第76話 高校とバカとデートと⑥


 店員が飲み物を持ってきた後は2人で何を歌うか話し合った。


「佐城はどんなもの歌うの?やっぱり今流行りのJ-POPとか?もしかしてラブソングだったりして?」

「ば、バカ!ラブソングなんて貴方の前で歌うわけ無いでしょ!」 


 そうよ!恥ずかしくて歌えるわけ無いでしょ!


「ごめん、ごめん!いや〜久しぶりのカラオケってのもあるんだけどさ、やっぱり個室ってテンション上がらない?」

「別にテンションなんて上がらないわよ、個室でなんて……」

「ん?佐城?」


 個室?……個室!?、待って待って、ヤバいわ!朝の勘違いしたの思い出しちゃったじゃ無い!私が話の途中で喋らなくなったから慎二君は近づいてくるし!……何か言わないと………


「………なんでも無いわ、私は無難に今流行りのJ-POPでも歌うわよ、慎二君は何歌うのよ?」

「おっ!聞いてくれるか!僕はね今流行りのアニソンにするよ!」


 良かった、変な雰囲気は無くなったみたで、でもアニソンか〜


「アニソンって、デートでそれってアリなの?」

「楽しめれば良いでしょ?恐らく佐城も知ってる曲だよ!」

「まあ、なんでも良いわ先に慎二君が歌いなさいよ」

「任せて!」


 そう言った慎二は置いてあった曲を入れる機会に自分が歌う曲を入れた、少ししてからその曲が流れ出して歌い出した。


「〜〜〜〜〜♪〜〜〜〜♫」

「………‥」


 上手い!上手いけど……なんでその曲を選んだのよ!知ってるけど!


 慎二が歌い出した歌は今流行りの「アイドルプロジェクト」というアニメの主題歌だった、慎二も前からスマホのアプリで遊ぶ程の好きな作品だ。


「………どうだった?」


 慎二は歌い終わった為愛菜に感想を聞いてきた。


「………どうと言われても……上手かったんじゃないの?」

「反応が鈍いな〜」


 慎二が愛菜の反応に微妙な反応を示してるとさっき歌った点数が出た……その点数は……


「やった、93点だ!今までで1番最高記録出たよ!」

「やるわね……じゃあ次は私が歌うわ!」

「佐城頑張れ!」

「良い点が出たからって調子に乗らないでよね?直ぐに慎二君なんて越えてあげるわ!」


 それから愛菜と慎二は歌い合い点数を競い合った、初めは愛菜も歌う気は全く無かったが慎二の歌に釣られて気付いたら2人で歌い合い、約束の30分が経とうとしていた。


「かっー、もうこんな時間か!結局あの後は愛菜が歌った佐藤健の「果て無き空へ」の94点に負けるし……悔しい!」

「まあ、慎二君も頑張ったんじゃない?」


 愛菜は最初とは比べられないほど生き生きとしていた、そんな姿を慎二は見て笑顔になった。


「良かった、佐城もカラオケで色々発散出来たみたいだね!当初の目的達成だね!」

「………そんな事言ってたわね、でもあなたと歌っていたら色々と悩んでた事も考えてた事も今はちっぽけに思えてきたわ」

「少しでも助けになったなら良かったよ!」

「………えぇ」


 やっぱり慎二君は優しいなぁ、今なら言えるかな………


 愛菜は今まで誰にも言えなかった自分が天の邪鬼な事や伝えたかった事を慎二に伝えてみる事にした。


「慎二君、少し私の話を聞いてくれないかしら?」

「ん?別に良いよ、もう時間は少ないけど許す限りなら聞くよ」


 慎二はそう言ってくれたので、今まで思っていた事伝えたかった事が言えなかった事、自分の家庭の環境、自分が天の邪鬼な性格の事を慎二に話した。


「………て事があってね、今日慎二君と歌い合って少し気持ちが落ち着いたの」 

「そんな事があったのか……辛かったねとか寂しかったねとか頑張ったねなんて僕の口からは軽々しく言えないけど……話してくれてありがとう」

「私の方が慎二君に「ありがとう」を伝えたかったのよ……それに今ならわかるわ、自分の気持ちを誰かに伝えるのってこんなにも難しかったのね」


 その話を愛菜がしたら慎二もポツポツと話してくれた。


「そう…だね……普通は相手の気持ちなんてわからないし考えてる事なんてわからない、ましてや愛菜が例えでは無いけど相手に伝えたい事が言えずに心の奥底に閉ざしている人なんて沢山いると思う」

「………慎二君もそういった事はあったの?」


 愛菜は気になり聞いてみた。


「それはあるよ、あの時「ああ伝えていたら」とか自分の気持ちに早く素直になっていたらなんてザラにある、だから僕は今佐城が本心を言ってくれてとても嬉しいんだよ!」

「っ!……そんな事は………」

「そんな事があるんだよ、それに佐城が天の邪鬼?それも1つの個性でしょ?それを自分自身で否定をして欲しく無いな、どの佐城も同じ何だからさ」


 この、男は本当に………


「………じゃあこれからも今まで通り私は毒を吐くかもしれないわよ?」

「別にそれで良いんじゃ無いかな?僕達は友達なんだ、そんなの戯れているぐらいにしか思わないよ?」


 愛菜が今まで通りに慎二にキツく当たると言っても慎二はあっけらかんとしていた。


「………はぁーーー、なんか色々考えていた私が馬鹿らしくなってきたわ」

「そうそう、もっと僕みたいにゆるーく行こうよ?考え過ぎても疲れるだけだからさ〜」


 そう言って愛菜と慎二は話を終えた。



「でも最後に言わせてね?」

「何を?」

「今日のカラオケデート?がとても楽しかった事に決まってるでしょ?……そして、ありがとう!」

「どう致しまして、僕も楽しかったよ!」


 あぁ、やっぱり私は慎二君が好きだ、いや……「大好きだ」でもこの気持ちはまだそっと心の奥底に潜めておこう、今後しっかりと私自身が素直になれたら彼に伝えよう……貴方が好きだと………

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