第5話 嘘か本当か 過去とこれから③


 

 あれから1時間ほど泣いてしまった。鏡を見ていないから分からないが多分目は真っ赤になり腫れているだろう、それほど泣いてしまった。


 これからやる事は沢山ある、此処で立ち止まっている場合じゃない、まず自分がこれからやる事を一度整理した方が良さそうだ。


 まず住んでいる場所と所持金だが、こちらは祖父が亡くなる前に慎二名義で家もお金も残してくれた。高校卒業までのお金は余裕にある額を残してくれたが、流石に全部使うのは申し分無いと思い、高校が始まってからは何かアルバイトを始めようと思っている。


 自分の家族だが……いるにはいるが今は訳あって一人暮らしをしている。周りにも知り合いはいない状態なので交友関係は一から作るしか無い状態だ。


 最初に考える重要な事が、神様と約束した「徳」を積む事、主に「人助け」についてだ。これを達成する為に「真実の目」という能力を貰ったが、3年以内に「徳」をある程度積まないとどのみち自分は死んでしまうらしい、らしいと言うのは今から「徳」を積んで3年後にどうなるかがわかるからだ。


 特にどのぐらい「徳」を貯めろとは言われていないが、少なかったら死ぬ、一定量あれば生き残れる……ただそれだけの話だ。理不尽な状況だと思うかもしれないが、今こうして過去に戻り人生のやり直しをしている事自体が奇跡なのだ。27歳のままずっと何もせず腐ったまま夢も希望も無く会社に勤め、ただその日を生きているだけの生活などもうごめんだ。


 こんな慎二の考えを甘えだという人もいるだろう?なら、どうすれば良いのか?寝るのを惜しみ人より数倍努力した。何があろうと誠実であろうと心掛けて生活した。なのにこの世界は尽く理不尽だった。


 努力して得た地位は根拠もない嘘で壊され、それでも人を信じてみようと誠実であろうと心掛けて生活した。そしたら何人かの友人は出来、とても嬉しかった。


 なのに、なのに突如裏切られた。何度も、何度も何度もだ!


 人はどの道に進むか人生のレールが決まっている?幸せになれる未来がある?そんなもの……無かった!だってそうだろう?誰だっていつかは幸せな生活を夢みるものだ。それが叶わない人でも普通の暮らしを夢みるものだ、今が辛くてもいずれ自分が思い描いていた未来を考えるだろう?


 だが、慎二は違った。普通の暮らし?人並みの幸せ?そんなもの存在しなかったんだ。


 頑張れば報われる?そんなもの嘘っぱちだ、だってたった一つ自分の体質一つで人生は滅茶苦茶になるのだから。何もしていないのに裏切られ、騙され、嘘つきと罵られ最後には信じて貰えず……慎二は幸せになれる資格すらないのか?


 そう思ったら後は簡単だった。何もかもどうでも良くなりやる気すら起きない、自分の殻に篭り人との壁を作り、接しようとしなくなる。


 そんな慎二でも考えた事はあった。あの時両親ともっとしっかりと真剣に向き合っていたら変わったのでは無いのか?友人ともそうだ、勘違いやすれ違いが起きていたら?でも昔の慎二は何もかもが怖く全てから逃げ、その事を理解もしようとせず、いつかやり直せたらと考えるだけだった。


 そんな「いつか」は来るはずがないただの妄想だとしても。


 そんな僕に最後のチャンスが訪れた。もう何からも逃げないし間違えない……僕の様な人がいなくなる様に人助をするんだ!僕はその為なら……偽善者にだってなってやると。


「色々、本当に色々やらなくちゃいけないな………このチャンスを逃したら次はない……か。何年も会っていないが今後家族や昔の友人達とも何処かでまた会うかもしれないんだよな、いざ会ったらどんな対応をして良いか不安だな……それにこんなに泣いたのも久々だな、自分の目の能力について調べてみたいが流石にこの後直ぐには外に出られないかな、精神的にも色々来てるし少し休んでから行くかな」


 これからの事を考えすぎてしまったのもあるが、涙で腫れてしまった目を見られるのが恥ずかしかったのもあり、お昼を挟み少し時間を置いてから公園に行こうと思った。


 少し空く時間が出来る為「目の能力」について少し考えていたらふと疑問に思った事がある。


 それは、人(生物)に「目の能力」が使えるなら「他のもの」(非生物)ならどうか?と言う事だ。


 早速試してみた。結論から言うと成功した。


 まず、目の前にある机とイスを「見てみた」次に賞味期限の食べ物と電池が無くなった時計を「見てみた」。


「これは……この能力凄いぞ?もっと試さないと分からないが、本当に思うがままに何でも「見える」能力なんだな………」


「見て」わかった事が、初めに「生物」意外で命を宿していない「物」にも「目の能力」を使える事がわかった。


 机とイスだと(本物)という判定の青色で光る、逆に賞味期限が切れた食べ物と電池が切れた時計だと(偽物・嘘)と判定の赤色で光った。


 この事から分かった事が、「物」でもまだ使える物が(本物)になりもう使えないものが(偽物・嘘)となる。


「中々使い勝手が良さそうだな、物を「見ている」時に「目の能力」のオンとオフの使い方も分かったし」


 他にも色々と試してみたい気持ちはあるが、「目の能力」のオンオフのやり方が分かっただけでも良かった。この後は「人」での能力の検証と行こうか。

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