そうだったんだね……でも良かったよこんな綺麗な景色が観れて、ここで観る花火はさぞかし綺麗なんだろうなぁ」


 慎二はその景色に魅了された様に観続けていた、その様子を見ていた結衣は連れてきて良かったとか言うことの前に………


(ふふ……ふふふっ、慎二さんはここがただ景色がいい場所だけだと思っているみたいですね……でも違うんですよここは「男女が2人で一緒に花火を見て想いを告げると必ず結ばれる」というご利益がある場所なんですよ、コレこそが今日慎二さんを誘った理由なんですよ!!まだ早いですが言わせて頂きます………計画通り!)


 そんな事を内心考えたいた、もうここまで来たら結衣のものだ今直ぐにでも高笑いをあげたい結衣だったが、まだ花火は上がっていないしいきなり高笑いをしだしたら流石の慎二も不気味がると思い心のうちに置いといた。


「そうですね、早く一緒に観たいですね!!」


 結衣は笑顔を慎二に向けながら言った、内心は違う事を考えながらだが。


 それでも遂に最初の花火が上がる午後6時を回ろうとしていた、結衣は待ちきれないのかさっきから慎二の顔をチラチラ観ていた。


その事に慎二は気付いていたが………


(結衣ちゃんどうしたのかな?花火を観れるのが待ち遠しいのかな?)


 と、完全に勘違いしていた、でもそれで良い、その方が結衣もやり易いからだ。そんな事を考えていたら。


「ヒュ〜〜〜……パン…パパン!」


 と、遂に午後6時になり花火が上がった音が鳴ったので結衣は慎二に声をかけて向かい合う事にした。


「慎二さん、いきなりで申し訳ありませんが聞いてください!!」

「ん?どうしたの結衣ちゃん?今花火が上がってるけど見なくて良いの?」

「はい、今は先に貴方に伝えたい言葉があるのです!ですので聞いてください!」


 普段は出さない結衣の大きな声に驚きながらも慎二は聞いてみる事にした。


「………分かった君の話を聞くよ、この場面で言うっていう事は大切な事なんだもんね」

「はいそうです……なので聞いてください……私は……私は貴方のことが………好「パーーン!!」」


 結衣が「好きです」という言葉を慎二に言おうとしたら一際大きな花火が辺りの闇を照らす様に光り輝きながら鳴った。


 でもそんな事は関係無いともう一度結衣は慎二に想いを告げようとしたが……何か違和感に気付いた。


 さっきまで真剣に結衣の事を見ていた慎二だったが今は見ていないのだ、それどころか少し青い顔をして結衣の背後を見ていた、その事が気になった結衣は想いを告げる事を一度中断して自分の背後を見たら………


「なっ!!?」


 結衣はその光景を見ると共に驚いてしまった。


だって……自分の背後に沢山の女性達がいるのだから、それも全員の目に生気がないように見えた。


 その目は全て慎二に向けられていたのだ。


 女性達は生徒会のメンバー全員と美波、優奈、慎二の中学からの友人の総勢10名がいた。


 全員が何も言葉を発する事なく慎二だけを見ているのだ。


 皆が結衣の背後にいるのを気付いたのは偶々だった。


 さっき一段と強い花火が上がった時に出た光が周りの森を照らした時気付いたのだ、だから慎二はさっきから顔を青くしていた。    


 そんな慎二の内心は………


(………死んだな…僕………多分精神的にも社会的にも○されるんだろうね、コレ……皆の目を見れば分かるよ、アレは排泄物でも見る様な目だからね…ふぅ……僕何かしたかな?)


 考えても、考えても何も浮かばない慎二はどうせ逃げても無理だと悟りその場で膝をついてしまった。


 結衣は結衣でこの状況が分からず何も言えずその場に立っていた。


 そんな何も誰も言わない時間が少し過ぎた時、美波が代表なのか1人前に出てくると慎二に判決を下した。


「慎二……今度は牢屋で会いましょう」


 ただ、その一言だった。美波が喋り終わると他の女性陣も動きだし慎二を囲むと瞬時に気絶させて何処かへ連れて行ってしまった。


 その光景を見ていた結衣は何も出来なかった。


「………慎二さん……」


 その言葉だけが風になって夜空に消えていった、後に聞こえるのは花火の音だけだった。


 夏はそうやって終わりを告げていった。


 その後慎二がどうなったかは誰も知らない。


 これはまた違う話だが、今回金魚すくいで捕まえた金魚は「しんちゃん」と名付け今は慎二達の家族となっている。


 初めは猫のチルと相性は悪いと思っていたが、これまた驚いた事にかなり仲良しらしい。

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