第7話 嘘か本当か 過去とこれから⑤


 

 鈴木と話してから2日程経った。今度から使う家の近くにある商店街の方々に挨拶ついでに「人助け」を続けた。


 迷子の猫を飼い主に届けたり、無くし物を探したり、喧嘩を仲直りさせたりと色々と行った。


 「人助け」をする中で嬉しかった事があった、それが感謝された事だ。


 普通の人だったら「ありがとう」と言う言葉は当然の様に聞く言葉だと思う。だが慎二には違った。


 今まで生きてきた中で、片手に数えるぐらいしか「ありがとう」と言われた事が無いのだ。昔は分からなかったが今ならわかる。これは慎二が持っている体質……「負幸体質」のせいだと。


 何をしても相手からしたら「当たり前」、逆に不快だと思われてしまう様に認識されてしまうからだと考えている。


 そんな言葉を久々に聞いた慎二は胸の中が暖かくなっていくとともに涙が溢れて止まらなかった。


 当然だ、今までの人生でこんなにも多く感謝された事が無かったのだから、そもそも自分の話を昔は「誰も」聞いてくれなかったのだ。


 そんな事があり、しっかりと「徳」を積む事で「負幸体質」が少しずつ軽減されつつある事を実感しながら、高校入学まで残り5日間となった慎二はまた「人助け」をする事がないか商店街に赴いた。


「流石にもうここら辺は困っている人とかいないか、この2日間で沢山人助けしてきたもんな」


 そんな事を言っている慎二だが商店街では良い意味で有名になり始めていた。慎二自身は気づいていないが、何でも真剣に優しく聞いてくれて、必ずその人が欲しい最適な答えを返してくれる、それに見返りなど求めることもなくただ、「今後も仲良くして下さいね!」と言うのだ。そんな事を言うものだから、初めは苦手意識を持っていた人達でも毒気が抜かれ今は慎二と殆どの人が仲良くなっていた。


 皆はそんな慎二をとても頼りにして、まさに商店街の「ヒーロー」的存在となっていた。


 今はもう商店街を歩くだけで声をかけてもらえる様にまでなった。


「おう!慎二、今日もいい肉が入ってるぜ!安くしとくから買ってくか?」

「おうおう!慎二!こっちの鮭の方が美味いぜ?勿論こっちだよな?」

「あはは………」


 お肉を売っている方が肉屋の店主藤亮二さんで、お魚を売ってる方が魚屋の店主多田健斗さん。どちらもこの2日間で縁がありとても良くしてもらっている。


「コラ!慎二君が困っているでしょうが!……ごめんねぇ?この2人が煩くて」

「いえいえ、僕も見ていて楽しいので全然平気ですよ!」


 この怒ってくれた方が八百屋さんの店主今田文明さんだ。「40代にしては美人過ぎでは無いか?」と会ってから慎二は思っていた。


 そんな事を考えながら少し話して今日の夜ご飯の為に魚と野菜類を買ってまだ少し困っている人とかがいないか散策してみることにした。


 あれから1時間程周辺を見て回ったが特に自分の「右目」に引っかかるものは無かった。


「でも本当にこの「右目」の力使えるよね」


 また新しい「真実の目」の能力が分かったのだ。その効果こそ「困っている人」「悩み事のある人」「助けて欲しい人」などが近くにいると「右目」が熱くなり、知らせてくれるのだ。


 大分暗くなってきたからもう帰るかと思った矢先いきなり「右目」が熱くなり出した。


「おいおい、このタイミングかよ!何処だ近くに……!?危ない!」


 咄嗟の判断だった。左横を見たらお婆ちゃんが階段を上がっていたのが見えた、上がっているだけなら良かったが、慎二が顔を向けた時にはバランスを崩し、お婆ちゃんが階段から転落しそうになっていた。


「ーッ、間に合ぇーーー!」


 慎二は叫ぶと、その今でも転落しそうになっているお婆ちゃんの元に全速力で向かった。


 ………危機一髪、そんな言葉はこんな時に使うのだろう。後一歩間に合わなかったら大惨事になっていた、今はお婆ちゃんは慎二の腕の中にいるから無事のはずだ。


 ただ、安心している場合ではない、念の為、何処か怪我をしていないかの確認が先決だろう。


「お婆ちゃん!?大丈夫ですか?怪我とかは?」

「あ、ありがとうね?あなたのお陰でなんとも無かったわ」

「良かったー!」


 本当に良かった。目の前で助けられるのに「助けられませんでした」……なんてなったら最悪だ、今回は避けられた様だな。


 周りからも慎二達の事に気付いて駆けつけたのか何人か大人が来た。「これぐらいいるなら後の事は任せて良いか」と思い、お婆ちゃんを下ろして立ち上がろうとした時、左足に違和感を覚えた。


「ーーーっ!」


 叫びはしなかったが両足で立った瞬間、やはりさっきの違和感はあっていた様で左足に激痛が走った。


 さっきまではアドレナリンが出てたから痛く無かっただけかもしれないな、まずったな。


 そんな事を内心思っていると、一人の男性が慎二達の元に来て、安否を確認してきた。


「君達大丈夫だったか!?」

「僕は大丈夫です!そこのお婆ちゃんが階段から落ちそうになっていました。問題は無いと言ってましたが、念の為病院に行った方がいいと思います」


 慎二の話を聞き安心していた男性だが、慎二も何か怪我をしていないか気になったらしく聞いてきた。

 

「そうか、だが君も大丈夫か?さっき左足を痛そうにしてたが、もしかしたら捻ったりしたんじゃ……」

「大丈夫ですよ、ほら!こんなにジャンプ出来るんで!」


 痛ェーー!?痛いけど!今病院なんて行ったら高校の入学式に間に合わなくなる可能性あるからここは逃げだ!


「そ、そうか?大丈夫なら良いんだ」


 慎二の過剰すぎる「大丈夫です」アピールに男性は少し引いていた気がしたが、分かってくれた様だ。


 だが、その時……横から見知らぬ少女が現れた。


「………横から失礼するわ。これでも痛く無いのかしら?」


 横から出てきた女はそう言うと、あろう事か慎二の左足を蹴ってきたのだ。


 ああ駄目だ、これ避けられ………


「いひぉーーっ!?」


 女は問答無用で慎二の足を蹴った。


 この女ーー!蹴りやがった!それも無表情で、いくら美人だからってやって良いことと悪い事があるでしょ!?人の血流れてますかー!?


 バカな事を考えていたが、相当痛かったのか慎二はそこら中を転げ回っていた。


 そんな慎二に今の状況を関係ないと言うように自分の伝えたい事だけ伝えてきた。


「ほら、さっさと我慢してないで病院に行きなさい。救急車は呼んどいたから」


 ただ、そんな女の態度が気に食わなかったのか、最初に助けてくれた男性が「今のはおかしいのでは?」という様に話しかけた。


「君、いくらこの子が我慢してたからって怪我人にそんな手荒な真似しちゃ駄目だよ?」

「ふん!……その男が隠そうとするから悪いんじゃない。私は知らせてあげただけよ」

「だが……」

「ストッープ!そんなことで喧嘩しないで!僕が隠してたのが悪いんです。ごめんさない!」


(何この人達険悪ムードになってんの!?いや流石に僕が原因で喧嘩するのを見てるの嫌だわ)


「君がそう言うなら」

「最初から自分が悪いって言いなさいよ。グズ」

「は、はは、ごめんなさい」


 この女、口っち悪!?え、初対面だよね……まあいい。どうせこの後もう会わないと思うからなぁ!


 そんな事を考えていたら遠くから救急車のサイレンの音が聞こえてきた。直ぐに近くに止まり、慎二とお婆ちゃんを車に搬送してくれた、あと少しで救急車の中に入るって時にあの女は爆弾を投げてきた。


「次は学校で会いましょうね、前田慎二君」


 は?今なんていったこのオンナ、学校で会おうだと!?え?え?怖!なして!?


 この時初めて知った。マジで恐怖に陥った時声が出なくなると………オシッコ少しちびった。

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