第10話 嘘か本当か 過去とこれから⑧




「………あんなのどう解決すれば良いんだよ。引き取ってくれる親戚はいるみたいだからまだマシかもしれないが、何か引っかかるな、そもそも結衣ちゃんが言ってた「不幸体質」について何も出てこなかったぞ?」


 考えても考えても何も良い案が出て来なかった。それは自分の部屋に着いてからもだった。


「慎二君、何か困り事かい?僕じゃ不安だろうが話ぐらいは聞くよ?話したら少しは楽になるかもしれないしね!」

「芳樹さん。心配してくれてありがとうございます。内容は言えないですが今度本当に困ったら聞いても良いですか?」

「構わないさ。今日会ったばかりだけど君は義慈が残した孫だ、助けになろう」

「ありがとう、ございます。今日はちょっと疲れてしまったので早めに休みます」


 相当疲れていたのか夜ご飯を食べお風呂に入り布団の中で目を閉じたら、直ぐに眠ってしまった。


 笹原結衣の現状を見てから2日ほど経った。その間も救う為に色々調べたりしたが、何も進展は無かった。ただ一刻と時間は過ぎていき入院生活最後の日を迎えた。


「僕は何を勘違いしていたんだろうか……今まで上手くいっていただけなのに調子に乗り何でも出来ると思っていた。「目」の能力を手に入れた事により全能にでもなっていたのかもしれない」


 特別な力を手に入れて天狗になっていたのだ。いざ自分1人では出来ない事に直面したらこの通り、何も出来なくなってしまう。これだったら過去なんて戻らなければ良かった。


 多くを救ってもたった一人救えない。これならいっそ、いっその事……


「………待て、よ?……過去?未来?」


 と、同じ言葉を繰り返し出した時、思い出した。神様との会話を。「過去と未来を見ること」をだ。


 なんでこんな事を忘れていたのか、慎二にはまだ出来る事があった。これが最後の希望になるはず。


「そうだよ…あるじゃないか…とっておきが!……「代償」を払う?幾らでも払うさ。それに自分一人で解決しようとしていたけど以前の僕とは違うじゃないか!信じてみよう」


 そこからの慎二の行動は早かった。


 まず初めに過去と未来を「見れるか」確認した。


「「代償」は寿命って言ってたけど痛いのかな?一応我慢は強い方だけどこれを使う時に少し助かるのが「見る」人の事を思い浮かべれば良いからまだ楽だよね!」


 と、思っていたが「代償」とは想像以上のものだった。まず笹原結菜の未来を見た後に続けて笹原結衣の未来も見てしまった。内容はこれから起こるバッドエンド、ハッピーエンドの未来が「止めたくても」頭の中で終わるまで映画のシーンの様に流れ続けた。


「!?ーーーーーがっーあぁなーーとまっ!」


 「未来」を見た慎二に襲ってきた痛みは、頭が割れる痛み、目が抉れるほどの痛みが断片的に襲いかかって来た。終わった頃には満身創痍だった。


「………でも、これで、助かる……「代償」は払った」


 その言葉を言ったっきり慎二はその場で気絶してしまった。


 2、3時間ほど気絶していただろうか?まだ体の痛みは取れず真面に動けなかったがしっかりとさっき「見た」記憶は覚えていた。


 しっかりとハッピーエンドになれる「未来」へのビジョンは完成した。後は今回の元凶となるある男にどう償わせるかだ、今でも頭の片隅にあるその場面を思い出すだけで怒りがこみ上げてくる。


「これで、助けられる!」


 笹原結菜と笹原結衣の生活はある男の嫉妬で滅茶苦茶にされた。その男は笹原結菜が結婚した夫の兄だった。当初は2人の結婚を祝福してる感じであったがそれは演技だった。この男は初めから結菜のことが好きで告白したのに後から告白した弟の告白に同意したのが許せなかった。いつか滅茶苦茶にしてやると誓い、その時を待っていた。


 まず男がやったのが、自分の実の兄を事故と見せかけて殺害した。それからは悪戯電話や嫌がらせの手紙を笹原達に送りつけた。その行為に笹原結菜はストレスを溜めてしまいよく病院に行く事が増えた。その時に見つかったのが癌の腫瘍だ。それからは入院をする様になり一向に腫瘍が見つからず病に侵されていった。


 笹原結衣は母親が病で倒れた後に両親が高額の借金を抱えていた事を知った。そんな時親戚の叔父……亡くなった父の兄が現れた。優しいと思っていた叔父はいなく借金を肩代わりにする代わり性犯罪まがいの事をさせようとしてるのだ。


 そんな状況を慎二は許せるはずがなく。


「ふざけるなよ!…嘘を吐きながら近づき人を貶める行為、僕が1番嫌いな行為だ……この手で必ず捌いてやる!バットエンドなんかにさせるものか!」





 その後は過去に戻ってから出会った皆に「どうか自分を助けて欲しい」と言った。理由も何も言っていないのに皆軽く了承してくれた。


 「皆さんありがとうございます!理由を言えないのに内容もわからないのにこんなに集まって頂いて」


 慎二の中では集まってくれても何人かと思っていた。今回集まった人達はこれまで会ってきた殆どの人だった。


『水クセェ事言うなよな!』

『そうだ、君に助けて貰った人はこんなにいるんだ!』

『やっと大人を頼ってくれて嬉しいよ!』


 と、口々に言っていた。


 そんな光景に泣きそうになっていた慎二だったが、まだ何も終わっていない。だから切り替えると真剣な表情になった。


「今回はお集まり頂き本当にありがとうございます!……僕はこれから助けたい人がいます。でもその子は僕一人じゃ助けられない……だから、だから……どうか皆さんの力を貸してください!」


 慎二はそう言うと集まってくれた皆に頭を下げた。


 そしたら……皆声を揃えて………


『任せろ!!』


 と、集まってくれた全員は声を揃えて言ってくれた。


 時を同じく、笹原結菜の腫瘍摘出手術が行われる事が決まった。タイムリミットは刻一刻と迫って行く。

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