第67話 高校とバカと体育祭と⑦
◆
『先程のチア部の応援は大盛り上がりでしたね!では只今より体育祭最後の種目の借り物競走を始めます!参加する方は指定の場所までお集まり下さい!』
司会役の愛田から放送を受けた為借り物競走に参加する生徒は動き出し、指定された場所に集まっていた、その中にしっかりと慎二もいた。
『では借り物競走のルール説明をします、内容は50メートル走とあまり変わりませんが、始め10メートルほど進んだ場所に長机が置いてあります、そこには裏になっている紙が何枚か置いてあるのでそれを捲って頂いてそのお題通りの物をお借りしてゴールまで走って下さい!……なんと今回の借り物競走ではレアのお題もあるみたいなのでそれを引き当てた方はラッキーとの事です!説明は以上です、では最初の生徒から位置について下さい!』
愛田の説明が終わると各自走る生徒から指定位置に着き走る準備を始め、まだ走らない生徒は後ろに並んで座っていた。
緊張するなぁ〜、レアなお題って何なんだろうか?正直言って面倒臭いと思うから当たらないで欲しいよ……
そうこうしてるうちに慎二の番に来てしまった。
『あと2グループで借り物競走も終わりです、まだレアなお題は出ていないので当たった方は頑張って下さいね!』
「では、位置に着いてよーいドン!」
体育教師の掛け声で慎二達は10メートル先の机に向かって走った、1番初めに着いた慎二は早く終わらせたかったので近くにあった紙を捲り内容を見てみた、そこに書いてあったのは……
『吉田さんのお孫さんを連れてこよう!』
「………‥」
なんか知ってる名前が出たんだけど……これレアとかじゃ無いよね?やめてよマジで。
慎二が立ち止まってる事にどうしたのか気になっていた生徒は何人かいたが、競い合っている為慎二を残して皆お題を探しに向かってしまった。
そんな慎二に司会の愛田も気になったのか、話し出した。
『どうしたのでしょうか?1人の生徒がお題を見てから動かなくなってしまったー!あの生徒は…1年「F」クラスの慎二……ゴホンッ!前田君だー!もしや、レアなお題が出たのでしょうかー?今係りの生徒が確認に向かいます!』
いや来なくて良いよ!?名前呼びにしそうになってたとか色々言いたいけど、とにかく目立ちたく無いから!
そんな事を考えても意味が無く何故か慎二の目の前に戸田が現れた。
「また会いましたね前田さん、私達は何か運命が合うのかもしれませんね」
「たまたまですよ……」
「………素っ気無いお方ですね……ではお題の紙を見せて頂いて良いですか?」
「どうぞ」
慎二から渡された紙を戸田はしっかりと確認していた。
どうせ確認なんてしたくても「レアなお題です!」とか言うんでしょ、知ってるよ。
「………このお題の内容なんて入ってませんけど……本当にこの机から取りましたか?」
「取ったけどそれがレアなお題じゃないの?」
「違いますね」
「違うのかよ!普通はレアなお題が僕が当たって「面倒臭い!」とか言いながら達成するんじゃ無いの!?」
空気読もうよ!
『何やら、前田君達はお題の内容に戸惑っている様子ですね、ちょっと私も確認に行きますね!』
来るなら最初から来てよ!
愛田は直ぐに慎二達の元に来てくれたが、お題の事よりも……
「慎二君〜……何戸田さんと仲良くしてるんですかぁ?」
「今は違う!それは後でいいからこのお題はなんなのか教えてよ!」
何でお題より先に僕に戸田さんとの関係を聞くんだよ!そんなのどうでもいいわ!
「わかりましたよ、ただ後でしっかりと聞きますからね、我々生徒会メンバー全員で」
「分かったよ!」
絶対逃げよう!
愛田はそう言うと戸田から渡されたお題の紙を確認した、何か分かったのか慎二に伝えてきた。
「ああ、これはレアとは違くてうちの生徒会長が別枠で入れたお助けお題ですね、流石慎二君ですね!よっ「人助」の名人!」
「えっ、ちょっ……」
愛田はお題の内容が分かったからか慎二にそう伝えると元いた場所まで小走りで戻り放送をかけた。
『今出たお題はレア枠とは別で我が生徒会長から出された別枠でした!……内容は来場者で来てくれた方のお孫さんが迷子になっているので探して欲しいとのことです!……そのお題を引き当てたのがなんと今話題の「人助」を目的とした部活「ヒポット部」部長1年「F」クラスの前田慎二君です!』
司会の愛田がそう伝えると体育祭に参加していた生徒、先生達が盛り上がった。
『本当だ、前田君だ!』
『ほう、あれが今話題の「ヒポット部」の部長か……』
『キャー!前田先輩だー!』
など見に来ていた生徒や教師、桜田中学の後輩にも知れ渡っていた。
そんな中慎二は……
これどう反応すればいいの?……場の雰囲気的に手でも振っておくかな?
そう思い手を振ってみたら……
『キャッー!前田君が手を振ってくれた!!』
女性陣は大盛り上がり……他の男性陣の中では慎二に「良いぞ!もっとやれー!」と声を投げかけてる生徒達もいたが……
『チッ、いい気になるなよ前田ー!!』
と、主に1年「F」クラスから嫉妬の言葉がかけられた。
バカ共は無視しよう、うん。
『流石前田君、皆へのサービス精神も忘れませんね!……ではお題のご依頼主、吉田さんに前田君の元まで向かってもらいます!この後どう前田君が迷子を解決するのか皆さん目を凝らさずに見てくださいねー!!』
そう愛田が言うと慎二の元に今日生徒会長からの話に上がった吉田さんらしきご老人が近づいて来た。
「すまないね、こんな騒ぎになってしまって」
「大丈夫ですよ、迷子のお孫さんはしっかりと見つけなくちゃいけないけど、体育祭としてはかなり盛り上がっていますからね」
「迷惑になってないのなら良かったよ……どうかワシの孫陽太を探してくれ」
「任せて下さい!」
さて、雄二達は探してくれてるみたいだけど僕の方でも早く見つけなくちゃね、使うかな「真実の目」を……
「スイッチ「おーい慎二ー!さっき言ってた迷子探してきたぞー!」お……えっ?雄二?」
そう思い「スイッチオン」と小声で言おうとした時、慎二の耳に雄二の声が聞こえたので振り向いたら雄二達がいてその近くに6歳ぐらいの男の子が一緒にいた。
「もしかしてその男の子が?」
「ああ、丁度迷子になってた所を俺らが見つけてな、いま連れてきたんだよ、ほら坊主も家族の所に戻りな」
雄二がそう言うと陽太は慎二達の元に走ってきた。
ナイス!雄二達!
「助かったよ雄二達!」
そう慎二が伝えたら、3人共サムズアップで返してくれた。
『おおーー!なんと「ヒポット部」全員の協力で解決してしまいました!凄い!前田君は最初からこうなる事が分かっていたのか!』
そう愛田から放送が入り、周りで見ていた人達も「これは凄い!」と称賛の言葉を慎二達に投げていた。
「お爺ちゃーーん」
そんな中陽太がこちらに走って来たので隣にいる吉田に慎二は伝えた。
「良かったですね吉田さん!ほら、陽太君がこちらに来てますよ?向かい入れてあげて下さい!」
「ああ…ああ……」
そんな事を慎二が伝えたらようやく会えた事に感動しながらも陽太に近ずくと思った……が、その場で止まってしまった。
「ん?吉田さん?どうしました?陽太君こっちに来ますよ?」
吉田さんどうしたのかな?陽太君はこっちに来てるのに……
そう思っていたら、吉田から………
「ああ…あの子は……誰だ?………」
ありえない言葉が紡がれた。
「えっ?あの子が陽太君じゃないんですか?こっちに走って来てますよ?」
「それは知ってるよ、でも違うんだ!あの子は……あの子は陽太じゃない!」
「え、えぇーーー!?」
違うのかよ!?雄二達が連れて来た子は誰なんだよ!
慎二と吉田が陽太について話していたら、前から来る陽太?はこちらを素通りして後ろにいた来場者の中に入り知らないお爺さんの足にしがみついた。
「お爺ちゃん、やっと会えた!」
「雄太大丈夫だったか?」
と、2人で会話を始めてしまった。
『これは、どおいうことだー!?木村君達が連れて来たのは吉田さんのお孫さんでは無かったのでしょうか?前田君はこの状況でどうするー!』
どうすると言われても探すしかないでしょ!
周りで聞いていた人達も「どうなるんだ?」と慎二達の次の行動を見ていた。
「君が前田君なんだよね?孫は陽太は何処なんだ!?」
「待って、待って吉田さん!?今からしっかりと探しますから!」
雄二達のせいでは無いけど、そこは陽太君本人が来てよ!……ぐちぐち言ってても意味ないか、探すよ!
「スイッチオン」
そう小声で言い、「吉田さんが探している孫の陽太君」と頭の中で考えて何処にいるか「見てみた」。
そしたら………
「………吉田さん、1つ良いですか?」
「どうしたんだい?陽太は見つかりそうかい?」
「それはそうなんですけど……ちょっと質問にお応え下さい、違かったら謝りますが陽太君は人ですか?」
そう慎二は吉田に伝えた、今「見た」事が確かなのか確認をする為に……
「何を言ってるんだい?陽太は「犬」だよ?」
「………そうですか」
やっぱりかー!おかしいと思ったんだよ!桜田高校の近くの公園で陽太君?らしき人?が動き回ってるからおかしいとは思ってたけど……
慎二が「見た」内容は陽太が公園で遊んでいるという事だった。
別に子供が公園で遊ぶのは普通の事だが……「1歳の子供が1人」で公園で動き回りながら遊ぶのは不自然だと思い聞いてみたのだ、それに誰も陽太が「人間」とは一言も言っていないのだから。
よくその子?を「見て」見ると「犬」って項目が出るし……
「吉田さん、恐らく陽太君が見つかりそうなのでついて来て下さい」
「分かった」
その後は申し訳なさそうにしていた雄二達と吉田を連れてその公園に向かってみる事にした。
「おお、陽太!会いたかったぞ!」
「ワン!」
そう言って吉田さんと陽太君(犬)は感動の再会を果たして抱き合っていた。
「慎二…すまなかった……まさか犬だとは思わなくてな」
「ごめん慎二君!」
「あんなにも堂々と出来ると言ったのにこの様は、穴があるなら入りたいよ……」
吉田と陽太(犬)を見ていたら雄二達から謝罪された。
「いや、今回はしょうがないよ、僕だって始めは人だと思っていたからね……さっき昼休みの時に近くの公園で犬が遊んでいたって聞かなければ分からなかった事だし……」
公園で犬がいるって聞いたのは嘘だけど、なんで分かったのか聞かれたらややこしいからね。
慎二達はそう話し合い戯れている吉田さん達を連れて高校に戻る事にした。
『前田君達が戻って来ましたね、ん?吉田さんに抱かれているワンちゃんがいますね……もしやあのワンちゃんが陽太君?』
司会の愛田がそう言うと吉田が高校中に響くような声で謝罪した
「皆さんすみませんでした、陽太が「犬」だと言う事をすっかり伝えるのを忘れていました!……ですがここにいる前田君がしっかりと探してくれました……本当にお騒がせ致しました!」
その後は「まあ見つかったから良かった」という雰囲気になり、一瞬で見つけてしまった慎二の話題もまたうなぎ上りのように上がっていった。
そこからは愛田達と体育祭実行委員が話し合い慎二達は借り物競走を終わる事になった。
『えぇー、本来では借り物競走で走り終わらなければいけませんが、今回は色々とトラブルがあったという事で前田君はこれで走り終わったという事になります、そんな中、陽太君(犬)を見つけた前田君に皆様拍手を!』
愛田のその声と共に慎二に大きな拍手が送られた。
もう何でもいいからここから離れたい、恥か死ぬは!
「前田君、本当に迷惑をかけてしまったね、陽太(犬)を探してくれてありがとう!」
「ワン!」
と慎二に2人はお礼を伝えた。
「全然大丈夫ですよ……何てったって僕達は「ヒポット部」………「人助」を目的にしている部活なので!」
そう言い吉田達と別れた。
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