第六話 24時間戦えますか?


 親愛なる皆さま。

 どうも、僕です。

 さて、生き抜く強さを手に入れてやると意気軒昂いきけんこうたる心持ちで弟子入りした僕ですが──現在、死にかけてます。

 この師匠、マジで鬼畜でした。


 ●△◽️


 弟子入りしてわかったことがある。

 ①師匠の辞書に、常識という文字はない。

 ②修行は超スパルタである。

 ③そもそも常人とは思考が違いすぎる。

 ④化物の如く強く、聖力、貴族、信仰、武技、技巧、すべての魔法をつかえる。

 この人が僕のチートだったのかと感心したのも束の間、死なないために鍛えているのに、何度死にかけたことか。


 まず聖力の活用だが、所詮しょせん他人から分け与えられた種火くらいしかない力。全力で使えばすぐに底をついてしてしまい一晩休むまで使えないので、伸び代はないと言われた。

 そのことにがっかりしたことは事実だが、この時点でそれを知り、魔法を習えるのは実に運がいい。


 第一魔法は貴族しか使えないので除外するが、第二から第四魔法まで適性のあるものは仕込むと言い渡された。とりあえず強くなるということで最初に教えられたのは武技魔法であった。


 まず徹底して呼吸法を叩き込まれた。空気中にある魔力を取り込み肺に充填させて、より高密度に練り上げ、勁へと昇華させる。それが武技魔法の呼吸。


 身につけるまで修行は思い出したくない。習得するのに、常人であれば数年、才ある者でも半年はかかる呼吸法を、わずか三日で習得させるほどの地獄であったとだけ記しておく。言っておくが、こちとら三歳児だぞ。


 この呼吸法で超人の如き強さを発揮できるが、全力疾走しているようなものなので、すぐにバテてしまう。

 師匠はそれをずっと続けろという。

 それは一回も休憩せず、全速力で走り続けろと言うのに等しい。殺す気かと。肺が攣るという摩訶不思議な体験を何度もした。呼吸困難で死にかける僕に僅かばかりの回復魔法をかけ、さらに叱咤。完全に治すこともできるくせにこの師匠マジ鬼畜。寝そうになったら回復魔法。倒れそうになったら回復魔法。死にそうになったら回復魔法。修行の地獄ループ。誰だ師匠に回復魔法を教えたのは? 回復魔法が拷問に使えるなど考えたこともなかったぞ。というか回復魔法が使えるということは教会に属している──僧侶ということだ。こんな破戒僧がいてたまるか! そうして呼吸法の継続時間が十分を超えたあたりで今回の修行は終了した。


 修行期間は一週間であったが、武技魔法の初歩にして極意である呼吸法を曲がりになりにも身につけることができた。


 師匠はまた放浪の旅に出た。


 次に会う時までに武技魔法の呼吸を二十四時間続けられるようになっておけ──という言葉を残して。


 二十四時間戦えますかというCMがあったなと、現実逃避をした。

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