第65話 高校とバカと体育祭と⑤

 



 慎二は放送が流れて助かったと思った反面結衣達の事もどうしようかと考えていた。


  今来ないでくれと連絡入れたら間に合うかな?千夏さんはここの教師だからお昼をもし一緒にしたとしても何も言われないと思うけど……結菜さんと結衣ちゃんについては絶対何か言われるよね………


 そう考えた慎二は早速連絡してみる事にした。


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     前田家の楽しい家族たち


慎二:いきなりで申し訳無いのですが、結衣ちゃんと結菜さんはお昼高校に来ないでもらって良いですか?事情が出来てしまい……この埋め合わせは後日行います、お昼はこちらでなんとかしますので! 11:48


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「こんな感じで良いかな?お昼無しとなるとどうしようかな〜」


 桜田高校の中にある売店で何かを買うか、雄二達にお昼を少し分けてもらうか考えていた時メッセージが来た音がなった為見てみた……


「どれどれ、了承してくれたかなぁ〜………」



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    前田家の楽しい家族たち


慎二:いきなりで申し訳無いのですが、結衣ちゃんと結菜さんはお昼高校に来ないでもらって良いですか?事情が出来てしまい……この埋め合わせは後日行います、お昼はこちらでなんとかしますので! 既読 11:48


結菜:また女なのね……絶対に慎二君の高校に行くわ、逃げたら○す 既読 11:50


結衣:今家を出ました 既読 11:50


慎二:1回話を聞いてくれますか? 既読 11:53


結衣:今商店街にいます 既読 11:53



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「………‥」


 言葉選びミスったわ、結菜さんは逃げたらヤバそうだし、結衣ちゃんに至ってはメ○ーさんみたいになってるんだけど、これこの後後ろにいるとか言わないよね……


 慎二が次に来るメッセージに怯えていると美波と優奈に話しかけられた。


「お昼なのに何ぼっーとスマホなんて見てるのよ?」

「何かあったの慎二君?」

「いやちょっとね……」


 まずいな、今話しかけてこなくても良かったのに………


「この後何も無いならお昼一緒にしてあげてもいいわよ?」 

「慎二君、私達とお昼ご飯一緒に食べない?おかずとかも交換出来たら良いなと思ってるんだけど」


 2人共ありがたい申し出だけど、今はちょっと間が悪いよ……


「誘ってもらえたのはありがたいけど、ちょっと今から用事があってさ……」 


 慎二はお昼の誘いを断ろうとしたが、2人は逆に不審がってしまった様で。


「………慎二君、もしかしてこの後さっき木村君達と話していた、慎ちゃんという女性と会うんじゃ無いの?それか木之下君のお姉さんと会うんでしょ?だから私達といられないんでしょ?」

「いや、別に違うけど」

「その2人美人なの?」


 美人って……慎ちゃんの方は僕だから知らないけど、由紀のお姉さんの奈々さんはまあ、美人だよね?


「まあ、美人なんじゃないかな?」

「………‥」

「………悠木さん?無言であの激辛スプレーをかけようとするのやめてもらえるかな?なんでまだ待ってるのさ?……それに吉野さん?お昼のデザート様に持ってきたフォークは人に向けちゃいけません!」

「ほら、今はお昼なんだから落ち着きなよ?慎二君も何か理由があるんでしょ?」


 この場をどう収めるか考えていた時、服部が仲介に入ってくれてなんとか場は収まった。


「ハトケンありがとう!一度家に戻らなくちゃいけなくてね、お昼を忘れちゃってさ……」

「そうだったのか、でも言ってくれればここにいる皆で少しは分けてくれると思うよ?勿論僕もだけど」


 服部のその言葉に雄二達は頷いていた。


「ありがたいけど、申し訳なくてね……それに高校から家までそれ程遠くないから急いで取ってきちゃうよ」

「慎二君がそれで良いなら何も言わないけど」


 皆も納得してくれた様でやっと「F」クラスの待機場所から離れる事が出来た。


「危ない、危ない、あのままあそこにいて結菜さん達と遭遇でもしたらどうなってたかと思うと恐怖しかないよ……」


 慎二は早足で校門付近まで行くと結菜達との連絡のやり取りはどうなってるか気になり確認する事にした。


「メッセージをまた見るのは怖いけど大事な事が書いてあったら嫌だからね……」




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     前田家の楽しい家族たち


慎二:いきなりで申し訳無いのですが、結衣ちゃんと結菜さんはお昼高校に来ないでもらって良いですか?事情が出来てしまい……この埋め合わせは後日行います、お昼はこちらでなんとかしますので! 既読 11:48


結菜:また女なのね……絶対に慎二君の高校に行くわ、逃げたら○す 既読 11:50


結衣:今家を出ました 既読 11:50


慎二:1回話を聞いてくれますか? 既読 11:53


結衣:今商店街にいます 既読 11:53


結衣:今慎二さんの部屋の前にいます 既読 11:59


結衣:今慎二さんの部屋の中で…… 既読 12:05


結衣:今桜田高校駅前にいます 既読 12:13


結衣:今桜田高校近くにいます 既読 12:18


結衣:今、慎二さんの後ろに…… 既読 12:20


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 そこまで読んだ慎二の肩に誰かの手が置かれて………


「だーれだ?」


 と、目に手を当てられた。


 普段の慎二だったらまだ背の低い結衣は慎二の目線まで手が届かない事ぐらいわかる筈だがパニックを起こしていた慎二は完全に結衣だと勘違いして……


「ぎゃあーーーーー!?」


 と、叫び声を上げてしまい油断していた慎二は後ろにいる人物が結衣だと思いすぐさま逃げようとしたが、恐怖のあまりか体が竦んでしまいその場で倒れてしまった。


 なので倒れながらも全力で謝ることにした。


「ごめんなさい、ごめんなさい!結衣様!なにもやっていないんです!助けて下さい!お願い「ちょっと慎二君?どうしたのよ?」しま………へっ?」


 その場で土下座をしながら謝っていた慎二だが、結衣とは違う声が聞こえた為顔を上げてみたら、目の前に何故か綺麗な銀色の髪を靡かせる綾杉生徒会長がいた。


「綾杉……生徒会長?」

「そうよ?どうしたの?そんなに怯えて、何か怖い事でもあった?」

「生徒会長〜〜!!」

「ちよっ!慎二君!?」


 慎二はあまりの恐怖と安心感からか目の前の麗華に抱きついてしまった。


「慎二君!?嬉しいけど!今は周りの人も見てるからまた後で2人の時にでも…でも……あぁーー慎二君が私に抱きついて、えへ、えへへぇー、お持ち帰りしたい!」


 止めようと思っていた麗華もあまりの事態に興奮していた。


 だが、そんな事をやっていては収集がつかない為一緒に来ていた副会長の実里が止める事にした。


「ほら、2人共ここは皆見てるからそんな事しないの〜!慎二君も何があったかはわからないけど、ここから離れて話を聞くからね〜?」


 実里は恐怖で怯えている慎二と興奮が治まらない麗華を連れて生徒会待機室に向かう事にした。



「それで、慎二君は何であんなに怯えていたの〜?答えたくないなら無理に答えなくても大丈夫だけど……」

「いえ、しっかりと答えさせて頂きます」


 落ち着いた慎二は麗華から直ぐに離れて謝った後、実里に質問されたので今まで合った事を説明した。


「………という事があって知り合いが僕の肩を触ったと思ってしまい驚いて綾杉生徒会長に謝った上、安心して抱きついてしまいました、綾杉生徒会長本当にごめんなさい!」

「良いのよ慎二君、逆に嬉しかったし、もっとやってくれても……」

「麗華ちゃんは黙りなさい」

「………はい」


 お、おう、生徒会長が許してくれたのは良かったけど、なんか上下関係が知れた様な……


「由乃副会長もすみませんでした!……それで、お二人は何故校門前なんかにいたんですか?」


 さっきから慎二が気になっていた事を聞いてみる事にしたら、いつも通りに戻った生徒会長が教えてくれた。


「それはね、体育祭中でも盗難とか迷子とか色々あるのよ、だから私達生徒会と風紀委員で協力して高校内を見回っていたのよ、他の生徒会のメンバーも風紀委員の人達と回ってるはずよ」


 なるほど、体育祭中に大変だなぁ。


「そうだったんですね、お疲れ様です!僕達も暇な時があれば何か手伝いますからね?」

「それはありがたいわ、聞いてるわよ?貴方達の部活……そう「ヒポット部」でしたっけ?校内でもかなり人気の部活みたいよ?」

「私も聞いたよ〜何でも相談に乗ってくれるし、助けてくれる、手伝ってくれるって学年問わず人気よね〜」


 おお、良かった、評判がこれで悪かったらショックだからね……


「まあ、何かあれば連絡でも良いのでして下さいね!」


 慎二がそう言うと、2人は少し困った様な顔になってしまった。


「何かあったのですか?」

「まあ、ちょっと迷子が出てしまってね、もしかしたら慎二君達「ヒポット部」にも手伝ってもらうかも知れないのよ」


 聞いた話だと、体育祭を見に来た来場者の中に吉田さんというお爺さんがいて、お孫さんと体育祭を見に来たとの事だが、少し目を離したらお孫さんが居なくなってしまい、生徒会と風紀委員に迷子の相談に来たという。


「そんな事が、まだ見つかってないなら人手は必要だと思うので出る種目が無い時は手伝いに行きますよ!……今はまだお昼も食べられていないのでちょっと難しいですが、後で「ヒポット部」の皆にも伝えときます!」

「ありがとう、慎二君!まだお昼を食べていないのに引き止めてしまいごめんなさいね?」

「いえ大丈夫ですよ!」


 お昼の件は自分の問題だからね……


「こちらでも今から放送をかけてみる事になっているから、早く見つかると良いよね〜もう時間もあまり無いから慎二君はお昼食べて来ちゃいな〜」

「そうですよね、ではまた後で探す時は連絡入れますね!」


 そう副会長に言われたのでその場を離れようとしたが、まだ生徒会長から話があるのか止められた。


「慎二君、これは迷子とは別件なんだけどね、今私達と一緒に活動している風紀委員がいるって言ったじゃ無い?」

「はい、先程言ってましたね」


 何だろう?前変な場面を見た事を何か追求されるかと思っていたけど………


「その風紀委員の委員長の東雲真衣さんに少し気を付けて欲しいの、この頃「ヒポット部」それも慎二君について何か調べてるみたいだからさ」

「わかりました、多分会ったことは無いと思いますが、注意?しときますね、では!」


 やっとお昼にありつけると思い離れようとしたが……無理だった。


「慎二君」

「は、はい、何でしょうか?」


 何かヤバイ気がする……生徒会長さっきは声が明るかったのに今はフラットな声に変わってるんだけど……


「体育祭が終わったらこの前の埋め合わせしてくれるわよね?」

「う、埋め合わせですか?ちょっと何のことか、わからないですが……」


 絶対前生徒会室で変な場面を見た事じゃないか!?何としてもこの状況を抜け出さないと!


 そんな事を考えていた慎二だが、逃げ出せるわけもなく……


「ふーん?忘れたんだ?……埋め合わせしてくれるなら私達もあの事を忘れるけどどうする?…もし断ったら……」


 副会長怖いよ、さっきまでの間延びしてる声はどうしたの!それに断ったら何するのさ!?


「わ、わかりました!必ず体育祭の後お時間を作りますのでどうか、許してください!」

「なら良いよ〜、ね、麗華ちゃん?」

「そうね、何してもらおうかしら?」

「できる範囲でお願いします……」


 そう言い、やっとの事生徒会長と副会長から解放されたので、外に出てお昼をどうするか考える事にした。


「やっと解放されたよ……昼休みなのにどっと疲れたのは何故……もう昼休みも10分しか無いし……」

「………慎二さん」


 慎二がお昼の事を考えていたら、見知った声で自分の名前を呼ばれた事で思い出した。


 結衣達の件を……


 くそっー!次から次えと!生徒会長達とので件で完全に忘れていたよ!


 無視する事も出来ず、後ろを振り向いたら、ゴミでも見るかのような目をしてる結衣が立っていた。


 その目を見て慎二は怖気付きそうになったが、自分を叱咤して、気持ちを落ち着かせた。


 大丈夫だ落ち着け慎二、まだ巻き返せる筈だここは冷静に行こう、そうステイクール!


「やあ、結衣ちゃん!こんな所でどうしたんだい?ああ、お昼を届けに来てくれたのか!それに結菜さんはどうしたの?」


 どうだ?この相手に何も話させないで自分が聞きたい事を全部一気に伝えてしまう先方は?これなら結衣ちゃんも質問に答えるしか無いだろう!


 連絡をしていた時に一度結衣が慎二の部屋の中に入って何をやってたか気になったが今は辞めといた。


 だって聞いた後が怖いから。


「………私は慎二さんにお昼を届けに来ました、お母さんは急な仕事が入って来れないそうです」

「そうなのか、結菜さんは残念だったね、でもお昼届けに来てくれてありがとうね!」

「………‥」


 ん?何で結衣ちゃん無言なんだろうか?……それにお昼を届けに来たと言っても何も持っていないような……


「結衣ちゃん?お昼はどこにあるのかな?」

「作りましたが、慎二さんがふざけていた事をしていたのでそこら辺の学生さんにあげましたよ?」


 えっ?何もしてないよね?


「えっと、結衣ちゃん?僕は何かしただろうか?」

「………とぼけるんですか、私がせっかくお弁当を持って来ていたのに楽しそうに生徒会?の人達と話してたじゃないですか?全部見てましたよ?」


 嘘!?何処で見てたのさ!


 驚いた慎二だったが、出来るだけ顔に出さないように話す事を心掛けて結衣にそれは勘違いと伝えることにした。


「あはは、勘違いだよ、うん!」

「ここに証拠があると言っても?」


 結衣はそう言うとスマホを取り出したと思ったら、慎二が綾杉生徒会長に抱きついてる場面の写真があった。   


 それを見せられた慎二はこの世の終わりの様な表情になって動かなくなってしまった。


「………‥」

「帰ったら、話し合いがあるので寄り道しないで帰ってくださいね?し・ん・じさん?」

「………あい」


 慎二はこの後が怖くて生返事しかできなかった、結衣は伝える事を言ったらそのまま帰って行ってしまった。



『只今より午後の部を始めます、まだ席に戻って来てない人は速やかに戻って来てください』


 無情にも体育祭午後の部の始まりの放送が流れた。

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