第二十一話 無双なのに
場面は変わって破壊僧アニーはどうしていたかというと──やる気満々で敵に突っ込んでいた。
そこに戦略や駆け引きという文字はない。
相手の種族は、──悪魔族ディヴァー。
固有魔法は、──魔装。
魔力を物質化して纏い鎧と化す。その姿はまさに人族予想像する悪魔そのものである。側頭部から生えた捻くれた双角。ひしゃげた蝙蝠のような羽。鋭く伸びた爪と牙。
その悪魔族は、突進してくるアニーに対して鼻を鳴らす。相手の格闘戦に付き合う必要はなく、空から魔法で攻撃することもできるはずだが──
「我が爪と
近接戦闘に付き合ってくれるらしい。
そうして、アニーは無策突貫の代償に反撃をくらうことになった。
硬身勁で身の守りを硬くしているのにも関わらず、悪魔族自慢の爪に容易く肉骨を抉りとられた。
「きゃん!」
血飛沫を撒き散らせながら倒れ込み、攻撃用に貯めた勁を地面に向けて暴発させる。
だが、アニーはけろりとした顔で立ち上がる。
そのことに舌打ちした悪魔族ディヴァーは、爪を構える。
「いいだろう。貴様の魔力が底をつくまで刻んでくれる」
そんなディヴァーに、アニーはむむむ言いながら再度突貫していくが、当然の如く避けられカウンターをくらう。その度血飛沫を撒き散らせながら倒れ込み、衝勁を暴発させる。
酷い時は足をもつれさせて転倒。爆発したような衝撃波が撒き散らした。それを何度も何度も何度も繰り返した。
だが、アニーは不屈の精神でに立ち上がる。
傷は
埒があかないことに苛立ったディヴァーが奥義を繰り出す。
「魔爪技──狂い咲き」
手足が切断、腰からほぼ真っ二つにされた。完全に背骨まで断たれ、かろうじて皮膚で繋がっている状態だ。
それでは流石のアニーも動くことができず倒れ伏した。大地が血で染まる。
「ふん、姫様を欺いた罪を悔い改めるがよい」
倒したと思い、この場を去ろうと身を翻した瞬間──ディヴァーは後ろからガシリと捕まえられる。
「つーかーまーえーたー!」
「なんだとッ?」
驚愕のディヴァー。
彼女の
ここからアニーの反撃が始まる──
──ところだが、ここで注釈を入れようと思う。
破壊僧アニーが天災と称される所以についてだ。
そのひとつに魔力の取込率の高さがあげられる。
武技魔法とは、特殊な呼吸により空気中から魔力を取り込み、それを勁に練りあげることで超人と化す。
意外に知られていないことだが、武技魔法の熟練者でも吸い込んだ空気中の魔力を四割も取り込めないのだ。五割もいけば
そもそも人間の肺というものは、酸素であっても空気中の三分の一も取り込めない欠陥品である。そうでなければ人工呼吸など成り立たない。
そんな肺を利用しているのだから、たとえ達人であろうと肺に入れた空気中の魔力を半分──五割ほどしか取り込めないのだ。
しかし、我らが破壊僧の魔力の取込率は驚異の──九割。
はっきりと化物である。
しかも、しかもである。
彼女の化物さを象徴する能力が、さらにもうひとつある。
魔力の変換効率だ。
魔力を勁に練りあげるとき、また勁を体内から外に放出──魔法として発現させるときに
アニーの場合、魔力から勁への変換率、脅威の九十九パーセント。衝勁などに変換して体外へ放出する場合も同じく九十九パーセント。
変換損失の合計が二パーセント以下。
ということは、である。
達人の倍近く魔力を取り込み、それをほとんど
そんな膨大な魔力を勁と化し、ちょいちょい暴発させているのである。そりゃあ、ちょっとした拍子に教会そのものを破壊したりもするだろう。
さて、ここで場面は、アニーが魔族を捕まえたところに戻る。
「もらいました!」
これだけ密着してしまえば運動能力は関係がない。
破壊僧渾身の勁が練り込まれ、拳に集約される。
外部破壊と内部破壊を両立させる珠玉の勁技。
魔装の鎧を容易く貫き、身体の内側を破壊し尽くした。
まさに一撃必殺──であったのだが、同時に回復魔法を
「むふふん」
ドヤ顔をキメる。
硬身勁、衝波勁、重身勁、浸透勁の四種勁の同時行使に加えて自身への継続回復魔法、さらにインパクトの瞬間に相手に回復魔法までかける。まさに天が与えた溢れんばかりの天性の発露であった。これでポンコツでさえなければ歴史に名を残しただろうに。
せっかく倒した敵を拘束もせず置き去りにして、るんるん気分でレイフィルドに報告しに走った。褒めてもらう気満々である。
「ほら、わたしはできる子なんですよ」
そう呟いたそばから左足を右足に引っ掛けて、すっ転んだ。その拍子に衝波勁が大地に叩きつけられて爆風を巻き起こす。
残念極まりない。
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