エピローグ 水の都のお土産

 作戦終了後、一行はローマ市内のホテルのスウィートルームに陣取っていた。力を使い果たした桜夜と鷹司、ホムラの回復のためだ。彼らが眠って回復に専念する間、警護を務めるのは四方院家と騎士団の兵力になる。唯一力の尽きていないリオは、父親の消滅でふさぎ込むリンの傍にいた。リオとしては戦いで父と母を喪った経験もあり、リンの気持ちが痛いほどにわかった。だがどうしても言えないこともあった。それはあの穢土の剣を封じた球の中に、イグドラシルの当主が存在している可能性である。この可能性を話してしまえば、リンはそれを欲しがるかもしれない。

 しかし鷹司の治療に専念していたリオでもわかる。あの剣はあまりにも危険な“兵器”だ。当主の様子から見ても、持ち主の意識すら奪う魔性の力があるのは確実だった。ゆえに適切な場所で、かつ適切な方法で破壊ないし封印をしなければならない。だからこそリオは、泣きじゃくるリンの頭を撫で寄り添うことしかできなかった。


◆◆◆


 しかし回復した桜夜たちに、リンが立ち直るのを待つ余裕はなかった。鷹司は護衛として、またリンを次のイグドラシルの当主にするためローマに残ることとなった。桜夜は四方院家宗主四方院玄武と相談の上、四方院家の管理下で穢土の球を封じるため、ローマから日本に即刻立ち戻るように命令が下った。それを受けて桜夜は宝玉をお札でさらに封印した上でカバンにしまった。ヴェネツィアの家に置いてきた荷物は四方院家の人間が回収しており、桜夜は彼宛の届け物を1つ受け取ってから専用機で日本に戻った。


◆◆◆


 穢土の球を玄武に届けた桜夜は速足で自分の家に帰った。


「「おかえりなさい!」」


 サイカとあずさがそう言って出迎えてくれると桜夜は、「ただいま!」と言いながら2人を抱きしめた。しばらくその温かさを堪能すると、今度はリオとホムラを「お疲れー!」と言いながら抱きしめるのだった。


◆◆◆


 さてみんなにお土産とご褒美があります。荷物の整理がついたあと、リビングで桜夜はそう宣言した。それは桜夜がローマのホテルで受け取り、ある意味穢土の球より大事そうに持ち帰って来た木箱だった。彼は木箱を開けてみんなに見せた。


「「「「うわあああ……!」」」」


「ヴェネツィアングラスのペンダント。もともと頼んでいたんだけど、今回出向くからということで知り合いの工房に急いでもらったんだ」


 桜夜は1人1人にペンダントを手渡す。サイカには黄色の、ホムラには赤色の、リオには水色のそしてあずさには透明のペンダントを渡した。あずさが首をかしげる。


「なんであたしだけ透明なの?」


「君はまだまだこれからなんにでもなれるという意味で透明です。リトルプリンセス」


「だからその呼び方やめろって言っているでしょこのバカわんこ!」


 みんなでひとしきり笑ったあと少女たちはうれしそうにペンダントを眺めていた。そんな姿を見て、いのちを張った甲斐があったと桜夜は1人瞳を閉じるのだった。


to be continued


 

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