第32話 高校とバカとレクリエーションと②
今まで一言も喋らなかったが気怠げに皆の前に来たと思ったらこう言った。
「お前らじゃ相手にならねぇだろ、後は俺一人に任せろ、わかってるんだろ村上?俺が本気を出せば、どうなるか?」
「っ!まさか宮ノ内お前アレを使うのか?辞めとけ!取り返しのつかない事になるぞ!……それでも、やるのか?」
そんな話をする村上達に体育館内の生徒達が今から何をやるのか気になった、普通はこのままやれば勝てるはずがない、だがこの雰囲気はこの後何かが起こると思わせた、その為固唾を飲んで見守る事にした。
「ああ、俺がやらなくて誰がやる!……「俺に勝てるのは、俺だけだ」!」
なんかその言葉何処かで聞いたことあるぅ!?これヤバイよ!消されるよ!?何かかは言わないけども……
慎二が内心宮ノ内が言った言葉に恐怖を覚えていると試合が始まっていた。
「久しぶりだなぁボール触ったの、まあ久々に楽しめるかなぁ……行くぞ!」
そう叫ぶと宮ノ内君は2年生のゴールに向かって………ドリブルをやらずにボールを胸に抱えて走って行った……
「ピピピピピーーーーー!!」
審判の笛が体育館中に響きわたった、宮ノ内はそれでもボールをゴールに入れようとして先生達に取り押さえられていた。
その光景を見ていた慎二は頭を抱えたい思いで一杯だった。
(頭が痛くなって来たよ……それ、もう反則じゃん……村上君が言っていた「取り返しのつかない事」ってそのままの意味だったのかよ)
第一Qはそんなこんなで2年「A」クラスが6点、1年「F」クラスが0点で終わった。
◆
誰もが思った、こんな点数差で勝てるわけが無いと。
やはり「F」クラスは馬鹿ばかりの集まりだと思い始めた、慎二のクラスメートもそうだ勝てるわけが無いと考える生徒しかいなかった「ある2人」を除いて。
慎二達は5分間のインターバルの中でチーム編成を考えていた、だが他のクラスメートはやる気がもう無かった、第一Qでふざけていたとはいえ手も足も出なかったのだから。
「皆、次でこの試合は最後になるけどこの後は僕と雄二が出る、宮田君と宮ノ内君は何をやるかわからないからすまないが抜けてくれ」
そんな事を慎二が皆に話していたら村上が慎二に謝ってきた。
「前田本当にごめん!俺達で本当に行けると思ったんだ…だが相手側は全員バスケ経験者か現バスケ部だ、いくら前田と木村が入ったって勝てるわけねぇよ」
周りも村上と同じ反応だった、無様に負ける「未来」が決まっているならこの試合を棄権して辞めた方がまだ楽だと。
現に他のクラスや上級生に「やっぱり「F」クラスはねぇ」や「俺達を笑わせる為だけに来たのかよ」と言われている、これ以上恥ずかしい思いはしたくないと思ってる時、能天気にこんな事を雄二がこの体育館中に聞こえるほどの声で行った。
「おいおい、慎二俺達馬鹿にされてるぜ?このまま終わりってわけじゃねぇよなぁ?勿論何か考えてるんだろ?だってお前さっきからいつものアホヅラしてないもんなぁ」
と、楽しそうに話している雄二の声に周りにいた生徒が気になり慎二の顔を見てみた、まだ付き合いは短いが慎二はいつも人生にくたびれたような何もかもがどうでもいいような間抜けな顔をしていた、だが今は違う、今まで見た事のない真剣な表情で前を見据えているのだ。
そんな事を雄二に言われた慎二は……
「当たり前じゃないか?誰が負けるって?棄権するって?僕をバカにしてるの?勝てるに決まってるじゃん。それにここから逆転するのが楽しいんじゃないか?怖気付くのは早いでしょ?」
何を「バカな事を聞くのか?」という様に吐き捨てた。
その慎二の顔を見た時、体育館中の人間が何か得体の知れない物に手を出してしまったと言う感覚に陥った。
だってこんな状況なのに満面の笑みで笑ってるのだから、そんな慎二に声をかける生徒がいた。
「おい1年!流石にこの点数差と残りの時間じゃどうにもならないだろ?棄権しとけって」
それは福田兄弟の兄福田空だった、多分この先輩は善意で言ってるのだろうだが、今は間が悪い踏んではいけない逆鱗に触れてしまったのだから。
「先輩、ご忠告ありがとうございます!でも僕達の心配より自分達の心配した方が良いですよ?今から僕達に手も足も出ず負けるのだから」
その話を聞いて2年生は負け惜しみだと思った、ただ先輩に向かってこの態度はよろしくない為教育の一環でこのバスケで叩きのめす事にした、だって「普通」ならこちらが勝てるのだから。
慎二のクラスメートは本当に勝てるのか?と思ったがもう慎二にかけるしか無かった為全て任せた。
「皆聞いてくれ「普通」ならこの試合は僕等の負けだ、だが僕の言う言葉を「信じて」くれたら確実に勝てる、僕にはそのビジョンが「見えてる」のだから」
慎二は第一Qが始まる前から小声で「スイッチオン」と言い「見て」いた、その事をチームメンバーに教えその通り動いて欲しいと伝えた。
「それでね、始めなんだけど皆は僕の後ろで待機して僕が6点取るまで待ってて欲しいんだ、ああ大丈夫一瞬で取っててくるからさ!」
「はあ、何やるかわかるねぇけど俺はお前を最初から「信じてる」からそんなの言われなくてもわかってるわ」
雄二の言葉を聞き他の皆も分かったと言って慎二の事を「信じた」、始めようか本当のバスケを。
「えぇー第一Qでは色々ありましたが今から行う第二Qで勝負は決まります、延長戦は行わない為頑張ってくれ!」
「では、始め!」
始まりの合図と共に慎二は2歩下がって無造作にボールを投げて元の位置に戻った、ただそれだけだった、空中を回るボールはやけに長い間空中で回っていた感じがした、皆がその違和感に気づいた時にはゴールに入っていた。
誰もが思った……今何をしたのかと、慎二に言わせればただ投げただけとその一言が返ってくるだろう。
「A」6ー3「F」
2年生は焦っていた、今のはまぐれだとだから速攻で攻める事にした、なのに何で目の前にいるんださっきまでゴールの近くにいただろう、そう思っていたら慎二にボールを取られまたスリーシュートを決められた。
「A」6ー6「F」
たった1人の生徒、たった数分で同点まで持っていかれてしまった、体育館内にいる人々も何が起こっているか分からず声も上げることが出来ず唖然としていた、そんな中慎二だけはいつものように笑っていた。
「皆、これで同点だよ!まだ時間は「一杯」あるんだ楽しもうよ!」
そこからは一瞬だった、慎二達が攻めたら必ずチームメンバーの誰かにボールを的確に渡しそのチームメンバーがポイントを取り、2年生が攻めてきたら直ぐに慎二がボールを奪い点を入れる、ただそれだけの流れ作業になっていた。
第二Qが終わる頃には2年生の心の中には絶望しか無かった、自分達は年上なのに本当に手も足も出なかった、何なのだあの生徒はあんな生徒がいるなんて知っていたら、勝負など最初からしていない。
「A」6ー35「F」
「………勝者は1年生「F」クラス!誰が予想したか、ある1人の生徒の起点で逆転をしてしまいました!頑張った生徒達に大きな拍手を!」
審判がそう言った瞬間止まってた時間が動き出したように体育館中で歓声が上がった、中には「見直したぞ!」やら「あの1年生カッコ良くない?」や「凄すぎて途中から息していなかった」など最初ではありえない称賛の言葉が「F」クラスに送られた。
無事勝てた事に安心していた慎二の元に「F」クラスのメンバーが押し寄せて胴上げをした。
「君達、いきなり何さ!?疲れてるんだから下ろしてよ、ねぇ聞いてるの!?」
そんな事を言う慎二にはさっきの面影は無かった。
「皆お前のお陰で勝てて喜んでるんだろ、そのぐらいはさせてやれ俺も楽しかったしな!」
「前田君、君本当に運動神経良いんだね?でもあれはそんなレベルじゃ無いような気がするが、勝てた事は喜ばしい事だね!」
「本当だよ!ヒーローがいたらこんな感じなのかなって思ったよ!」
慎二は思った、疲れたし騒がしいから早くこの場から逃げたい、でもやっぱりこんなふうに騒ぐのは楽しいなと。
「美波ちゃん、ボケーと前田君の事見てるけどどうしたの?好きになっちゃった?」
「は、はぁ!?だ、誰があんなバカ「好き」になるのよ!優奈あなた目の病院行ったほうが良いわよ絶対!」
そんな事を言っている親友だが誰が見ても顔を真っ赤にしてるのがわかる、だけど今はそっとしておく事にした、だって……
「じゃあ、私「好きに」なっちゃおうかなぁ?前田君いつもとギャップあってカッコ良かったじゃない?」
「ッ!辞めときなさい!あなたは騙されてるの、優奈はもっと良い人の方が良いわ!そうあの、見つければカッコいい人なんて沢山いるから!ね?」
と、支離滅裂の事を言う親友を可笑しく思ってしまった。
だって私を遠ざけるようなことを言う時前田君をチラチラ見てるんだから、それが「好き」って思う気持ちじゃ無いとおかしいじゃない、と。
「ごめん、ごめん!冗談だって!カッコ良いなぁとは思ったけど「好き」にはならないかなぁ?」
「そっかぁ〜良かった〜……べ、別にアイツを好きじゃ無いのが分かったから良かったって言ったわけじゃ無いわよ!?」
「分かってるって〜」
女性達はこんな話をしてるのだ。
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