第11章 罪との闘い

プロローグ 穢土の剣の正体

 イタリアから帰国したあと、桜夜はまた真っ暗な夢の中にいた。岩に腰かけ、目の前にはスポットライトが当てられたようなアルファが、同じく岩に腰かけていた。


「ふむ、穢土の剣、ね」


「はい、そうとしか表現できない力でした」


「それが罪穢れの武具であるのは間違いないな。僕とルシフェルも似たようなものに襲われたよ。そして僕は罪の武具と名付けた」


「罪の、武具?」


「ああ、僕のミスだ。デミウルゴスを倒したとき、その核となっているOriginal Sinを破壊しきれなかったらしい。それは七大罪の力をもって世界に飛び散ったデミウルゴスの怨念を乗せてね。だから我が弟もこれからもっと用心を……」


「でも……」


 桜夜はうつむく。桜吹雪を喪った以上、戦力ダウンは否めない。相談役の座を辞することも検討していた。


「そうか、神殺しの刀を喪ったんだったね」


「はい、あれは先生から譲られた大事な……」


 アルファはふうと笑みを浮かべながらため息をついた。


「ではその先生に聞いてみよう」


「え?」


 その言葉に桜夜は顔を上げる。そこにはスポットライトが1つ増え、死んだはずの宮森明人が立っていた。


「せん、せい?」


 抱き着きたい衝動に耐えていた桜夜は、明人に頭を軽く叩かれた。


「あれほど執着を捨てろと言っただろう。だのにお前は桜吹雪に執着しおって」


「ごめんなさい……」


 子どもの頃に叱られたときのようにしょげてしまう。どうしても“先生”の前ではいくつになっても“生徒”のままらしい。しかし不思議なことだ、と桜夜は思った。今まで明人が夢に出て来たことはなかった。アルファの力なのだろうか。そのことについて尋ねようとすると、アルファは立ち上がり、明人の隣に並んだ。背丈の関係上、アルファが明人を見上げる構図だった。


「まあ、そう言うな。想い出は大事なものだろう?」


「しかし、モノへの執着は……」


 親密そうな2人の関係に桜夜はますます興味をひかれたが、アルファが笑顔を彼に向け、信じられないことを言った。


「さて、桜吹雪を直そうか」


「へ?」


「忘れたの? 僕は生まれながらの神殺し。神殺しの武具を直すくらいお手の物、だよ」


 いつの間にかアルファの手には、鍔と柄だけになった桜吹雪が握られていた。彼が黒い霊力を桜吹雪に注ぐと、失われた刀身の代わりに黒い刀身が形作られていった。


「ほら、持ってごらん」


 桜夜が桜吹雪を受け取ると、刀身は元の薄紅色に戻っていた。アルファが言う。


「君の霊力を込めてみろ。弟よ」


 いわれるがまま霊力を軽く桜吹雪に流すと、その刀身は黒色へと変化を遂げた。


「桜吹雪・夜桜。通常の状態が神の力をもって神や敵を討つのに対して、夜桜モードは僕の神殺しの力をもって敵を討つ。夜桜モードなら、罪の武具にも対抗できるだろう。あとおまけだ」


 アルファが指を鳴らすと桜吹雪が桜夜の身体の中に溶け込んでいった。


「これでどんなときでも桜吹雪を身体から出すことができる。罪の武具の件、ゆめゆめ油断するなよ」


「女にかまけて修業を怠るなよ」


 そう言い残し、アルファと明人は桜夜に背を向ける。


「待って、まだ話したいことが……!」


「僕らも話したいが、今夜はここまでだ」


 そこで桜夜の意識は闇に沈んだ。


to be continued

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