第十話 それでも僕は神を信じない


 こんにちは。

 僕です。

 先日のご挨拶からあまり日が経っていませんが、再びペンをとりました。

 せっかくなので、ハンター試験についてお伝えしようと思いまして。

 まあ楽勝でした──と言いたいところですが、色々と予想外でした。

 それというのも──


 ●△◽️


 やってきました筆記試験当日。

 実は師匠から魔法だけではなく、礼儀作法から多言語学まで色々と仕込まれました。

 はっきりと筆記は楽勝です。

 ──そう考えていた時期が僕にもありました。


 え、なにこれ?


『第一問 あなたは神を信じますか?』


 え? ここ教会だっけ? これ僧侶になるための試験?


 そっと視線を上げてカンニングにならない程度に周囲を確認するが、戸惑っているのは自分だけ。

 全員黙々と──問題が解けずに頭を抱えている人もいたが──ペンを動かしている。


 とりあえず僕は問いを解かずに、全ての答案に目を通した。


 なんか性格診断テストと一般常識テストが混ざったような問題が最初の方に並んでいる。中盤から魔物の対策やサバイバル知識についての問題が続き、最後に課題文がありそれに対する小論文形式の問題があった。


 一発目がアレだから戸惑ったが、前世の就活でも、適正検査項目の中に性格診断テストがあったように思う。今回の問題もそれであろう。おそらくこの世界ではスタンダードな問いなのだろう。だから誰も疑問に思わなかったのだ。


 僕はそう当たりをつけて、筆記試験を開始した。


 ──神を信じない


 そう記載し、問題を解いていった。


 ちなみに後で知ったことだが、神を信じないと回答したのは、僕だけだった。

 そのことによりどのような展開が生まれたかは後述する。


 ここまで聞いて、嫌な予感を感じている皆さまは、生存本能が正しく働いている証拠ですね、羨ましい限りです。どうやら僕の生存本能はポンコツだと判明したようですよ。


 ●△◽️


 勘違いしていたが、就活とは違い、筆記の時点で落とされるということはないらしい。

 試験料金を払っているからか、全ての試験を受けさせてもらい、それで合否が決まるという。

 落ちた人は、その試験内容から改善点が配布されるらしい。

 高い試験料を払うだけあって、アフターケアもバッチリだ。翌年は対策をしてまた受験しにきてねってことか? まあハンターギルドにとってはハンターが労働力だからいっぱい受かってモリモリ働いて欲しいのだろう。そのためには試験から労力を惜しまないのかもしれない。ブラックで離職率が高いのはまだしも、死亡率まで高いというのだからドンドン新しい人材を受け入れて育成しないとハンターの人的資源が枯渇してしまうしね。


 そんなこんなで、続いては実技試験だ。

 魔物を倒せるだけの実力を持っているかを確認する。

 大抵の受験者が武技魔法を扱えることをアピールする。なんらかの魔法が使えれば合格できるようだ。なんなく突破。


 実戦試験は、実際にチームを組み魔物退治に行く。


 試験資格が十三歳のため、最年少であるが、他の受験者のレベルが総じて低い。

 全員武技魔法を習得しているのであるが、持続時間が足らず、戦闘中に武技魔法が解除されたり、それどころか魔物と対峙した恐怖から呼吸もままならず、そもそも発動しないということすらままあった。


 あれ? なんか思ってたのと違う。魔法が根付いている世界なのでそこら辺の民でも無双したりするのかと思ってたけど、あれれ?


 もちろん強者もいた。

 高いレベルで武技魔法の呼吸を習得している人もいたし、貴族の血が混じっているのか、第一魔法──攻撃魔法を使う者までいたが、予想よりずっと少ない。

 もっと化物の集いみたいな感じかと思ったが──

 いやここにいるのは受験生だし、きっと熟練のハンターは師匠のように鬼強い者たちであろう。


 実戦試験では、チームワークを発揮できるか、魔物を倒す実力があるかを試しているのかなと思い。ワンマンでも十分いけたが、ほぼサポートに徹した。


 指弾勁。


 曲げた人差指の間に形成した勁弾を親指で弾いて撃ち出す。それにより魔物を弱らせたり、魔物の攻撃を逸らしたりして援護をする。最後は実力を示すために大物を倒させてもらった。楽勝である。


 最後に面接。


「レイフィルド君」


「はい!」


 面接官よりこれまでの試験結果が告げられる。


「試験のできは文句なし。歴代で見てもトップの成績だ」


 内心よしっと思った。


「だが、このまま君をハンターにするわけにはいかない」


 その言葉にピキリと固まった。


 あれれー、おかしいぞー?


 心底不思議そうに首を傾げてみせた。


 コンコンと答案を人差し指で叩いている。


「ここに──神を信じないと記載してあるが、これは書損じか?」


「いいえ」


「……君は神を信じないのか?」


「はい。実在することは知ってますけれど、アレを信じるのは人としてちょっと……」


 え? なんで愕然としてんの?


 この後の説明で理解した事実だが──

 日本人特有の──無神論者の考えが抜けていないことと、あのクサレ神に無力転生させられた恨みが原因であった。

 そもそもこの世界で神を信じていない人族はほぼ皆無と断言できる。第一始祖が降臨される以前であるならばまだしも。それ以降は聖神の御使みつかいである始祖たちにより人族は生存繁栄してきた。どんな悪人であってもその事実は認識している。そんななか神を信じないと堂々と言い放つ輩は、はっきりと異端者と捉えられても仕方がなかった。


 事実、神を信じないと言い切った人物は君以外に、かの『大罪人』しか記録に残っていない。


「──そのことから君には人族への叛乱罪、反逆罪、国家転覆罪の疑いがかけられている」


 それを淡々と告げられた。

 その事実に愕然である。


 神を信じないだけで犯罪者扱いとは、日本では信じられないが、それが今の僕が生きる現実なのである。

 そんな世界で、神を信用しないと言い切った僕。

 面接官たちの視線が、完全に人族の敵と見做して冷たい光を宿している。


 人生終了のお知らせかもしれない。


 師匠。

 魔法だけではなく、礼儀作法とか、文字とか、多言語学とか、教えていただいたのはとてもありがたいのですが、できれば神についての一般常識も教えておいてほしかったです。


 茫然自失としていたのも一瞬、このままでは不味い。どうにかしなければならない。ようやく生存本能がアラートをあげ始めたようである。遅いよ。


 さて、どうするか。


 ①弁明する

 ②開き直る

 ③逃げ出す


 ノータイムで③を選択──しようとしたが、すでにかなりの戦力に囲まれていることに気づいた。

 考えてみれば、当たり前だ。

 神を信じないという危険人物の面接をするのである。安全策くらい用意するだろう。

 壁の向こうから多数の殺気を感じる。師匠までとは言わないが、自分よりも強い気配がこれでもかとひしめいている。さすがに多勢に無勢、これは無理だと嘆息した。


 無言で両手を上げる。


 この歳で、人族への叛乱罪の容疑で捕まってしまった。


 どうなる、僕!

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