第十三話 ミッションインポッシブル


 絶望の底よりこんにちは。

 皆さま、僕です。

 気分は最悪。こんなに落ち込んだのは聖神にこの世界に落とされたとき以来ですね。

 僕の目の前には、ミッションインポッシブル。

 これは間違いありません。僕に死ねと言っています。

 原因は八割がたは、この相棒のせいでしょう。すでに三度ほど殺されかけました。こいつマジ○○です。

 なんで自分の足に引っかかって転ぶんでしょう? いや、転ぶのはいいのです、しかしその際に衝波勁をばら撒くのはどうにかならないのでしょうか。暴発であの威力はシャレになりません。幾度となく巻き込まれましたが、僕の全力の衝波勁よりも破壊力があります。先程などくしゃみの際に衝波勁を発動して対面にいた僕に直撃。地面と平行にぶっ飛びました。背後に建物がなかったので、自ら後ろに跳ぶことで着弾時の衝撃を緩和。さらに接地の際に化勁──攻撃の威力を体外に流す勁技──を使って衝撃を大地に逃がしましたが、化勁の修練を少しでも怠っていたら、あの世行きだったでしょう。

 このって、僕に対する処刑人じゃないかなと半ば疑っています。


 そんなこんなでミッションスタートです。


 ●△◽️


 頭が痛い。

 こんなミッション成功するわけがない。

 だからといって投げ出すこともできない。

 とりあえず計画を練らなくては。


 魔族領域に侵入するためには何が必要だろうか。まずは国境まで行くための足。魔族間で使える貨幣、それに変装の道具も必要だな。魔族の姿は多種多様だ。化けるとしたらどの種族が適当だろうか。小魔族ホビットか、吸血魔族ヴァンパイアか、森妖魔族エルフか、人に近い容姿を持つ魔族は何種類かいる。また魔族の言葉は問題ない。実は師匠に一通り習っている。世界の半分は魔族の世界なので使えるほうが便利だという師匠理論で習った。将来絶対に必要にならないと思いながら習得したが、人生先じんせいさきのことはわからないものだ。ネイティブというわけではないが、日常会話は困らない程度はつかえる。どこでボロがでるか心配だが、現在の状況はそれ以前の問題だ。


「どうして頭を抱えているんですか?」


 お前のせいだよ!


 目下の問題はこれだ。

 自分の相棒味方が最大の敵ってどういうことだよ。


 とりあえずこの歩く災厄を爆発させないためにはどうすればいい?

 おりに入れて引いていくか? いや無理だろう。落ち着け。

 犬や猫のように首輪をつけるのはどうだ? いやいやダメだろう。これから魔族領域い間諜スパイしに行くのに、そんなに目立ってどうするよ。

 とりあえず手を繋いで絶えず監視しよう。転びそうになったら支え、くしゃみをしそうになったら口を塞ごう。他に手がない。

 とりあえず手を引いて街中を歩いてみる。これで何も問題が起きないようであれば、道中手を繋いで過ごすことにしよう。


 アニーからその手を引かれる。


「なんですか?」


「あそこです。困っている人がいます」


「ああ、そうですね。行きますよ」


 引いても動かない。このアマ──重身勁を使ってやがる。まるで大岩のような重さに舌打ちする。動くつもりがないということか。


「なんですか?」


「困っている人がいます」


「そうですね、さっきも聞きました」


「では、助けましょう!」


 嘆息。


「お優しいことですね。でも良いですか? 優しさとは余裕のことです。余裕がないと人は他人を助けることができません。そして僕たちには、その余裕がないんです」


 金銭的余裕も精神的余裕も皆無である。


「余裕なんて関係ありません。聖神様かみさまは言いました。汝隣人を助けよ、と」


 あのクサレ神がそんなこと言うわけねえだろ。創作だよ、おめでたいやつだな。


「残念ですが僕のコードネームは背教者なので、信心がないんですよ。さあ、行きますよ」


「いやです」


 ズンッ──

 さらに重くなり、足が地面にめり込んだ。

 こいつ梃子てこでも動かない気か。


「いいでしょう。動かぬなら動かしてみせようホトトギス、です」


 コオォォォォォ────常時よりも大量の魔力を取り込み、それを勁へと練り上げ、強化倍率を最大限まで引き上げる。


 金剛勁。


 金剛力士の如き剛力で彼女を引き摺る。足が地面にめり込んでいるため、深々とした跡が地面に刻まれる。


「むむむむむむ……っ」


 ズズンッ──

 さらにさらに重くなる小娘。

 子泣き爺かっ!

 それでも引く力の方がまだ強い。


「むむむむむむむむむむむっ!」


 ズズズズズンッッ──!


「こんのっ」


 まったく動かなくなった。

 アホかこいつ!


「むむむむむむむむむむむむむむむぅ──っ!」


 ズズズズズズガ────ンッッ!


 さらにさらにさらに重くなり──とうとう道路が陥没した。

 二人して真っ逆さまに落ちた。どうやら下には下水設備があり、空洞だったようだ。

 道路が壊れただけならまだしも、下水管も軒並のきなみ壊した。

 街中に汚水と激臭が撒き散らされた。もちろん二人とも糞尿まみれだ。


 二人してめちゃくちゃ説教されました。

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