第35話 高校とバカと聖書と訪問者と②




 雄二は皆で「聖書」を見るといったがその後に誰が「犠牲」になるとは一言も言っていない、そんな事を知らない慎二は仲間の事を信じ、雄二の合図を店の外で待っていた。


 雄二達が木戸書店の中に入って行く所が見えた、雄二達が入ってから5分程経ったので流石にもう良いかと思い、自分も店に入ることにした。


(どれどれ、おっ、丁度雄二達が結城さん達と話出したみたいだね、ここからはあまり聞こえないからちょっと近づいてみるか)


 近づいてみたら、こんな話がされていた。


「奇遇だな、吉野達もこの書店に本買いに来てたのか、偶然もあるもんだな」

「あら木村達も来てたのね、珍しいわねアンタ達が本屋になんて来てるなんて……それよりもあのバカは今日はいないの?別に?そんなに気にはなん無いけどアンタ達の中にアイツがいないとなんかおかしいじゃ無い?いつも4人でいる感じがしてたし」

「こんにちは木村君達!そうだね、前田君は今日来てないの?」


 やっぱり疑問に思われたか、僕達学校でもよく4人でつるんでるからな〜


 雄二達がちゃんと誤魔化してくれるかな?


「ああ、アイツもさっきまで俺達と一緒にいたんだけどな…どうしても……どうしても………」 


 そこで雄二が話を止めると吉野が訝しげに見てきていた。


「………何なのよ?アイツが何かしたの?気になるじゃない!勿体ぶらずに言いなさいよ!」


 吉野に急かされた雄二はついにある事を口にした。


「どうしても…「小さな女の子をナンパ」したいって駅の近くにある幼稚園に走っていっちまったんだよ!?……クソッ!俺達も止めたんだよ辞めとけって!なのにアイツは「もう同じ年齢じゃ嫌なんだーー!」って話も聞かず………くっ!」


 そんな事を店内の全員に聞こえるぐらいの声で身振り手振り言うと、悔しそうにしていた。


 それを聞いていた慎二は。


 おーい!何を訳のわからない嘘を盛りに盛って話してるんだよ!?誰がいつそんな事言ったのさ!絶対それ僕じゃ無いでしょ!?村上君あたりの勘違いだよ!


 それになーにが「くっ!」だ!内心絶対笑ってるだろ!?


 と、内心でキレていた、それでも今慎二が声が出せない事を良い事に言いたい事を雄二は言い続ける。


「なぁ、お前ら慎二はこう言ってたよな?」


 他の2人は僕を売る様な事しないでしょ、由紀もいるんだしね!


 そう思っていたが……


「「うん!そんな事言ってた!」」 


 普通に売りやがったー!?


 ねぇ嘘でしょ?友達って何?


 その時、いきなり寒気の様な殺気の様なものが慎二に伝わってきた。


「………そう、教えてくれてありがとうね木村!ちょっと今から探してその精魂を叩いて殺って来るわ!」


 絶対吉野さんのその「やって」のルビ違うでしょ!?やるって僕を○すって意味!?


「まあ、前田くんったら、ふふっ」


 そうだ、悠木さんがいたんだよ、あの子なら「天使」とか呼ばれてるし僕を救ってくれるはずだ、ほら!だってあんなにも笑って…笑って?……目が笑ってねぇー!?


 えっ、何?、怖!?何あの表情、顔は笑ってるのに目だけ凄い冷たい目してるんですけど!?あの目、光を通していないだと!!?


「前田君には本当に困っちゃうね、今からちゃんと「調教」しにいかなくちゃ、ね!美波ちゃん?」

「ええ、勿論よ「生まれてきた事を後悔」させてあげるわ!?」


 いやいや、これどうすんのさ!?「調教」とか「生まれてきた事を後悔させてやる」とか不遜なワード出てきちゃったよ!?


「ああ、頼むお前達だけが後は頼りだ!存分に殺ってきてくれ!」


 雄二ーーーー!?貴様、この事がわかっていて「秘策」なんて言ってやがったなー!?


 それにお前も「やって」のルビが違うだろ!絶対確信犯だよ!


 そんな時、騒がしかった店内に1人の店員の声が聞こえた、そのお方こそ牧ノ原先輩だ。


「すみませんお客様ここは他の方もいらっしゃるのであまり騒がしいのは……出来れば外に出て……


 流石牧ノ原先輩!そうだ言ってやれ!でもまだ雄二から合図がないな、今なら行けると思うけど……ん?なんで牧ノ原先輩話を止めて………


 ………私にも聞かせてくれないかしら?」


 なんでだよ!?仕事中でしょ!そこはちゃんと働いてよ!


「ヘェ〜貴方誰よ?前田のなんなの?」

「美波ちゃん、この人はうちの学校の生徒会に所属している先輩だよ、敬語使わなくちゃ!……でも前田君の何なのかは気になりますねぇ、何なんですかぁ?」

「私?私は生徒会で前田君と「良くさせて」頂いてるわ?貴方達こそ何なのよ?」


 おい、何2人共喧嘩腰になってるのさ、先輩も先輩でその2人に聞かなくて良いから!それに「仲良くさせて」でしょ!「良くさせて」じゃ、変に聞こえるじゃないか!


 その後、3人は何故か口喧嘩に発展しそうになっていたが、雄二が「そんな事をしていて慎二を逃して良いのか?」と言い、喧嘩は一旦治った。


 2人は慎二を探してくると言い、外に出て行ってしまった、牧ノ原先輩も店長らしき人に断りを入れて外に出ていった……


 3人を見送ると雄二がこっちに満面の笑みで振り向いたと思ったらサムズアップをしてきた。


 今直ぐにでも殴りてぇーーーー!


 そんなこんながあったがようやく慎二は「聖書」を購入することが出来た。


「やっと買えたよ……こんなに疲れるとは思わなかったよ」

「悪かったって!今度ご飯奢るからそう拗ねるなよ」

「慎二君ごめんな、こういう判断しか出来なかったんだ……」

「慎二君ごめんよ〜今度僕も何か奢るからさ!」


 皆一応反省してくれてるみたいだね、まあ当初の目的は達成されたから良いか……後が怖いけど。


「で、誰の家で見るの?」


 そんな事を言った慎二を皆が見てきていた、「一人暮らしなんだからお前の家で見るぞ!」と心の声が聞こえた。





 あの後直ぐに慎二の家に行って「聖書」を拝見する事になった、慎二の家に向かう途中も誰にも見られていないか充分確認して4人は慎二の家に入っていった。


「ふぅ〜、誰にも会わなくて良かったね!「聖書」を持って歩いてたから家に着く間はドキドキが止まらなかったよ」

「ああ、俺達はついていたな初めに1人の「犠牲者」を使い最大の敵を退けたから多分大丈夫だとは思ってたが案外アッサリと着いたな」 


 普通に雄二の奴僕の事「犠牲者」扱いにしてやがる……これからお楽しみがあるから許すけども、ちゃんと家の鍵も閉めたから準備万端だよ。


「楽しみだな皆がどんな趣味なのか!」


 そう言い「聖書」が入っている紙の袋を慎二達が一斉に開けようとした時……「ピンポーン」と家のチャイムが鳴った。


「‥‥‥‥」

「‥‥‥‥」

「‥‥‥‥」

「………おい慎二?お前の家だろ、誰が来たか出て来い、待っててやるから」

「嫌だよ!何かわからないけどこのまま居留守を使わないと終わる気がするんだよ!ねぇ皆一蓮托生でしょ!」


 そんな事を言っても皆は目を合わせてくれない。「もう皆なんて信用が出来ないこのまま動かずにいよう」と思った時、家のチャイムじゃなくドアの取手を訪問者はガタガタやり出した。


「慎二、居留守は良くないぞ一回で良いから確認して来い、インターホンで見れるだろ?」

「わかったよ、ヤバかったら直ぐに逃げて来るからね!」


 慎二がインターホンを見に行こうとした時鳴る筈のない音がなった、ドアの鍵が開く「カチャッ」という音が、その音が聞こえたと思ったら慎二達がいる二階への階段を誰かが登って来る音が聞こえた。


「え?ヤバイよ!?なんか誰か入ってきたんだけど!?鍵ちゃんと閉めたよ!どうしよう皆!」  


 慎二がそう言い振り返った時にはもう他の3人は諦めの表情をしていた。 



「………ねぇ何でいるのに居留守使ったの前田?」


 慎二が声が聞こえた方を向いた先には目のハイライトが消えた3人が立っていた。


「ヒィッ!?」

「それで何をさっきから隠しているの前田君?私達にもしっかりクッキリ見えるようにしてよ?何が入ってるか分からないよ?ねぇ聞いてるの?前田君?」


 慎二が動かずにいたら、直ぐ近くまで来ていた悠木が慎二の耳元で背筋が凍るような声を出して聞いてきた。


「うわぁぁー!?」

「前田君見せなさい、大丈夫そんなに怒らないからほら、ね?」


 そんな事を言う牧ノ原先輩だが、目はハイライトが消えていたので信用など出来ない。


「ちょ、ちょっと待ってよ何で僕だけなのさ!ほら皆も一緒だよ?」


 皆も一緒に犠牲にしようとしていたが、その願いは叶わなかった。


「木村達今日はもう帰って良いわよ?ちょっと今からやることあるから」

「わかった、今日はすまなかったな後は任せる」


 と言い僕を残して薄情にも3人とも帰っていってしまった。


「じゃあ、ボクもちょっと帰るから皆じゃあね!」 


 その流れで逃げようかと思ったが、当然の様に美波に腕を取られるんじゃないかと言うほどの力で止められてしまった。


「アンタの家はここでしょ?何逃げようとしてるのよ?それに胸に抱えてる物見せなさい、ロクでもない物だったら今直ぐにでも燃やしてあげるわよ?」

「これだけは、これだけは辞めて!僕の大事な物なんだ頑張って手に入れた物なんだだから見逃してくれ!」


 室内に慎二の声が響いた。


 これだけは譲れない、だって今日一日頑張って手に入れた物なんだから。


 そんな事を思い「死んでも放すもんか!」と「聖書」を守る様に蹲っていたが、悠木が近付いて来ると慎二に死の二択を言ってきた。


「じゃぁ前田君、その抱えてる物と前田君の命どっちが大事?」 


 悠木さんは案外恐ろしい事を言う、僕からしたら「天使」より「悪魔」の方が合ってると思う。


「………僕の命です」


 慎二は流石に自分の命と引き換えには出来ないのでしょうがなく渡した。


 その本の中身を見た瞬間3人の目はもっと冷ややかな目になっていた。


「………前田君これは流石に見逃せないわよ、徹底的な指導が必要みたいね」

「ええ、それもこれ18歳以上しか買っちゃいけないはずよ、法律も理解出来ない程バカなのねアンタ」

「前田君、今回は擁護出来ないよ?それに前田君にこんな物必要無いでしょ?」

「………はい」


 その後3人からの徹底的指導が行われ慎二が買った「聖書」は目の前で燃やされた、これを機にもう二度と買わないと誓った。

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