第18話 閑話 表彰と②




 桜田警察署には家から30分ぐらい歩いて着いた。自転車を持っているから乗って来ればもっと早く来れたと思うかもしれないが、高校にもまだ入学していないのにいきなり制服姿で自転車を乗っている自分を想像したらシュールだった為、辞めた。


「なんか警察署って何も悪いことやってないのに来たら、自分が悪い事をしたから見たいに見られそうだよね?何もやってないけど」


 変な事を考えないで、堂々と行くかな?多分窓口?みたいな所に行けば良いのかな?


 そう思い、窓口に行って受付のお姉さんに聞いてみた。


「あのー……今良いですか?なんか感謝状?表彰状?か渡したいから来て欲しいって言われたんですけど」


 その言葉を発した瞬間警察署内は一度ピタッと時間が止まった様な感覚がした。


 気のせいだよね?


「は、はい!あの宜しければお名前をお聞きしても宜しいでしょうか?」

「あっ、そうでしたね。前田慎二と言います!」


 名前を伝えた瞬間受付の女性は目を輝かせながら慎二を見てきた。


「貴方が前田さんなんですね!警察署内で今凄い有名なんですよ!50人以上の人を従えて、なんでも一人で20人の大人達に大立ち回りをして少女を犯罪者から救った上にそのお母様の御病気も直したと!」


 いや、大袈裟になり過ぎなんですけど!?誰そのスーパーマンみたいな人!?絶対違う前田さんだよ!?それにさっき警察署内が止まったような気がしたのあれ本当に僕のせいだったんだね………


「いや、あの僕そんな事してないんですけど……多分違う人だと思いますよ」


(そうだ、そんな凄い事なんてしていない多分僕以外のあの場にいた人が適当に広めたんだろう、全く迷惑な事を……注目されちゃったじゃん!)


 そんな事を考えていたら、警察署内の奥から慎二の言葉を否定する声が聞こえた。「慎二の事を否定では無く、慎二の言葉をだ」普通逆じゃない?とそちらに向いたらなんか見たことある人がいた。


「謙遜が過ぎるぞ前田君!君は本当にそれ程の事をしたじゃないか!我々は全員見ていたぞ、なあ、お前ら!」

「はい所長!彼はまだ学生でありながら少女とそのお母様を救う為に自分の身を削ってまで何としてでも助けようとするその姿はとても憧れました!自分もああなりたいと!」


 他の皆もその言葉に全員同意していた。目を見たらわかる。少年がプロの野球選手が目の前にいた時にする目だった。


(色々とおかしいでしょ!?さっき所長って言われてた人結衣ちゃん救出作戦の時に鈴木さんが連れてきた警察官じゃん!なんて人連れてきてるんだよ……)

 

 しかも一瞬冗談かと思い心の中で「嘘」をついてるか見たら、全員本当の青色になるし、そんな事を考えていると最初窓口で会った人に声を掛けられた。


「やっぱり本当の事だったじゃないですか!すみません、握手して下さい!」

「ああ、はいどうぞ」


 いや、もうどうでも良くなるよ。何を言っても聞いてくれなさそうだし、その内「こいつそこまでじゃ無くね?」って思われるよ、その時が一番怖いんだけど!?


 その後、色々な人と握手をしながら案内人の後から表彰をする会場まで来た……いや、は?人いすぎじゃ無い?警察署の表彰ってこういうものなのかな?


 慎二が思った通り人が沢山いた。会場内は学校の体育館程だが、その中に人がこれでもかと入っているのだ。


「帰りたいんだけど、胃がキリキリしてきた」


 案内人から呼ばれるまで裏で待っていてくれと言われたので待っている事にした。その間ふと思った事がある。他の人も表彰をされるかもしれないって事だ。

 

 もしかしてこれ自分以外にも表彰される人がいてその為にこんなに集まってるでは?うわ、そう考えたら恥ずかしいんだけど!さっきまで自分一人の為と思っていたから尚更だ。流石に一人の為でこれはないもんね、ああ、なんか心が軽くなったかも。


 でも、そんな思いは直ぐに砕け散った。案内人に呼ばれるまで自分以外に誰も来なかったのだから。


「えぇー、今から表彰を始めます!今回は1人の表彰をしますが、こんなにお集まり頂きありがとうございます!私が覚えている限りでは今回来て下さった人の人数が初めてになると思います!まだ、お話したい事はありますが、長々と喋っても皆様が疲れてしまうと思うので早速今回表彰される方を呼びたいと思います!……前田慎二さん。御壇上お願いします!」

「はい」


 うっわ、人多いな早く終わらそう。後ろ振り向きたく無いんだけど……なんか知ってる人沢山いたし。


 しかも表彰状渡すのって所長かよ!?


 そう思っていたら、その所長から声をかけられた。


「まず初めに、前田慎二君。この度は事件の解決から助けた少女のケアまで色々ありがとう!君のお陰で多くの人が救われた。その事を誇って良い。君みたいな少年がいる事に誇りに思うよ、本当にありがとう」


 思ってた以上に普通の表彰だよね?これなら早く終わるかも、挨拶だけして早く家帰ろう。


「ありがとうございます」


 挨拶をした後、表彰状を両手で受け取った。………ん?なんか表彰状離してくれないんだけど?


「慎二君、君は今回色々な功績を挙げてきた。そんな内容を今日来た会場の皆さんに話たいと思うが…-どうかな?」


(どうかな?じゃ無いよ!それにおかしいと思ったんだよ!?なんかアッサリと終わる雰囲気出ていたからさ!)


 この雰囲気で「嫌です」なんて言えないでしょ。


「会場の皆様はどうですか?彼の話を聞いてみたくは無いですか?聴きたい人は拍手をしてください!」


 おいおい、これ皆が拍手しなければ逃げられるんじゃ無い?


 だが、現状は残酷だった。会場から溢れんばかりの拍手が上がるのだから。


「皆様の気持ちはわかりました。では、僭越ながら私からお話させて頂きます」


 そう言うと所長は話し出した。さっき窓口で聞いた内容と自分の目で見てきたという僕の武勇伝?を。


「………という事がありまして、その親子は1人の少年のお陰で幸せに生活が出来る様になりました」


 いや、まあその内容は嘘では無いんだけど、なんか納得いかないな。


「私のお話は終わりになります。どうでしたか?こんな素晴らしい事をして誇らない前田君は私は凄いと思います。前田君せっかくだから後ろを振り向いて表彰状を見せてくれないか?」


 そう言われて後ろを振り向いて表彰状をかざそうとしたら、言い方は悪いけどドン引きした。


 いや、だってさ?話が終わって後ろ見たら全員が泣いて目を腫らしてまでこっちガン見してるんだよ?怖いわ!


 それも一緒に救出しに行った商店街の人達も泣いてるし、貴方達あの場にいたでしょう!


「えぇー、泣いている方々には申し訳ありませんが、これで表彰を終わりにします」


 ああ、やっと終わったと思うじゃん普通?これが現実さ。


「待って私も彼に助けられたの、あのままお礼を言えなかったの」 


 と、その声がした所に皆が目を向けた先には、慎二が助けた賀茂さんがいた。


(いや、色々あって僕も忘れていたけど終わろうよ?)


「貴方は彼に何をしてもらったのですか?」


 なんか聞いてるし。


「私は買い物の帰りにいつも渡る階段を上がっていたら、足を滑らせてしまったの。あの時はもう孫の顔も見れずにこの世を去るのだと思ったわ。でも助けてくれたの彼、前田慎二君が!それも自分の左足を痛めながらも助けてくれたの、彼は命の恩人だわ!」


 『『おおおー!!』』と、会場からは溢れんばかりの歓声が上がった。


 わかった。わかったからもう帰らせて?ダメ?


 その後はまた表彰され、来てくれた人々に褒められ続け、知り合いにも挨拶した。ただその中には笹原結菜さんと笹原結衣ちゃんの姿は無かった。それはそうだろう。まだ退院が出来ていないからだと思う。またどこかで会えると良いなぁ。


「やっと終わった。明日学校だよ?それも入学式だしもう疲れたよ」


 あの後もかなりヤバかった。何故か来た人達とBBQを行う事になり今日だけで人の連絡先を100件は登録された。


 もうどれが誰かわかんないよ。それにTVと新聞にも載せるって言われたけど、それだけは頭を下げ続けて何としても回避した。


 ただ、高校生活はなんだかんだ楽しみにしていた。どんな出会いがあるかな?友達は出来るかな?そんな思いが湧いてくる。自分でも意外と楽しみにしていたのかもしれない、でも慎二は忘れていた。


 自分の高校は普通の高校では無い事を。

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