第二十話 生を勝ちとるために戦うのです
どんよりとした僕にシェラはこう言い募った。
「なによりも頭が固い奴らだ。絶対に人族領域には行かせてくれんだろうな」
そうでしょうね。
さて、これからどう動くかが問題だ。
思案をめぐらそうとしたが、そうは問屋が卸さなかった。
アニーが嬉々として顔を上げたのだ。
「それはご挨拶しなければいけませんよね!」
「こんにちわ! シェラちゃんの友達でアニーって言います! どうぞよろしくお願いします!」
「姫様をちゃんなどと、不敬であるッ!」
「ひゃん!」
相手の怒号に驚いたアニーは再びすっ転んだ。もちろん衝波勁を撒き散らす。その爆風にシェラがよろめく。
「姫様に対して、なんという無礼を……ッ」
その行動は王女に対しての攻撃と見做された。しかも──
「先程のは武技魔法? ──なぜ人族が姫様と共にいるッ?」
人族であることまで看破された。
あぁ、やっぱり止めるのが正解だった。こっそりと金剛勁を発動し、いつでも動けるようにしておく。
「なにを言っておるこの痴れ者が! 我が友になんという侮辱を……」
シェラが怒りに声を上げる。
そのことに珍しく困り顔のアニー。
「姫様は欺かれておるのです。その者は間違いなく人族でございます」
「嘘だ!」
シェラが喚く。
さらにハの字眉で涙目になるアニー。
僕は悪あがきをした。
「シェラ様! 私たちが人族など
「そうだ! 矛を収めよ! この者たちは魔族だ。人族に奴隷として囚われていた可哀想な者たちなのだ!」
シェラが親衛隊三人の前に飛び出す。
そんな彼女の身をすかさず確保しつつ、親衛隊の一人──悪魔族のディヴァーがこちらに魔法を放つ。
「くそっ」
それを衝波勁で相殺する。
「姫様、ご覧になりましたか? 森妖魔族であれば、樹木魔法にて防ぐはず。だが先程のは人族の扱う武技魔法でございます!」
ダメ元であったが、やはり無駄な足掻きだった。
「貴様ら、姫様を謀った罪は万死に値するぞ!」
殺気だつ親衛隊三人。
僕たちが人族であることに愕然とするシェラ。
「どうして……ッ」
彼女は泣きそうに顔を歪めて呟く。
それに罪悪感を抱かないでもないが、バレてしまっては仕方ない。ここからは実力行使にて生を勝ち取らなければならない。
シェラはあちら側に行ってしまったので人質にするには距離がありすぎる。
相手の数は三名。あきらかに自分より強いが、逃げるのであればなんとかなるか?
「よくも騙したな!」
シェラが泣きながら吠える。
「ごめんなさい! シェラちゃん、でも人族もいい人たちばかりなの。それを知ってもらおうと……」
「もう騙されるか!」
「そんなっ、人族の国に招待すれば良さをわかってもらえるって、人族と魔族が手を取り合える架け橋になるかもしれないって! そうですよねっ?」
こちらに同意を求めるアニー。
それに対してキッパリと言った。
「もちろん──違います。人族と魔族が仲良くできるわけがないでしょう」
アニーが、がびーん! とショックを受ける。
「そ、そんな、……はっ! もしかして騙しましたかっ?」
「古今東西、騙される者が愚かなのです」
あまりの言い分に、言い争っていた二人が揃って自分を非難する。
「ひどいです! 鬼畜! 畜生! おたんこなす!」
「この、性悪者め! せっかく同性で同年の親友ができると思っておったのに! 恥を知れ!」
破壊僧アニーの言葉はこの際無視。
だが、王女シェラの言葉には訂正を入れる。
「僕は十三──成人してますし、男です。つまり同年でも同性でもありません。一度目の間違いは寛大な心で許しますが、二度目は容赦しませんので悪しからず」
その言葉にシェラが大きく目を見開く。
「お、おぬし、性別から謀っておったのか!」
性別を詐称した覚えはない。勝手に勘違いして怒るな、ぶっ飛ばすぞ。
「もう許さん、この手で粛清してやる!」
王女が前に出ようとするのを親衛隊の一人──吸血魔族シンエルンが止める。
「姫様、お帰りになる時間です。後のことは我々にお任せください」
「しかし!」
「陛下も──お父君も、お母君も心配しておられますよ」
「父上と母上が……」
「いずれ親離れする時が来ます。今はご両親と一緒にいる時間を大切になさってください」
「……わかった」
シンエルン──一番厄介であろう吸血魔族の真祖が姫を抱えて空に舞う。
「シェラちゃん!」
シェラは悲痛なアニーの声に肩を震わせるが、決して振り返ろうとはしなかった。
そのままシンエルンが羽で空を飛び連れ帰る。
それを見送った。
ラッキー! 一番の強敵がいなくなった。これで生存率が上がったし。
もちろんそんなことは表に出さない。弱味は見せるべきではないのだ。
「数の有利を捨てるのですか、甘く見られたものです」
「舐めるなよ、小僧。お前たちなど一人でも十分なところを姫様の心痛を慮り、疾く始末するために二人も残ったのだ」
獣魔族のライガがそう吐き捨て、悪魔族のディヴァーが殺気と共に補足する。
「楽に死ねると思わないことだ」
期せず一対一だ。
「そちらは任せましたよ」
「ツーン」
アニーは片頬を膨らませて顔を背けた。
お前な、いま拗ねている場合か、死ぬぞ。
嘆息一つ。
「謝りますから、ちゃんと戦ってください。──頼りにしてるんですから」
ぴくり、耳が動いた。
「た、頼りにしてる? 私を……ですか?」
「もちろんです」
一人を片付ける前に、アニーがやられては困る。最低でもこちらが倒すまでは保ってもらはないと。
「むふふん、私できる子ですからね!」
さっきまで怒り心頭だったくせに。普段頼られることが皆無なアニーはチョロすぎて笑える。
ということで──戦闘開始である。
僕は無手で戦うほど愚かではないが、武技魔法の使い手は素手で戦うことがほとんどである。
それには理由がある。
武器に勁が通しにくいからである。
物には抵抗がある。勁を流してもすべて伝わることはなく
だが師匠の考え方は違った。
人の手はギミック的に物を掴むために進化したのだ。だったら武器を使ったほうが良い。剣に対して素手で戦う場合、倍以上の実力が必要である。日本でいう剣道三倍段の考え方に近い。
まあ、剣道三倍段とは、槍に対して剣で戦うなら段位で三倍の実力差が必要という意味だが、同じようなものだろう。
そうして師匠が造り出したのが、勁の伝導率九十九.八九パーセントの複合金属。
技巧魔法の修行の最終課題が、その複合金属を使って武器の魔道具を造ってみろ、というものだった。
そして僕が造り出したのが、この可変型武器。
敵と相対しながら、腕輪に勁を通していく。
「
腕輪が身の丈よりも長い棒に変わった。
それを相手に向かって構える。
00が腕輪型
01が特殊警棒型
02が長棒型
03が九節棒型
武術の戦いとは間合いの取り合いであり、それを制した者が勝利する。
剣で槍と戦うときに三倍の段位差が必要というのは、ここら辺が原因だ。
剣が届く間合いの外から、槍は攻撃できる。剣で相手に斬りつけるには、その間合いを掻い潜らなければならないのである。
腕輪は武器の持ち込めない場所への偽装用に。
警棒は近距離用に、長棒は中距離用、九節棒は長距離用に、それぞれ対応している。
刃はつけなかった。勁技で『勁刃』というものがあるので、やろうと思えば棒の先や棒身に勁の刃を発生させて、剣や槍、薙刀にすることができるからだ。
それを駆使して戦う。
相対するは、獣魔族の精鋭──ライガ。
固有魔法は、五感鋭敏化。身体強化。爪牙鋭伸。完全獣化。完全な超近距離型戦士である。
ハッキリと自分よりも格上であり、圧倒的に強い存在だ。
だが、師匠との修行で、格上相手に戦うのは慣れている。
爪や牙でしか戦うことのできない
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