第119話 友人と幸せ②
◆
皆は自分が出来る限りここ千里浜町の住人に話をした。
その時に出来たら周りの人にも伝えてほしいと伝えると皆軽く了承してくれてある物も作って今夜18時に渚がいる病院に駆けつけてくれると言ってくれた。
そんな事をして町を周っていた慎二は時刻を見たら後少しで約束の18時が近付いていたので渚の元にそのまま向かう事にした。
が、鈴村から着信があったので出てみた………
ただ、その時、何故か少し嫌な予感が慎二には感じた。
『良かった、前田君に繋がってくれたか』
「どうかしたのですか?」
『………それが……緊急な事が起きてね前田君、今から言う事を落ち着いて聞いてくれよ?』
その話を聞いた慎二は何か嫌な予感がした。
「はい……一体何があったんですか?」
『………渚君が、倒れた』
慎二が聞いてから少し間が開くと鈴村からそう言われた。
「っ!」
『前田君、さっきも言ったけど落ち着いてくれ、倒れたとは言ったが「まだ」命に関わる事じゃない』
「でも……もう、渚さんは………」
『そうだ、彼は恐らく今日か明日が……峠だと思う。だけどまだその時じゃない、前田君以外は皆もう来てるから出来るだけ早くこちらに来てくれ』
「わかりました、今直ぐに向かいます!」
慎二はそう言うと通話を切り、皆が待つ病院へと行く前に雄二達にある事を連絡すると走って行った。
病院に着き、渚達がいるであろう病室まで向かいドアをノックすると中から渚の声が聞こえた為、無事で良かったと思うと共にドアを開けた。
病室の中には渚と鈴村、雄二達がいた。
慎二が入って来た事に気付いたのか渚が話しかけて来た。
「慎二君よく来てくれたね……今夜に何かやるみたいだけど、何やるの?」
「それは一旦置いといて渚さんが倒れたと聞きました、大丈夫なのですか?」
慎二がそう聞くと渚ではなく鈴村が答えてくれた。
「慎二君、それは私の方から説明するよ……率直に言ってしまうと渚君はいつ亡くなってもおかしくない、今こうして私達と話しているのが奇跡なんだ、他の皆にはもう話したけど、どうか最後まで渚君の側にいてくれ………」
「……そう…ですか……わかりました」
わかっていたけど……辛いな………
「慎二君、今鈴村先生が言った様に僕はもう……だけど最後までこの世界で生きたんだって証を残したい……それに何かやってくれるんでしょ?……僕の意識があるうちに………お願いしたいな」
慎二と渚が話しているのでを雄二達は何も話さずただ、見守っていた。
「わかりました、渚さんは僕と初めて出会った場所は覚えていますか?」
「覚えているよ、あのテトラポッドがある場所から僕達の出逢いは始まったんだからね、もしかして今からそこに行くの?」
「そうです、そこで渚さんに最後に見せたい物があります。きっと渚さんは喜んでくれると思います」
「………そっか、楽しみだなぁ。でももう足に力が入らなくて自分で立てそうに無いんだよ、どうしようか………」
もうそこまで症状が悪化してるのか、どうしよう……移動手段を用意していないし………
どうするか考えていると鈴村から提案があった。
「ここは病院だから車椅子はある、手押しになるけどそれでも良いかい渚君?」
「はい、移動さえ出来れば僕は何でも」
渚も車椅子で良いと言ってくれたので鈴村が取りに行ってくれる事になった、5分程待っていたら鈴村が車椅子を一台持ってきてそこに渚を乗せる事にした。
「なんか車椅子に乗っていると本当に自分が病人なんだって思えてくるよ、今までが楽しくて実感が湧かなかったな………」
その言葉に誰も何も答える事が出来なかったが、気を取り直して渚を連れて慎二と渚が出会ったテトラポッドの所に行く事にした。
◆
テトラポッドがある場所に向かうと誰もいなかった。ただ、海の波の音と夜風の音だけが聴こえていた。
「ここで慎二君と出逢ったんだよね……5日前の話なのに、もうかなり前の様な感じがするね、不思議だな」
「そうですね、でもそれほどこの5日間はとても濃い時間を過ごしたから早く過ぎ去って行ったんだと、僕は思います」
慎二はそう言うと渚の向かい側にいる雄二達に渚にある物を贈るための準備をしてもらう為にアイコンタクトを取る事にした。
(皆、渚さんは僕が話しているから準備をしてくれ)
慎二のそのアイコンタクトに雄二達は頷くと動いてくれたので大丈夫だろうと思い渚と話し出した。
「慎二君、何かあった?僕の後ろを見ていた様な気がしたけど」
「いえ、今までの出来事を思い出していまして、色々とあったなぁーと」
「だね、本当に色々とあった……前も話したかもしれないけど僕は君達と会うまで友人という物を作らずつまらない人生を送っていたからね、でも君達と……慎二君と出逢って灰色の世界に色が付き始めたんだ。その時気付いたよ…あぁ……この世界も捨てた物じゃないんだなってさ」
「………‥」
渚の話を慎二はただ聞いていた。
「でも遅すぎた、この頃考えるんだ。もっと早く出逢っていたら、もっとしっかりと自分の気持ちを伝えられていたらってさ……今考えても、もう無意味でしかないのにね」
「渚さん………」
「でもね、僕はもう十分救われた。お婆ちゃんとも素敵な別れ方が出来て夢だった友人もこんなに出来た。それに最後は……慎二君達が看取ってくれる……こんな風に終われて僕は幸せ者だよ」
渚がその言葉を発すると共に準備をしていた雄二達からアイコンタクトがあったので渚に最後のプレゼントを贈る事に決めた。
「そうですか……今を渚さんが幸せだと感じてくれて良かったです……でも、僕達以外にも渚さんの幸せを願っている人がいると言ったらどうします?」
「………え?……それはどういう意味なんだい?」
渚にそう聞かれた慎二はとびきりの笑顔を向けるとこう言った。
「それはですね……こういう事ですよ…渚さん後ろを振り向いて下さい。僕から僕達からの最後の贈り物です」
「何を………!?」
渚は訳がわからず背後を向くと驚いてしまった。
だってそこにはこの千里浜町に住んでいる人達が全員いるのではないかと思うほどに人が集まっていてある大きい布を広げて慎二達に見える様にしているのだ。
そこに書いてある言葉は………
【私達はいつだって 汐留渚君 の幸せを願っています】
と書かれていた。
それを見た渚は頭の中で理解が追いつかないのかその場でたじろいでいた。
「し……慎二君…これは一体………」
「見た通りですよ?それに言ったでしょ?僕達から渚さんにプレゼントがあると、それがこれですよ。凄いですよね〜この町の人達全員が渚さんの為に集まってくれたんですよ?」
「何で……僕なんかの為に……僕は厄介者な筈なのに………」
涙を流しながらその光景を見ている渚に慎二は優しく話しかけた。
「僕なんかなんて言わないで下さいよ?こうして渚さんの為に皆さんは集まってくれたんですから。それにね渚さんは知らなかったかもしれないですがこの町の人達は皆渚さんの事を心配していたんですよ?」
「嘘だよ……だって僕は………」
「嘘なんかじゃありません。目の前の皆さんの行動が物語っています……それにほら?見て下さい、あんなにも皆優しい笑顔をしてるでしょ?」
慎二に言われたので渚は来てくれた皆の顔を見たら、全ての人が笑顔を向けてくれていた。
その事実に嬉しいと思うとともになんで、どうして今まで気づかなかったんだという複雑な気持ちに渚はなってしまったのか。
「うぅ…じゃあ……僕は……しっかりと皆と打ち解けていたらもっと……違った………」
涙を流してしまった。
(もっと違った結末になった……かな?でもどんな結末が来ようと最後は笑ってお別れを言えれば僕はそれでいいと思う)
慎二は結末なんて関係ない、最後は笑っているならそれで良いのだからと思いその事を渚に教える事にした。
「違った結末になったかもしれない。でも人生なんてそんなものです…人の伝えたい思いや気持ちなんて分からない…何を考えているのかなんてもっと分からない…だから一歩後ろから見ていることしか出来ないんです……でも、一歩勇気を出して踏み出せば……こんなにも渚さんを心配してくれていた人々がいるんです。だから胸を張って下さい、渚さんは1人なんかじゃ決して、無いんですから」
「うん…うん……僕は本当に幸せだよ……今日まで頑張って生きてきて……良かった………」
渚はその場で泣き崩れてしまった、その場面を見ていた人達も自分達ももっとしっかりと向き合ってやれば良かったと涙を流す人達が沢山いた、その様子を見た慎二は。
(この町の人達は皆良い人達だな………)
慎二はそう思った。
「渚さん、最後になるかもしれないですが、僕達からこの言葉を贈らせて下さい………」
慎二は一旦言葉を止めると雄二達と集まり渚に言葉を贈った。
『渚さん、今まで生きてくれてありがとう、そしてこれからも僕達はあなたの友人です!』
その言葉を贈った。
「僕の方こそだよ……僕と友人になってくれて……ありがとう………幸せをくれてありがとう!」
もう前が見えないんじゃないかと思うほど泣いている渚は慎二達にそう伝えた。
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