第19話 閑話 笹原結衣&笹原結菜①



 私の名前は笹原結衣。今は小学4年生でお母さんと2人で暮らしています。  


 お父さんは2年前に交通事故で亡くなってしまい、お母さんはそんな中、一人で私を育ててくれました。私もあまり迷惑をかけない様にと自分で身の回りの事とかは出来る様にしました。裕福とは言えませんでしたが笑いの絶えない家族だったと思います。


 でも、そんな暮らしは長く続きませんでした。ある日からお母さん宛に迷惑電話や嫌がらせの手紙が届く様になりました。


 最初はそんな物もお母さんは気にしていませんでしたが、毎日鳴る電話、嫌がらせの手紙が届く度にお母さんはいつの日か疲れの溜まっている様な顔をする様になりました。


 私は心配になったので、「一度病院で見てもらった方が良いよ?」と言いましたが、お母さんは「大丈夫」と良い、私の話を聞いてくれませんでした。


 その話をしてからの次の日、私は小学校から帰って来てお母さんが帰ってくるのを待っていました。いつもなら遅くても夜8時には帰ってくるのに今日に限って9時になっても帰って来ませんでした。お母さんが働いている会社の電話番号は知らなかった為、連絡をする事も出来ませんでした。


 夜10時近くになった時に家の電話が鳴りました。お母さんには「あまり電話は出ては駄目だと」言われていましたが、もしかしたらお母さんからかけてきた可能性もあった為、その電話に出る事にしました。


『もしもし?笹原さんのお宅でよろしいでしょうか?私は小倉病院の高橋と言いますが、今大丈夫でしょうか?』

「はい、私は笹原結衣です」

『もしかして笹原結菜さんの娘さんですか?』

「そうです。お母さんがどうかしましたか?」


 結衣は母の名前が出た為聞いてみたが、電話をかけてきた高橋と言う女性は少し言い辛そうに教えてくれた。


『その……大変言い難いのですが、お母様は仕事先で倒れてしまい、今は病院にいます。恐らく原因は……ストレスから来る疲労かと思います』


 電話でそんな事を言われ、病院でお母さんが仕事先で倒れてしまい救急車で運ばれた事を知りました。


 直ぐに電話を終えた結衣は結菜の元に今直ぐでも向かいたかったが、移動手段が無く、諦めるしか無かった。


 今すぐ病院に行きたかったのですが、もう夜も遅く移動手段が無かった為、明日行く事にしました。


 朝になり小学校の担任の先生にお母さんが倒れてしまった事を連絡したら病院まで私を連れてってくれる事になりました。


「お母さん、何も無いと良いね」

「はい、そうですね……先生も送って頂きありがとうございます」


 先生とは別れ、直ぐに先生の元に向かう事にした。


 ただのストレスと言っていたが、仕事先で倒れるぐらいだ、「やっぱりあの時しっかりと私が言っていたら」と……そんな事を考えながらお母さんがいる病院の扉をノックした。


 中から声が返ってきた為、部屋に入った。


 そこには少し顔色は悪かったが自分の母親がベットに腰掛けていたので近くに寄った。


「お母さん。倒れたって聞いたけど大丈夫なの?」

「ごめんね、結衣ちゃん。心配かけたよね?先生のお話しだとストレスが溜まっていただけらしいの、1週間か2週間で退院出来るらしいんだけど、その間結衣ちゃんが1人になるのは心配だからお母さんと一緒に病院で少しの間過ごさない?」

「そうしたいけど、学校に行かなくちゃいけないよ?今日は病院に来る為に担任の先生に言って学校を休みにしてもらって病院まで送ってもらったの、明日からはまた普通に学校あるし」


 そんな事を伝えたら、お母さんからさっきその事で連絡が来た事を私に話してくれた。私が来る少し前に先程別れた先生から連絡があったらしく、家の事情で何日か休む事を学校に連絡してくれたらしい。


「わかった。なら、お母さんが良くなるまで一緒にいるね?「約束」だよ?絶対に良くなって、またどこか行こうね!」

「うん。「約束」だね?また一緒に何処か行こうね。ずっと一緒だからね、結衣ちゃん」


 母と娘はそう「約束」し合ったが運命は残酷だった。


 母の体調は一向に治る気配は無く、衰退していった。


 お母さんが病院に入院してから丁度2週間が経った。2週間ぐらいで治ると言っていたが、一向に体調は良くなっていない、その間私達を心配してか色々な人が見に来てくれて励ましの言葉をかけてくれた。嬉しかったけど結局誰も助けてくれなかった。


 「助ける」と言ってくれた人も中にはいたが、少し経つとその人達に不幸な事が起きて一人、また一人と私達の元から離れていき、結局誰も残らなかった。中にはそんな私達の事を「不幸体質」と言い、「近づくと幸運が逃げていく」などのありもしない事を言い、その噂が流れて誰も近寄らない様になってしまった。


「お母さん、いつ、病気治るの?」


 そう聞いてもお母さんはただ、「大丈夫、大丈夫」と言い続けるだけだった。


 そんなある日、話し相手がいないから、屋上に行って本を読んでいた時だ。一人の男性が「私のお母さんを探してるけど知らないか?」と話しかけて来た。最初は警戒したがその人は私達を心配して見に来てくれたのが目を見ればわかった。


 でも、この人もまた「私達」のせいで「不幸」になってしまうと思い「関わらないで下さい」と言った。


 こう言えば殆どの人が離れていくからだ、でもその男の人は違かった。私の目を見ていたと思ったらいきなり絶望した様な表情になってしまった。


 私はその事が分からなかったが、近くにいても不幸にしてしまうだけだと思い、その男性の所から離れていった。


 でも……一体何があったのだろう?そんな事を考えたが、あの人も「他の人」と同じでもう私達の前に現れないと思っていた。


 男の人が現れてから2日程経っただろうか?いきなりお母さんから「今度手術をすると言う話を聞かされた」。ただのストレスではなかったのか?もしかしたらかなり酷い病気を患っていたのでは無いか?もうお母さんとは会えなくなったらどうしようと思い泣き崩れてしまった。


 そんな時、病室の扉がいきなり開いて、前あった男の人が入って来て私達に伝えてきた。


 何があろうと自分が「助ける」や「守ってみせる」など「出来もしない事を」言うのだ。そんな男の人に私は「私とお母さんの時間を奪わないで!」といったが、男の人はめげずに「真剣な目」をして土下座をしたと思ったらどうか「信じて」欲しいと言ったのだ。


 そんな男の人の話しを私とお母さんは信じてみる事にした、だって、こんなにも私達の事を考えて言ってくれるのだから、その後手術の日になった時今回手術を担当すると言う先生がこう言い出した。「今回の手術は何があっても必ず成功します」と。


 その後直ぐにお母さんの手術は始まった。待合室で待っていたら親戚の叔父さんの「中井孝雄」さんが私の所に来て励ましの言葉をかけてくれた後に「今後の話をしたいからついて来てくれ」と言われた。


 一瞬迷ったが、この優しそうな叔父さんなら大丈夫と信じてしまい一緒についていった。それが後悔の始まりだとは知らずに。


 どこに行くかは聞かさらていなかったが、車で30分程揺られた。車が止まった場所は周りに何も無いプレハブ小屋だった、「ここで何を話すのだろう?」と思っていたら叔父さんに「こっち来て」とプレハブ小屋の中に案内された。


 そこから叔父さんは本性を現した。前までは優しい人だと思っていたが、今は違う。イヤらしい目で私を見て来たと思ったら私を犯罪に巻き込むなど言うのだ、その時この状況はヤバイと思った時にはもう手遅れだった。叔父さんの仲間だという大人が沢山出てきて私の退路を塞ぎ、私自身を取り押さえて来たのだ。


 逃げたかった。でも大人と子供じゃ力が違く身動きが全く取れなかった。


 その時に「ああこれで終わりなのか……もう外の世界に出れないのか」そう思ってしまった。


 自分でも何回か思うことはあった。こんな状況を覆す様な正義の味方か白馬に乗った王子様が助けに来てくれると、でもそれは所詮夢物語で現実ではそんな人物は存在しないのだ。もう駄目だと思った時あの男性が来た。


 私達を「助ける」や「守る」といった男性「前田慎二」さんだ。私達を励ますだけの「嘘」では無く本当に助けに来てくれたのだ。そんな彼を見て涙を流してしまった。自分達を助けてくれる人はいたのだと。


 だが、前田さんは一人で助けに来たみたいだ、流石に無理だと思った。大人がこんなにともいるのだから、でも前田さんはそんな事関係ないという様に持っていた木刀を振り回し私の所に直ぐに駆けつけてくれた。


「大丈夫!僕が何としても君を守るからさ、信じてよ!意外と僕も強いんだぜ?」


 と、私に優しくも真剣な目を向けそんな事を言われた時、何故かわからないが胸がズキリと痛んだ。これはなんなのでしょう?


 でも、やはり前田さんがいくら強くてもこの人数には勝てる筈が無かったのだ。そんな中、前田さんはまだ勝てると信じてる目をしていた。でももう私のせいで傷つくのを見ているのは嫌だった為「私を置いて逃げて下さい」と口から出た。


 そんな話を聞いた叔父達は「どちらも逃す訳ないだろ」と笑い出した。でもその話を聞いた前田さんも何故か笑っていた。私もビックリしていましたが、叔父達は薄気味悪いものを見たような顔をしていた。そんな時、前田さんが声を発した。


「いや、悪い。この状況じゃ笑いたくもなるさ?だってあんたらもう終わりだからな。僕は勝てなかった。でもな?僕は勝つ必要がないんだよ?あんたらはこの意味がわかるか?本当は勝ってカッコイイ姿見せたかったけどこれが僕の「役目」なんだからさ」


 そう、前田さんが言った直後形勢が本当に逆転してしまった。あちこちから前田さんの仲間だと言う人が現れたと思ったら本当に一瞬で叔父達を懲らしめてしまったのだ。


 その時に言われた言葉は今でも覚えている。


 「君の為に来てくれたんだよ。勿論僕もそうだけど、あまりカッコイイ所見せれなかったなー。あ、後私の為なんかなんて言っちゃダメだよ?そう言う時はこう言うんだよ、ありがとうとね!」


 その言葉を聞いて「ありがとう」と直ぐに出た「でも前田さん。あなたが言ったことは間違っています。だってあなたが誰よりも一番カッコ良かったのですから」……そんな事は思っても恥ずかしくて言えなかった。


 叔父達を取り押さえ終わったのか前田さんのお仲間さんはこっちに来て前田さんに絡み始めた。でもそれは悪い事じゃなくて皆楽しそうでした。そんな中、私と前田さんがイチャ付いていたと言う話が上がり私の頭から煙が出るほど真っ赤になってしまいました。


 ですがその直後前田さんが「僕はロリコン」では無いと言う言葉を言った時、何故か残念な気持ちになってしまいました。さっきから私はどうしてしまったのでしょうか?


 そんな事を考えていたら、助けに来てくれた女性達が私の耳に手を当ててこう言って来た。「お嬢ちゃん、前田君の事が好きになっちゃたんでしょ?」と、その言葉は簡単に私の心の中にストンと入って来た。


 その時に気付いた。そうか、そうだったのか。この気持ちは「好き」と言う気持ちなのか、小学校の同級生にはこんな気持ちは持ったことは無かった。「親愛」では無く「愛してる」の「好き」を。


 この時私は初めて「初恋」を経験したのだ。


 でもそれを知っても前田さんとは年も違く初めの印象が悪すぎる。この「恋」は実らないのでは?と思ってしまった。そんな私を見て女性達はこう言った。


「歳なんて関係無いさ。その人をどれだけ想っているかで決まるのさ?それに恐らくだけど今後前田君にそんな思いを持つ子は沢山現れると思うよ?だってあの子、本当にいい子でなんかほっとけない雰囲気が出てるんだよね。今の内に唾を付けとかないと誰かに取られちゃうよ?……それでもいいのかい?」


 「そんなの嫌だ!取られたく無い!」そんな思いが心から湧いて来た。ああ、やっぱり私は前田さんの事が「好き」だったのか。


「その顔を見る限りでは自分の気持ちにハッキリしたみたいだね!これはおばさんからの小言だけどね。前田君は多分簡単に想いに気づく子じゃ無いと思うの、過去に何かあったのかそういう気持ちに蓋をしちゃってるみたいでね。だから、しっかりと想いを伝えてグイグイと攻めなさい?私達はあなたを応援してるよ!」


 そう言うと女性達は結菜の頭を撫でていた。

 

「ありがとうございます!私、頑張ってみます!前田さんに振り向いてもらう為に!」


(ふふっ、待っていて下さいね!前田さん。私無しじゃ生きられない体にしてあげますよ!)


 そんな風に思い慎二を見たら、「ん?」と何もわかっていない顔をしていた。


(これは手強いかもですね。お母さんに後で聞いてみますか、男の人の落とし方を……)


 こうして笹原結衣は「恋」を知ったのだ。

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