第121話 一期一会②



 最初から渚さんは体が痛いのに無理していたのか………


「は…い……しっかりと聞きます」

「うん……慎二君…君は今のままでいい……沢山の人が君の…助けを求めている……だから僕の時の様に……助けてあげてくれ」

「当たり前です、僕は人助を生き甲斐にしてるんですから、助けを求めてる人達を必ず助けます!」

「うん……君ならそう言ってくれると信じてた………」


 渚がそう言うと夜空を見上げた、慎二はそれにつられて空を見たら、満天な夜空を星々が輝いてとても幻想的な光景だった。


 その光景に慎二が目を奪われていると渚が話し出した。


「見てよ慎二くん……こんなにも…星は綺麗なんだ……下ばかり見ていた僕は上を見る事が無かった……から……こんなにも夜空の星が綺麗なのを今になるまで知らなかったよ」

「本当ですね……聞いた話ですが、今日が一番星が見える日みたいですよ?それにこの1つ1つの星々って何百年前かの輝きらしいですよ、浪漫があると思いませんか?」

「そうだね……浪漫があるなぁ〜………この光景を見たら……なんか、色々とスッキリしちゃったな………」


 渚はそう言うと目を閉じてしまった為、直ぐ様に慎二は声をかけた。


「渚さん?」

「………大丈夫……まだ僕は……ここにいるよ……ちょっと眠くなっただけさ………」


 渚はそう言ったが、直ぐに頭を振る。


「嘘は駄目だな……慎二君…多分僕はもう」

「………そう、ですか」


 慎二はその話を聞き理解した。


 もう渚がいつ亡くなってもおかしくないと、その事を思うと悲しくなってしまった。


「そんな顔をしないでよ……言ったでしょ?人が亡くなるのは…早いか遅いかだって……僕はそれが少し早かっただけなんだ……それにもう……心残りはないさ」


 そう言う渚は細く息を吐き出していた。


「渚さん………」


 その痛痛しい渚の姿を見ていたら、渚が目を開けたが何故か首を少し動かして周りを見回していた。


「あ……れ?……慎二君…何処だい?」

「渚さん!?僕はここにいます!前田慎二はあなたの側にいますよ!」


 そう言うと慎二は渚の手を取って自分はここにいると語りかけた。


 取った手は生物と思えない程とても冷たかった事を感じた。


「本当だ……君の手は暖かいな………あぁ落ち着くなぁ」


 そう言った渚は両眼から涙を流しながら慎二の手を弱々しく握ってきた。


「駄目だなぁ……最後ぐらいは…泣かないって決めてたのに……涙は止まって、くれないよ………」

「泣きたい時は……涙を流せばいいんですよ、それが当たり前なんですから………」


 慎二はそう渚に伝えたが、浅い息を吐くだけで渚は何も言ってくれなかった。


 ただその間も渚が何かを言ってくれると待っていた。


少ししてから渚は途切れ、途切れだけどしっかりと言葉を紡いでくれた。


「………慎二君…君がやりたい様に色々な事を挑戦してみてくれ……今の君は……何処か生き急いでいる様な感じがするな……もっと自由に自分がしたい事をしても……良いんだからね………」

「はい、はい、渚さんの言う通り僕は挑戦する事を、生きる事を何処かでどうでも良いと思っていた節があります。だからこれからは渚さんの分精一杯に人生を謳歌しますから!」

「うん……今の君なら出来るさ………」


 渚は何処か憑物が落ちた様な顔をした慎二を見たら笑ってくれた。


「そして……また会えた時、今まで体験した事……教えて、ね?」

「はい、また笑いながら語り合いましょう、いつまでも……いつまでも、きっと」


 慎二はそう言いながら渚の弱々しくなってしまった手を握り続けた。


「そう…だね……そうだ……君に渡したいものが……あったんだけど…僕の手からは渡せなさそうだから……後で鈴村……先生に聞いてみるといい」

「わかりました、わかりましから!もう喋らないで下さい、渚さん!」


 どんどんと弱々しくなっていく渚を見ている事が出来なくてそんな事を叫んでしまった。


 だが渚は言葉を止める事なく慎二に伝えた。


「これが……君に贈る最後の……言葉だよ…また会おう……そしてそんなに泣かないで「慎二」…それより笑ってよ?……僕は君の笑顔が好きなんだから………」


 言われた慎二は泣きながらも無理矢理笑顔を作ると渚を見た。


「は…い……渚さんまた会いましょう……今は休んで下さい………」

「う…ん……そうするよ……君と……出会えて…よかっ……た………な」


 渚は最後にそう言うと少し笑った様な気がしたが慎二が握っていた渚の腕の力がなくなった事に気付いたので、わかってしまった、もう渚が亡くなってしまったと。


「僕の方が……貴方という友人と会えて救われたんですからね……また会いましょう…渚さん」


 慎二は誰にも聞こえないだろう小さな声で呟くと夜空を見上げながらこれでもかと泣き続けた。


 それでも慎二は渚の手を離さずいつまでもいつまでも涙を流しながら渚の手を握っていた、また会える日を思い浮かべながら。


 その姿を雄二達や集まってくれた千里浜町の皆は泣きながらずっと見ていた。


 夜空に浮かぶ星々達はそんな慎二達に明かりを照らすかの様に輝き続けていた。


 その後は1時間程誰もその場から動けなかったが、このままでは駄目だと、慎二が動き出すと、その様子を見ていた人々が徐々に動き出した。


 慎二は鈴村に渚の亡骸を丁寧に渡すと今日来てくれた皆にお礼を言い、夜も遅い為解散にした。


 慎二達も宗一郎の家に戻る事にしたが、戻ると直ぐにご飯を食べるでもなく気絶する様に寝てしまったので、翌日色々と考えることにした。

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