第十八話 誰だよそれ


 皆さま、こんにちは。

 僕です。

 前回は超絶ローテンションでのご挨拶でしたが、現在はそうでもありません。破壊僧が予想外に使えたことが原因でしょうか、少し気が楽になりました。馬鹿と鋏は使いようというやつですね。ですがポンコツであることは変わりはないので、盛大に爆発しないよう取り扱いには注意をしたいと思います。

 さて、僕は現在魔族領域の最前線基地にいるわけですが、ボスの言っていたきな臭い動きの原因を掴むことができるでしょうか。

 まあ、できなければ今後の僕の人生に関わるので掴むしか道はないのですが。

 僕の目標は国家奴隷にされた今でも変わりません。

 最終目標、大往生。

 中期目標、そのために生活基盤を手に入れる。お金は大事ですからね。奴隷の身ですがなんとか隠し財産を手に入れたいと虎視眈々と狙っています。もちろんいつかは奴隷の立場から脱却してみせますが先立つものが必要ですしね、まず金からです。

 話の道筋が逸れましたね、とりあえずは目の前のことから片付けることにしましょう。

 魔族領域最前線基地で潜入捜査です。

 必ず吉報をお届けしますので、また後ほど。


 ●△◽️


 保護してもらい軍事基地へ到着。

 途中何組かの哨戒と鉢合わせ、情報交換をしていた。最前線ゆえか哨戒が多い。

 ここで何かしらの情報がつかまなければ。


 障害は何にするか?

 魔族が親切すぎて良心が痛む。

 まあ、戦争している敵国で信仰している神が違うだけで同じ人間だもの、根本はそう変わらないよね。

 こちらをすごい気遣ってくれる。嘘設定を信じきっている。彼女らを騙してさらに情報を持ち帰ろうとしている自分。うーん、胸が痛い。まあ、それでもやるんだけどね。


 さてさて魔族側の動きがきな臭いとは、何をもって人族側がそう判断したのか。

 ボスから渡された報告書によると、はるか昔から現在に至るまで人族と魔族は戦争をしているが、三十年前を最後に大きな戦には至っていない。最前線でたまに小競り合いをするくらいである。

 それでも魔族軍が人族軍に向ける威圧感プレッシャーは凄まじいものがあった。

 それが弱まった。それだけではなく、かなりの数の哨戒がこそこそとあたりを探っている気配がする。今更何を探るというのか、最前線に配置されている両軍にとってここは庭のようなものだ。新しい発見などあるわけがない。何かを企んでいるのではないか、きな臭いぞ──というわけである。


 そういえば軍事基地ここに到着するまでに何組かの哨戒と遭遇したな、最前線ゆえかと思っていたが、違うのかもしれない。もしかしてなんらかの切札でも手に入れたのかな。


 相手から話を聞いていく。

 話の切り口はどんなのがいいだろうか。


「私たちは人族に勝てますか?」


 不安そうに、問いかける。


「もちろんよ、魔族わたしたちは強いのよ」


「でも不安なんです。魔族は強いでしょうが、人族は狡猾です。どんな卑怯な手でこちらに攻めいってくるかわかりません」


「大丈夫。私たちは切札があるわ」


 おお! きたかこれ!


「あなたたちの想いよ。あなたたちが真摯に勝利を祈ってくれれば魔族軍わたしたちは負けないわ」


 うーん、そういう綺麗事を聞きたかったわけではないのだが。そうは思えどここで怪しまれるわけにもいかない。内心は表に出さず笑顔で頷いた。


 まあ、考えてみれば、どれだけ不安そうにしていても一般人に軍事機密を話すわけはないわな、と次の手段を考える。


 せっかく基地に潜入できたのだから色々と調べてみるかな。


 ん? アニー? 楽しそうに魔族と談笑してるよ。あれは間違いなく罪悪感なんかないね、たぶんなんも考えてないんだと思う。自分の任務も覚えているか不安だよ。ポロリと正体がバレるようなことを言わなければいいのだが。



 ●△◽️



 さてさて就寝時間がやって来ました。活動を始めましょう。


 アニー? 寝てますよ。

 もうこの子はこのままでいいんです。足手まといはいらないので。


 隠形勁


 極限まで気配を消すことによって相手に認識されづらくなる勁技。

 達人になると見られても相手の脳が認識せず、あたかも透明人間のようになれる。自分はそこまでではないので、物陰に隠れながら行動しなければならない。


 ざっと基地内を歩いたが、もちろん起きている兵士が何人もいる。不寝番にしては数が多い気がする。何かを探している?

 お陰で隠れて動くのも一苦労だ。


「……これ以上はムリか」


 あまりの見廻りの数に調査を断念して元の部屋に戻った。

 アニーが起きていた。というか──


「えっと、そのはどなたですか?」


 ──見知らぬ少女と遊んでいた。


「シェラディアス──通称シェラちゃんです!」


 シェラちゃんです、じゃねえよ。誰だよそれ。


 それ以上問いかける前に、人の気配が近づいてきた。それを察した少女──シェラがあたふたし始めた。

 そのことに、アニーが任せてくださいと胸を叩く。たわわと胸が揺れる。


 隠形勁の応用、神隠し


 シェラと手を繋ぎ、勁を送り込む。すると、なんとシェラの気配が薄れていき、視界から消えた。いや、脳が認識しなくなったのだ。


 そこに世話をしてくれている魔族の女性が来る。もちろんシェラがいたことなど気づくはずがない。


 いや意味がわからん。自分自身が隠形勁で認識できなくなるのならまだしも、勁を流して他人だけ、、、、を隠してしまうなど人間技じゃないぞ。


 呆然としていると、世話役の女性が首を傾げる。


「どうかしましたか?」


「い、いえ、なにも」


 慌てて首を横に振る。

 怪しまれる要素は少ないほうがよい。


「少し疲れてぼうっとしていたようです」


 そう言って急場を凌いだ。

 世話役の女性は一通りこちらを気遣うと退場していった。

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