第20話 閑話 笹原結衣&笹原結菜②




 私は「嘘つき」だ。


 自分の娘にすら本当の事を、気持ちを伝えられないのだから。


 ある日、私はいつも通り会社に行き仕事をしていた。少し体調が悪い気がしたが気にせず仕事をいていた。


 でも、それが悪かった。私が気づいた時には病院の病室で寝ていた。


 看護師さんに聞いた話だと会社でいきなり倒れたと言う。そんな私を救急車でこの病室まで運んだと言う。初め自分の事よりも娘の事が心配になった。だって今もまだ何も知らず一人で家にいるのだから。


 そんな事を話したら、「もう夜なのでこちらからお電話して明日娘さんに病院に来てもらう様にします」と教えてもらった。その後は今の自分の状況について説明してくれた。当初ストレスが溜まって倒れただけだと思っていたが「癌」に自分の体が侵されている事を知った。


 次の日、娘の担任の先生から連絡があり今病院に連れて来てくれたと言う。


「先生、娘を送ってくださりありがとうございます。その、学校とかどうなりますか?」

『学校なら私の方から何日か休むと伝えときますよ。娘さんもお母さんがそんな状況じゃ学校生活もままならないと思いますからね』


 そう言ってくれた。でもなんでこう不幸ばかりが重なるのか、私はどうなっても良い。でも、私がいなくなったら娘は、そんな事を考えていたら娘の結衣ちゃんが病室に入ってきた。


「お母さん。倒れたって聞いたけど大丈夫なの?」

「ごめんね結衣ちゃん。心配かけたよね?先生のお話しだとストレスが溜まっていただけらしいの、1週間か2週間で退院出来るらしいんだけど、その間結衣ちゃんが1人になるの心配だからお母さんと一緒に病院で少しの間過ごさない?」


 そう言った。娘に本当の事を言える勇気も無かった。だから、悲しませたく無いからたった一人の家族に「嘘」をついた。


 2週間経ったが自分の病気は治りそうに無かった。そんな時娘からこんな言葉を言われた。


「お母さん、いつ病気治るの?」


 私はそんな言葉にただ、ただ、「大丈夫、大丈夫」としか言えなかった。


 そんな事があった後ついに私の「癌の腫瘍の摘出手術」を行う事になってしまった。その時に医師に言われた事が、「この手術は成功しても半分の確率も無いでしょう」と、「それでも手術をしますか?」と言われた。


 私はそれでも手術を行う旨を伝えた。治るかも知れない望みが少しでもあるなら賭けてみたかったからだ。


 病室に戻ると結衣に結菜は今までの事、これから手術をする事を話した。


 でも、結衣ちゃんに手術の事をその時初めて話したら泣かせてしまった。それはそうだ、手術までする様な事だと思ってなかったはずだから。


 そんな話を結衣ちゃんとしていた時、病室が開き、ある男性が入ってきた。私は会った事はないが結衣ちゃんが一度話した事があるそうだ。


 その男性は「助ける」や「守ってみせる」と言っていたが、結衣ちゃんはその男性に向かって「私とお母さんの時間を奪わないで!」と泣きながら言っていた。でもその男性はめげずに土下座をしながら「どうか僕の事を「信じて」欲しい」と言うのだ。


 私と結衣ちゃんはその目を見た時「信じて」見ようと思った。だってこんなに見ず知らずの私達の為に土下座までして伝えて来てくれたのだから。


 その後は直ぐに手術の日になった。驚いたのが前回私に手術の件を伝えて来た先生では無かった為だ。


 その先生はこう言った。「あなたは必ず治ります!ある少年がそう「信じてる」のだから」と、その話を聞いて直ぐに思い浮かんだ人が私達の病室に来た「前田慎二」君の顔だった。


 何故だかわからない。でもその話を聞いたら少し気持ちが楽になった。これなら手術にしっかり挑めると。


 その後は集中治療室に入り、手術を受けた。





 私は目を覚ました。まだ体調は少し悪いが今まであった体の不快感が無くなっているのだ。近くにいた先生に聞いたら「あなたの御病気は完治しました。私自身もビックリしています。でも「信じて」良かった、彼のことを。「奇跡」とは本当にあるのですね」と。


 私はその言葉を聞いて泣き崩れた。本当に本当に治ったのだと、これで結衣ちゃんを一人にしないで済む、前田君になんてお礼を言えば良いのか、そんな事を考えていたら、結衣ちゃんが病室に入ってきた。


「お母さん、お母…さん……もう良くなったの?どこにもいかない?」

「うん、もうお母さん元気になったの、どこもいかないよ、ずっとこれから一緒にいられるの」

「本当?お家だけじゃ無くて、お外で遊んだり、デパートに行ったり出来る?」

「当たり前じゃ無い!今までごめんね、病気になったからと言って結衣ちゃんに全然構ってあげられなかった!私はお母さん失格よ」

「失格じゃ無い!だってちゃんと病気治すって約束守ってくれたもん!だから、だから、もうどこにもいかないでね?」

「うん、うん、もうどこにもいかない、これからは一緒だよ結衣ちゃん、幸せになろうね」


 そう話して泣きあった。その後これまであった事を話してくれた。叔父「中井孝雄」に嵌められそうになった所を前田君に助けて貰った事、叔父は逮捕された事、それに結衣ちゃんが前田君を「好き」になった事。


「そっかぁ、結衣ちゃん。前田君の事を好きになったのね。それは良い事ね!でもね、おかしいの。こんな事を考えちゃ駄目なのに私も……前田君の事を「好き」になっちゃったのよ」

「えぇー!?お母さんも「好き」になっちゃたの?その、それは「結婚」したいとかの「好き」?」


 結衣にそう聞かれたが、そこは嘘をつく事をなく話した。


「そうよ?それにいつか私も結衣ちゃんの為に再婚しようと思っていたの……でも2人共知ってる人だったら、良いでしょ?前田君は26歳のおばさんでも、大丈夫かしら?」


 結菜何その話をすると、娘の結衣は駄々っ子の様に暴れ出した。


「駄目、駄目!いくらお母さんでも前田さんは渡さない!」

「あらあら、本当に「好き」なのね。じゃあこれならどうかしら?私と結衣ちゃん2人で前田君を落とすの!そうすれば皆一緒にいられるでしょ?」

「………うん。それなら良い!じゃあさ!じゃあさ!今度お母さんが退院出来たら前田さんの家に行ってビックリさせようよ!それで一緒に過ごす様になればとても良いと思うの!」

「そうね、でも後何日後かになりそうかしら?それまでに色々考えましょうね?」

「うん!」


 そんな事を言っている結衣ちゃんがとても可愛かった。だけどね結衣ちゃん。私は「嘘つき」なの。先に前田君を私のものにしちゃったらごめんなさいね?


 そんな事を考える笹原結菜だった。その性格はかなり重い性格の持ち主だった。


 これから巻き起こる事を知らずに慎二は過ごして行くのだった。

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