第6話 邪悪を燃やす炎
桜吹雪を犠牲にしてもなお、穢土の剣を折れなかったことに桜夜は茫然としていた。だが闘いが一旦でも収まったのは事実、リオは鷹司の治療に専念する。ホムラはというと……。
「パパ! パパ!」
「バカ! まだ何が起こるかわからないんだ。近づくな!」
当主の下へ行こうとするリンを必死で押さえていた。そしてホムラの予感通り、穢土の剣は再び穢れを放ち、当主の身体を包み込んだ。次に穢れが晴れたとき、そこには黒いグリフォンがいた。グリフォンは素早く動き、無防備な桜夜を壊れた窓から吹き飛ばす。桜夜より先にその事態に動いたのは鳳凰だった。桜夜の背中に自身の翼を生やさせることで遠くに飛ばされるのを防ぎ、桜夜に反撃のチャンスを与えた。桜夜は使い果たした霊力の代わりに鳳凰の神通力を自身の身体に流し、息を整える。
「この水希桜夜、浄化の業が桜吹雪だけだと思うなよ!」
桜夜は両手から神聖な炎を出し、グリフォンを狙う。だが腹部を負傷し、元から少ない霊力が尽きた状態での戦闘に息を乱していた。その状態ではグリフォンの穢れを乗せた羽ばたきに堪えることもできず、当主屋敷の森に墜落してしまう。
「リオねえ、お姫ちゃんのこと頼んだ!」
「リオ!」
リオはホノカグツチを出現させ、壊れた窓から飛び降りる。窓の外では、グリフォンが四方院家と騎士団の手勢を蹴散らしていっていた。
「邪悪を燃やす炎が使えるの桜夜だけじゃねえぞ!」
ホムラは炎をまとわせたホノカグツチでグリフォンの左の翼を切断する。炎はそのままの勢いでグリフォンの全体に回り、地面に着地したホムラは笑みを受かべる。
「どうだ! 参ったか!」
しかし勝利の余韻もつかの間、グリフォンは穢土の風で炎を吹き払い、口からホムラに向かって穢れた竜巻を吐いた。咄嗟にホムラはホノカグツチから炎を噴出させ、抵抗する。しかし穢れの力は徐々に炎の勢いを殺し、ホムラに死を運んでいく。
「ち、くしょう……」
両手でホノカグツチを握り、じりじりと後ろに押されるのを必死に耐えるホムラ。その小さな身体をふわりと温かいぬくもりが包んだ。ホムラが後ろを見ると、そこには彼女を後ろから抱く桜夜の姿があった。
「ホムラちゃん。レッスンを思い出して。魔力はただ噴出させるんじゃなくて、収束させるんだ」
ホムラは泣きそうになりながら答える。
「へっ。わかってるっての!」
魔力を収束させてホノカグツチに注ぎ込むホムラの両手を桜夜が自身の両手で包み込む。そして鳳凰の神通力を流しこむ。
「いくよ、ホムラちゃん!」
「おうよ」
「「神聖なる炎!」」
2人分の神聖な炎がグリフォンの吐き出す穢れを燃やし尽くし、その身体に襲い掛かる。グリフォンは断末魔の叫びを上げながら消滅し、庭には穢土の剣だけが残された。力を使い果たした桜夜とホムラは座り込む。
「誰か……封印を……」
「俺がやろう」
リオの治療を終えてなんとか回復した鷹司が玄関から出てそう言った。彼はゆっくりと穢土の剣に近づき、大祓詞(おおはらえことば)を唱えながら封印術を施していく。その様子を見て桜夜とホムラは服が汚れるのも構わず大地に横になった。
「桜夜様! ホムラちゃん!」
リオがそんな桜夜とホムラに泣きながら抱き着く。
「無事でよかったです」
「最近は死にそうなことばかりだけど大丈夫」
「お、オレ、も、まだ、まだ……ぜえぜえ」
桜夜は余裕そうに、ホムラは息も絶え絶えにリオに応えながら穢土の剣が封印されていく様子を眺めた。言霊が力となり、穢土の剣を球体へと変化させていく。やがてビー玉サイズの淀んだ玉となり、穢土の剣は地に落ちた。それと同時に鷹司もまた座り込む。
「終わったぞ……」
そんな鷹司に桜夜はからかうような言葉を向ける。
「先代、今なら僕を殺せるかもしれませんよ。大嫌いな僕を」
鷹司は鼻で笑うと皮肉を返す。
「お前こそ、口うるさい先代を殺すチャンスだぞ」
2人の皮肉屋は朝焼けに変わりつつある夜空を眺め、声を出して笑った。
to be continued
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