第136話 〜夕凪の記憶〜 【終】


「あ……れ?おかしいな………なんで話をしただけなのに涙が出るんだろう……おじさんも泣いてるし……でもこの涙はなんだか悲しいから出ている涙じゃない気がする、どこか懐かしくて暖かいそんな感じか……する」


 少女はなんで自分も泣いているのかは分からないようだが、心の何処かではその涙の理由が分かっているのかその涙を噛み締めるように笑いながら泣いていた。


2人はそのまま泣いていたが、ようやく涙が止まったのか少女が話を続けた。


「………それでね、その夢で出てくる人の顔にモヤが付いていて夢の内容もその人物さえも分からなかった、だからそれを知る為にミサンガを自分で作っていつかその夢を見る理由を知る為に今日まで過ごしてきたの、そしたら………」


 話分切ると慎二を見てきた、その意味が慎二は気付いたのか。


「………似ているミサンガを持っていて、それも君が見た夢に似た約束をした話をする男性が現れた、と……そう言う事を聞きたいんだよね?」

「うん……おじさんは何か知ってるの?」


 聞かれた慎二は少し押し黙ってしまった。


(何かを知っているか…か……知ってる、全てを知っているとも………この子が今話した内容が本当なら渚さんの生まれ変わりで確定だろう……君は前世で僕と友人だったんだよ?と教えるか、それとも偶然だと伝えるのか………)


 正直に言ってしまうと慎二は悩んでいた、勿論渚の生まれ変わりに出会えた事は約束が叶えられた証拠なので喜ばしい事だが………


 彼女にも彼女なりの生活があるのだ、なのにただ夢を見て知っているだけなで「君は前世で僕と会った事がある友人なんだ!またよろしくね!」とはならないだろう。この少女の邪魔にはなりたくなかった慎二は………


「うん、僕は知っているよ」


 慎二が苦笑いをして告げるとその少女はパッと花が咲いた様に笑顔になり詰め寄ってきた。


「やっぱり!じゃあ貴方は夢に出てきた「うん、似た様な話を知ってる」………え?」


 ………少し、嘘をつく事にした。


 だが、少女が言葉を言う前に話を被せるように慎二が思ってもない事を少女に告げた。


 そんな困惑している少女に慎二は優しく伝える事にした、嘘は嘘でもその人を思う優しい嘘だってあるのだから。


「僕は知ってるよ……知ってるけど君が探している人物とは違うのかな……だって僕が探している人物は「男性で今も生きていて年齢は50を超える人なんだから」……だから君が探している人とは別人かな?期待をさせるような事を言ってごめんね」


 慎二の話を聞いて放心していた少女だったが、その話を信じたくないようで冗談だと思ったのか聞いてきた。


「冗談……だよね?だってさっきおじさんも私と一緒に泣いていたじゃん!あれが私の探し人の証拠なんじゃないの!!」

「………‥」


 その話を聞き慎二は内心舌を巻いていた。


(この子も痛い所を突くね……僕も泣いてしまったのは失敗だとは思うけど……でもまだ挽回出来るから、この少女には悪いけど君の為だと思って心を鬼にするよ)


「そうだね、僕は君の話に感情移入してしまい泣いてしまった、何か勘違いさせてしまったようですまない」


 慎二はしっかりと反省の色を見せる為に少女に頭を下げて謝った。


「そ、そんな頭を下げないで!私も勘違いしていただけだからさ!!」


 流石の少女も自分よりも年上の人から頭を下げられるのは嫌なのか焦りながら慎二に頭を上げるように言ってきた。


言われた慎二は直ぐに頭を上げると「ならお互い勘違いしていたと言う事でこの話は終わりにしようか」と言った。


 少女も慎二の提案に乗ってくれた。


「でも話をしてくれてありがとう、何か力になれたら良かったけど、僕からはその夢の人物とまた会えるといいねとしか言えそうにないかな……でも君の夢を想いを馬鹿になんてしないよ」


 言われた少女はその言葉がとても嬉しかったのか少し涙ぐみながらお礼を言ってきた。


「ありがとう……そう言ってもらえるだけで救われる思いだよ、正直に言っちゃうとおじさん以外にこの話をするのは少し躊躇しちゃって誰にも言えなかったんだ」

「そうだったのか……ご家族とかには話したのかい?」

「うん、家族には一度話してみた事はあるけど私の妄想だと思われたのか流されるだけだったんだ」

「そうか………」


 慎二はその話を聞くと分かる気がした、理解出来ないことはまたその目で見ないことは、人は納得してくれない事が多い。


 だから慎二が肯定してくれた事に意味があったのだと。


「だからね話を聞いてくれてありがとう、本当は夢の内容が解決出来ると良かったけどおじさんと話せて良かったよ!」

「こちらこそ興味深い話が聞けて良かったよ、コレでも僕は小説家をしていてね君の話はとても勉強になったよ」


 慎二は本心で思った事を伝えた。


「ヘェ〜、小説家なんだね!……あっ、そういえばおじさん、おじさんて言ってばかりで名前聞いてなかったね……おじさんの名前はなんて言うの?」


 名前を聞かれた慎二は年下に気を使わせてしまったと恥じらいながら自分の名前を教える事にした。


「あぁ、言ってなかったね……僕の名前は前田慎二、今は小説家をしています。君の名前を聞いても?」


 慎二はそう伝えると言われた少女は「やっと名前を知れた」と笑顔を見せると自分の名前を言ってきた。


「私は桜田高校1年生の愛田凪です!名前は間違われやすいけど、夕凪の「凪」で凪だよ!女子高生をしているよ!!」

「ふふっ、女子高生をしてるって……ククッ………」


 慎二は少女改めて、愛田凪の自己紹介を聞くと内容に笑いを堪えているように右手で顔を隠していたが内心では………


(凪…渚……書き方は違うのかも知れないけど名前は一緒なんだね。コレもさっき凪ちゃん?凪さん?……が言っていた通り運命なのかもね)


 そう感慨深く思っていると自分の自己紹介を笑われた事が癇に障ったのか、凪はプンスカと怒り慎二に抗議をしてきた。


「もう!そんなに笑わなくても良いじゃん!おじさんのツボは分からないから嫌なんだよ!!」

「ごめん、ごめん!でもおじさんを連呼するのはやめて!それかなり僕に効くから!!」

「あっ…ごめん………」


 凪は慎二に謝り何か変な空気になってしまったが、どちらともなく「プッ!!」と笑い出してそんな変な空気も吹き飛んでしまった。





 その後は少し話すと別れる事になった、凪も友人をかなり待たせている訳だから待たせても悪いと慎二が思ったからだ。


「凪さん今日はありがとう、かなり有意義な時間を過ごせたよ、今後君が見た夢の探し人が探せると良いね、さっき連絡も交換出来たから何か手伝って欲しかったら気軽に連絡をくれれば良いからね」


 話し合いで連絡先を交換し合った慎二は凪に自分も今後力になれるかも知れないと伝えた。ただそんな慎二の言葉に少し寂しそうな顔を凪はしていた。


「………うん、寂しいけどまた会えるもんね……だから分かったよ私もきっと夢で見た人達を探せるように頑張ってみる!その時は前田さんも手伝ってね!!」

「勿論!君の助けになるさ」


 話が纏まった2人は別れるのだった、慎二も本当の事を伝えて昔の話をしたかった気持ちは多いにあったがそれはいつでもいいと思い。


 別れが惜しくなるのは嫌だったので凪に背を向けると手を上げて「またね!」と別れの挨拶をして歩いていくのだった。


 凪も「うん、またね!」と慎二に挨拶をすると友人の元に走っていく足音が聞こえた………


(………これでいい、これでいいんだ、正解なんてないけど、ちゃんと伝えなかったのは後から後悔をするかも知れないけど……人生はこんなもんだよね………)


 それでも前を向いて進んでいくと慎二は思いながら凪とは違う方向に歩いていたら……「おーい!」と凪の声が聞こえたので慎二はその声に反射的に振り向いてしまった。


 そこには友人と共に慎二の方を見ている凪がいた。


 その事に「まだ何かあったかな?」と思っていた慎二だったが……凪は遠くの慎二に声を届けるように大きな声を出して伝えてきた。


「あのねー、私もあまり分からないんだけどー今いきなり、頭の中で浮かんだのーー!」


 その言葉に慎二も大きな声を出して聞き返した。


「何が浮かんだんだいーー?」


 凪は慎二に聞かれた途端、表情を泣き顔にクシャと崩すと最後に特大の爆弾を落としていくのだった。


「………頭に言葉が浮かんで…くるの……前田さんに今伝えなくては……いけないと言うように!だから……だから…今伝えるね!」


 凪はそう言うと一度下を向き、まだ泣き顔のまま笑顔を浮かべながらある事を伝えてきた。


 ただその時、何故だが周りの景色が変わったような気がした。懐かしいあの、テトラポットがあった海岸のように。


『またね、慎二君!!貴方と会えて……君と逢えて私は……僕はっ………本当に……良かった!!』


 凪は慎二の事を「前田さん」と呼んでいたはずなのに何故か今は「慎二君」と言ってきた。


 その言葉に慎二も表情を崩すと本人にしか分からないような言葉を伝えるのだった。


『僕の……僕の方こそだよ………君と会えて、貴方と逢えて良かった!……また…いつか……いつかきっと!星空の下で話そう!渚さん!!』


 楽しい思い出、悲しい思い出、辛い思い出色々ある……でも今を笑っていればそれで良いのだろう………


 慎二の言葉を聞いた凪は今までの陽気な笑顔ではなく、少し大人びた表情を作ると優しい笑顔を向けて返事をしてきた。


『うん!きっと!!』


 ………いつか……星空の下で………


 慎二には最後そんな言葉が聞こえた。


 その時にはもう、周りは普段通りの景色に戻っていた。


 だけど、慎二はそんな事を気にしてはいないのか目頭を押さえると凪に背を向けて泣いている所を見られたく無かったのか、言葉ではなく片手を上げて挨拶をするのだった。


 慎二は気付いたのだ、今の一瞬だけだが凪に渚の面影が重なったような幻を見てしまったのだから、だから直視出来なかった。


 ただ、慎二に伝えた凪本人は自分が今何を伝えたのか分かってないようで困惑したような表情をしていたのをはっきりと覚えている。


 そんな凪が慎二に今何か起きたのか聞こうとしていたが……「なになに!凪の知り合いなの!?」やら「嘘……結構あのおじさんタイプなんだけど………」や「もしかして凪の彼氏!!」など周りの友人に質問攻めにされてしまい慎二に聞けなかった。


 慎二はそんな友人に囲まれている凪の様子を見て苦笑いを浮かべながらも歩き出した。


 その時、小声で誰にも聞こえないように慎二は呟いた。


「まったく……人生ってやつはこれだから………何が起きるか分からないからやめられないよね……コレも運命の巡り合わせのおかげかね?……まぁ、考えても僕には分からないのだろうなぁ」


 おっさん臭く独り呟くと凪が友人に囲まれていたのを思い出し、自然と笑みが浮かぶのだった。


「最後に良いものが見れたから良かった……今の凪さんは僕が何をしなくてもしっかりと立派な友人がいるみたいだからね、安心したよ………さーて、僕も張り切って行きますか!」


 慎二は今自分で出来る事を精一杯に頑張ろうと思い、重い足を、一歩を踏み出した。



 これから何が起こるか分からないしどんな結末になるかも分からない。


 だってもうあの学生の時のような特別な力は……もう、無いのだから………でも、それでも止まらないだろう。人生は一度きり……何があるのか分からないのがきっと楽しいのだから。


「………今日もまた暑くなりそうだなぁー………」


 そんな事を呟きながら〇〇○が待っている場所まで独り帰路につくのだった。





 もしも、これはもしもの話、何かを手に入れる為に何かを手放すなら、どうする?


 これはあくまでも、もしもの話。何かを手に入れる為に正義や覚悟や悲しみや信念さえも捨てなくてはならないならどうする?


 大人になるとは、生きて行くとはそういう事だ。だから後悔をしない様に今を生きていく、年を取った時にあの時は楽しかったなと言える様に生活をする。


 季節は巡っていくだろう、時間は止まってなどくれないだろう……でも、その中にきっと色褪せない記憶は必ず存在する。だから別れなんて寂しさなんて皆…全部…全部……吹き飛ばすぐらいに今を謳歌しよう。


 姿が変わろうと形が変わろうと、何も覚えてなかろうと……きっと想いは気持ちは……心の中にずっと、あり続けるのだから。




 To be continued...

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