第8話 嘘か本当か 過去とこれから⑥

 



 救急車に乗ってからどれくらい経っただろうか?10分か30分……恐らくそのぐらいだろう、その間は一緒に同乗したお婆ちゃん、加茂さんと色々話した。


 加茂さんは救急車内でも念のため何か具合が悪い所がないか確認した。問題は無さそうだが病院に行ったら精密検査を受ける事になった。


 お孫さんと一緒に暮らしているそうなので早く自分が無事なのを伝えたいと言っていた。


 僕は、恐らく捻挫だろうと言われ心底ホッとした。まだしっかりと検査したわけでは無いが病院生活なんてなったら何週間、何ヶ月入院するか分かったものではない。そんなものになったらぼっちルート一直線間違いなしだ。


 途中から学生の輪に入っていくのは中々厳しいものがあるからな、それも元27歳の中身がおっさんとしては。


 まあ、何も無くてもぼっちの可能性があるが……なったらなったで孤高に過ごすか。



「慎二くん、助けてくれてありがとうね?でも本当に何もいらないの?」

「大丈夫ですよ!僕としては当然の事をしただけなので、それに人助をするのは祖父との約束なんですよ」

「そうなの?でも偉いわねぇ。その年でそんな志を持っているなんて」


 と、褒めてくれるが、そんな大層なものではない。慎二が「人助け」をするのだって自分からやろうと思ったわけでは無く、祖父や神様から言われたから自分の為にやっているに過ぎない。


 でも、この頃「人助け」をして感謝の言葉を言われるたびに思う事がある、この生活が充実していると。


 最初は自分の使命の様なものだから、自分の命がかかっているからと何かと理屈をつけては作業感覚で動いていた。それに昔の自分だったらこんな事直ぐに辞めてしまうはずだ、なのに今はどうだ?


 率先して動き、自分が傷つこうが「人助け」をしている自分がいる。これは貰った「目」のせいなのか最初から持っていた自分の「人助け」をしたいという気持ちのせいなのかわからない。だが、いつかこの気持ちが何なのかわかるようになりたい。


 そんな事を考えたり、賀茂さんと何気ない会話をしていたら病院についた。


「慎二君、また後でお見舞いに孫と行くからね!そのぐらいはさせてね」

「わかりました。ただそんなに自分も重傷では無いと思いますし直ぐに退院していて会えなかったら、ごめんなさい」

「あら、そうよね……すれ違いになったら嫌だし、連絡先を交換しても良いかしら?」

「勿論、大丈夫ですよ!」


 賀茂さんと連絡先を交換した後、直ぐ別れた。検査する場所も違う棟だからだ。


 その後直ぐに診察をして貰ったらやはり捻挫という事だった。でももしかしたら骨にヒビが入っている可能性もあった為、万が一の事を考えて3日ほど入院して異常が無いか確認する事になった。


「捻挫で入院ってするんだな……知らなかったよ、高校の入学式に間に合うなら何でも良いけどさ。と……ここが僕の入院する部屋か中に僕以外の入院している人がいるって言ってたから挨拶は大事だよね」


 そう思い、扉を開いたら60代ぐらいの少し白髪が多くなっているおじいさんがいた。


「こんにちは!今日から3日間ですが、相部屋になる前田慎二と言います。宜しくお願いします!」

「あぁ、君が相部屋になる子か。僕は佐々木芳樹、話は聞いているよ?人助をして怪我をしてしまったんだってね」


 このおじいさんの名前は佐々木さんと言うらしい、とても優しそうで良かった。


「そうですね、とっさに体が動いて助けていましたが……人を助けても自分が怪我していたら意味ないですよね………」

「まあ、自己犠牲はいけないけど君は違うだろ?人を助けたいと思って体が動いたんだ、誰でも出来ることじゃないよ。それは誇って良いと思う」

「はは、ありがとうございます!」


 感謝されるのはとても気持ちがいい、誰かに肯定されるというのはまだ慣れないが。


 この人なら仲良くなれると思い、色々話した。そしたら思い掛けない事実が発覚した。なんと佐々木さんは自分の祖父前田義慈と学生時代に親友同士だったという。


 その事が分かると佐々木さんは声を高らかに喜んでいた。


「そうか、そうか!苗字が同じだと思ったら君は義慈の孫だったか!凄い巡り合わせだね」

「ですね!僕も祖父の知り合いと会えて良かったです!」

「僕もだよ、ところで義慈は今どうなの?最近全然会えてなくてね……元気でいる?」


 ああ、佐々木さんは知らないのか、もう祖父義慈がこの世にいない事を。


 なので、慎二は祖父がもう既に亡くなってしまっている事を伝えた。


「そう、か……義慈は癌だったのか。でも一言言って欲しかったな、彼はあれでかなり頑固者だったからね。でもそんな彼に僕含めて色々な人が集まったんだ……懐かしいな」


 本当に義慈の事を思ってくれてるのだろう、それは今目の前で泣いているのが物語っている。


 その後は、祖父の昔話だったり今の入院生活の話だったり、「屋上は見晴らしが良いから一回行ってみた方が良い」など自分達の事を話し合い、かなり打ち解けた。


 今では慎二君、芳樹さんと呼ぶ中になっている。


「芳樹さん、腰を痛めて入院してると言ってましたが、今はどんな感じですか?」

「ああ、歳なのかギックリ腰になっちゃってね、今はあまり動けないけど後1ヶ月程で退院出来るってさ」

「そうですか、良かった!」


(そうか、佐々木さんは1ヶ月か……せっかく知り合いになれたからもっと話したかったな……僕は3日だもんね……)


 佐々木と仲は良くなったが、自分が後残り3日で退院してしまう事を慎二は残念がっていた。


「ありがとう!そうだこの話はしてなかったね。僕も聞いた話だけどね、隣の部屋に笹原さんという女性の方が入院しているんだよ、それは見たらわかるんだけどね、ただ娘さんがいるんだけど旦那さんらしき方を見た事なくてね……娘さんがいつも1人でいる所を見ていると可哀想だと思っていたんだ。分かっていても僕じゃまともに動けないからね」


 と、話してくれて「出来たらで良いから気にかけてあげて欲しい」と言われた。


「わかりました。流石に小さい子が1人は宜しくないですからね、その笹原さん?の御病気とか分かったりするんですか?」

「ごめんよ、そこまでは知らなくてね、ただ2日前ぐらいに隣の部屋で何かあったのかドタバタしていたね」

「それは、気になりますね。直接は聞けませんが娘さんと会ったら何か困り事が無いか聞いてみますね!」

「ああ、そうして貰えるとありがたいよ。その娘さんの名前は笹原結衣ちゃんと言うらしいよ、かなりしっかりしてる子らしいけどまだ、小さいからね」


 話を聞いて気になったもの、いきなり見ず知らずの人間が部屋に入ってきたら警戒されると思い、今は安静にしとこうと思った。


 思ったが……芳樹さんの話でこの病院に屋上があると聞かされていた時から何故かわからないが屋上に自分が行かなくてはいけないと言う感情が沸き続けていた。


 それが気になった為、芳樹さんに少し出かける断りを入れて屋上に向かう事にした。





 屋上に着き扉を開けた。最初に目に飛び込んで来たのは何処までも続く青い空、春にしては暖かい心地よい風が吹いていた。


 少し景色を堪能した後、日陰になっている場所にポツンと1つのベンチがある事に気付いた。


 そこには、1人の少女が本を読みながら座っていた。年は10歳程で肩まで伸ばした黒髪が美しくも可愛らしい少女がいた。


 この時は知らなかった。この出会いがこの先の運命を変える事になるとは、過去は変えられないが未来は変えられる、そう今まで以上に実感させられる事になる事を。

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