第70話 高校とバカと体育祭の終わり③




 慎二がそう聞くと今まで村上の上に乗っていた東雲が立ち上がり慎二の目の前に来た。


「私はね、家柄的に優秀な人材が欲しいのよ……その時に丁度現れたのが貴方、聞く所によると今まで色々な事を解決して来たと言うじゃない?それも誠実で優しくて……そんな優良物件欲しいに決まっているじゃない、だから私の物になりなさい、前田慎二君」


 そう言って来たが慎二の答えは最初から決まっていた。


「その件お断りします」

「なっ!?私が直接伝えたのよ!こんな事これからあるのかわからないのよ!それを貴方は考えもせずに断ると言うのね……私はあの有名な東雲コーポレーション社長の娘よ?それでも前田君の答えは変わらないのかしら?」


 慎二は少し話を聞いていた時点で東雲はどこかのお嬢様だと思っていたが、当たっていたみたいだ。


 だがそんな話をされても揺るがない信念を持っていた。


「ええ、何を言われても変わらないでしょうね、今後東雲先輩と仲良くしていれば未来は約束されるかもしれない……でもねそんな決められた人生のレールに僕は縛られたくない、それも人をモノとしか見れない人の下につく奴なんていないよ……僕は貴方の考えを否定する」


 慎二は真正面から自分の考えをぶつけてやった。


 それでも何が楽しいのか東雲は薄気味悪く笑い出した。


「ふ…ふふっ……前田君、今はそう強がっているかもしれないけど、今の状況をわかっているのかしら?身動きが取れない状態の上助けに来てくれる人はいない、貴方は私の手の中なのよ?」

「そうですか、でも動けたらどうしますか?」

「………何を馬鹿な事を、今も動けない状態で……なっ!」


 東雲が驚いたのも理由がある、目の前にいる慎二は何も無かったかの様に立ち上がって自分と同じ目線に立っているのだから。


「………前田君、何故動けるのかしら?私も確認したけどキツく手足を縛っていたはずよ?…それなのに何で……」

「簡単な事ですよ?東雲先輩達に気付かれないようにただロープを外しただけですよ、ロープが外れたらタイミングを見て立ち上がる、ただそれだけです。東雲先輩の敗因はどちらとも見え難い暗闇の教室にした事ですね、バレないようにロープを外すのは案外簡単でしたよ?」


 慎二は予め不利な展開になる事は分かっていた為後から直ぐに動ける様にロープを外していたのだ、こんなもの「人助」をやるのと比べれば簡単な物だった。


「なっ、そんな馬鹿な事が出来るわけ……」

「それが出来るんですよ、今証明したでしょ?それにさっき言ってましたよね?私の手の中?何処が?こうして自由にしてますけど?」


 慎二がそう言うと東雲は少し後ろに下がりどうするか考えていたが、自分には味方がいるのを思い出したのか村上に慎二を抑える様に命じた。


「………良いわ、私も手荒な真似はしたく無かったけど、村上君何をしても良いわ、前田君の動きを止めなさい!」

「わかりました、東雲様!……へへへ、これで心置きなく前田をボコボコに出来るな!今までお前のイチャイチャを見せられた屈辱を今ここで!」


 そう言うと側にあった木刀を持って慎二に襲いかかって来た。


「ただの私怨じゃないか!そもそもイチャイチャなんて1度もしてないわ!……ええぃ、村上君ごめんよ!」


 慎二はそう言うと村上が振り下ろして来た木刀を軽々と避けると共に村上の懐に入るとそのまま背負い投げを決めた。


「どっせい!」

「グエッ!!」


 慎二の背負い投げで伸びてしまったのか村上はうつ伏せで倒れたまま動かなくなってしまった。


 少し乱れた制服を慎二は整えると、東雲に向き直り話しかけた。


 何も無かったかの様に。


「それで、どうしますか東雲先輩?まだこの茶番を続けるならお付き合いしますよ?」

「ーーーっ!……私をどうする気よ?……まさか……エッチな事をして!?」


 東雲は何を勘違いしたのか自分の体を抱くと顔を真っ赤にして慎二を睨みつけて来た。


「しないわ!僕をそこに伸びている村上君と一緒にしないでくださいよ!」


 慎二はそう言うと村上を指差しながら自分はそんな事やらないと伝えたら警戒を解いてくれたがまだ安心出来ないのか自分の体を抱きながらこの後どうするか聞いて来た。


「じゃあ、前田君はどうするのよ?もう私がこの後出来る事は無いわ」

「別にどうもしませんよ、女性に手を挙げるなんて以ての他です、そもそも僕は巻き込まれただけでこの件は初めから無かったと言う事にすれば良いですよ」

「そんな事、私が納得いかないわよ……」


 納得いかないと言われても別にこれ以上何もやるつもりもないし、ただ早く帰りたいだけだしなぁ〜


「じゃあ、納得いかないなら東雲先輩のモノでは無くて友人になるのはどうですか?」

「友人?私と?そんなの……何のメリットなんてあるのよ……」

「大アリですよ、友人になれば対等に話せるし行動出来る、それに東雲先輩が困っている時も直ぐに助けられる、何か僕が助けて欲しい時に逆に東雲先輩に助けてもらえる、ね?WIN-WINな関係でしょ?」


 その言葉を東雲に言ったら、そんな事今まで考えた事が無かったのか鳩が豆鉄砲を食ったような顔になってしまった。


「………友人なんて私には要らないわよ、今だって風紀委員にいる他の生徒はただの駒ですもの……使える駒さえ手に入れれば私は……」

「それは「嘘」ですよね?だって、友人って言った時にちょっと反応が鈍かったですもんね?本当はただ友人の作り方が分からないだけなんですよね?」


 慎二がそう言うとそんな訳は無いと言うように言葉を発しようと思ったが、うまく口が動かない様だ。


「な…何を!そんな…事……そんな事……」

「その反応が何よりの証拠ですよ、東雲先輩は上に立つ人間になるかもしれない、でもそれは1人ではどうしても出来ない、その為に誰か1人だけでも信頼を置ける友人でも作れば今の凝り固まった考えが少しは和らぐと思いますよ?」

「信頼を置ける友人……」


 人は1人では生きられないもんね、良く知ってる、誰かが側にいないと自分の心が腐っていく様な感覚に陥るんだ、そんな事はあってはいけない。


「そうです、友人です……別に僕じゃなくても良い、クラスメイトでも先生でも身近にいる人になって貰うでも良い、そうすれば自分の世界が変わる筈です、やっぱり信頼のおける人は重要ですよ?」

「………少し……考えさせて」

「ゆっくり考えて下さい」


 東雲は本当に真剣に考えているのか慎二が目の前にいるのに目を閉じてうんうんと唸り考え込んでいた。


 5分程経った頃東雲がようやく目を開けたと思ったら慎二の顔を見た瞬間ソッポを向いてしまった、でも考えが纏まったのか慎二に伝えて来た。


「ふ、ふん!そういう前田君が私とその……友人になりたいのでは無くて?……前田君が友人にどおしても!なりたいと言うなら、考えてあげても良いわよ?」


 東雲はそう言うと恥ずかしかったのか後ろを向いてしまった。


 不器用な先輩だね……


「そうですね、僕が東雲先輩と友人になりたいです、こんな生意気な後輩だけど友人になってくれませんか?」


 慎二はそう言うと東雲の前まで行き、片膝をつき騎士が主人に忠誠を誓う様な格好になり東雲の反応を待つ事にした。


「ーーーっ!……良いわよ?貴方を私の友人にしてあげても良くてよ!…でも……本当に生意気な後輩よね、前田君は」


 東雲は振り向きそう言うと初めて純粋な笑顔を見せてくれた。


「友人になってくれてありがとうございます!……それに東雲先輩はそうやって笑った方が可愛らしいですよ?」


 慎二が本当に思った事を口にしたら。


「なっ!何を言うの前田君!このバカ!アホ!その…その……間抜け!………今日は興が冷めたわ、また会いましょう!」


 東雲はワタワタとしたと思ったら矢継ぎ早に慎二に言葉を投げて慎二達を置いて何処かに去っていってしまった。


「えっとお?……この後どうすれば良いのかな、村上君も放置されてるし……僕も帰るか、村上君は今回僕を嵌めたからその報いとしてこのままにしとくか、また時間が経てば起きて帰るでしょ」


 慎二はそう言うと自分も足早に帰路についた、東雲とは特に連絡先を交換してはいないが何故かまた会える様な予感がしたからだ。


 これはまた別の話だが、そのまま放置された村上は次の日の朝になるまで起きずそれを剛田先生に見つかり怒られる事になる。


 哀れ村上………


 えっ?あの後帰ったら結衣ちゃん達に何かされたかって?……帰ったら無言の圧力が凄かったよ……その後はなんかやたら薄い生地の寝巻き?を来た3人と一緒に寝る事になり天国と地獄を味わったね………

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