第十四話 チェンジお願いします
「ボス。無理です。無謀です。不可能です。チェンジでお願いします、チェンジで! 贅沢は言いません。この際、非戦闘員でも構いませんから、お願いです!」
ダーティ──ボスはおもむろに顔の前で大きなバッテンを作った。
「リームー」
「なんでですか!」
彼は真面目な顔をして言った。
「魔族は強い。そして彼女は組織でトップの強さを誇る。ハッキリ言うと俺より強い。あそこまで武技魔法に愛されている奴を他に知らん」
「ええですが、それを台無しにするほどの運動音痴です。彼女ほど武術に愛されなかった者もいないでしょうね」
「さらに彼女は生粋の僧侶だ。あそこまで深く祈れる奴は滅多にいない。魔族領域に行けば、教会など存在しないが、それでも彼女なら行って帰ってきてもまだ魔力が余る」
くそ、なぜそんなに高性能なのに、あんなにポンコツなんだ。
「その能力面から彼女以上に適任がいないんだよ」
「そりゃあ能力面だけで見ればそうでしょうね。でもそれらを帳消しにして余りあるほどのデメリットがありますけれど」
「決定は、覆らないんだ」
くそう。
「まあ、任務頑張ってくれや。あんまり使えないと上が判断したら処分されることもあり得るからな。こういうのは最初が肝心だ。ガツンと自分が使えることをアピールするために絶対に任務は成功させろよ」
この職場ブラックすぎるだろう。
マジ涙目だ。
●△◽️
「それじゃあ出発進行〜」
暢気な声が号令をかける。もちろん我が相棒である破壊僧だ。
まずは、馬車で移動。
城塞都市を経由して、最前線の要塞へ向かう。
城塞都市に協力者がいるから、そこに渡をつける。
隣には手を繋いだ破壊僧アニー。機嫌よく鼻歌を歌い、足をぱたぱたさせている。
その太ももを
む〜と唇をとがらせるも、すぐにご機嫌になる。
「わたし遠出って初めてです。今までみーんな、外に行くなー、遠くに行くなーって止めるんですもん、わたしできる子なのに」
みんなと言うのは、教会のか、組織のか、まあどっちでもいいが当然の判断だ。こんな歩く災厄を外に解き放ちたいとは誰も思わんだろう。
そんな災厄を僕とセットで魔族領域に解き放つ組織。鬼畜すぎる。
「いいから大人しく座っていてください。極力動かないように」
できれば呼吸もしないでほしい。
おてて繋いで仲良しこよしに見えるだろうが、事実はそんなに甘いもんじゃない。
例えるなら、ふとした拍子に爆発する危険物を運搬しているのに等しい。この状態で任務をこなすなど正気の沙汰ではないが、それが命令なら従うしかないのが国家奴隷の悲しき定めだ。
馬車が向かっているのは
人族領域には統一国家ひとつしかない。それ以外の国が魔族に滅ぼされたので、唯一残った国が統一国家になっただけだが。魔族で争う歴史の中で分裂することもなく今日まで続いている。
またこの世界には超巨大大陸の一つのみ。まあ言ってみればパンゲア大陸ということである。そういえば転生してから地震が起きたことないな。
この国の移動手段は、人力、馬車、魔物便、魔道列車。後半になればなるほど費用が高い。大罪人による魔造炉破壊前であれば、魔道列車も気軽に乗れたらしいが、今では魔石のコストが高すぎる。本当になんてことをしてくれたんだろう。経済が停滞したという話も頷けるわ。
話を戻すが、現在利用しようとしているのは、魔物便──飛竜である。
ちんたら馬車で移動なんてしてられない。破壊僧による墜落のリスクも考えたが、最悪落ちても生き残ることができる。
コスパで考えれば、走ったほうが効率が良いのだが、コレに歩かせることはおろか、走らせるなど何が起こるか予想がつかないので諦めた。軽身勁を使って走り、
そんなこんなで飛竜場に到着。
「うわああぁぁぁぁぁ──っ」
歓声。
アニーが金剛勁まで発動させて飛龍の前まで爆走する。止める間もなく手を繋いだまま引き摺られる。飛竜の顔に飛び付こうとして──そのままバクンと食われた。
もちろん巻き込まれましたよ。胃まで飲み込まれる前に唾液まみれになりながら飛竜の口をこじ開けて出てきましたけど。
「生臭い! 生暖かい!」
きゃーと嬉しそうに叫ぶアニーの頭頂部に鉄拳制裁した。
「きゃんっ!」
頭を押さえて涙目でみあげてくる。
むむむ、じゃねえし。
殴ったそのそばから継続回復魔法が治していくので、折檻の効果が薄い。
嘆息。
とりあえず、唖然としている飛竜場の関係者に謝罪して、予約をとっている旨を伝える。
さあ、これから不安いっぱいの空の旅である。
ひたすら墜落しないように努めよう。
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