第5話 ローマの災日 後編
それから1日もたたずに、桜夜主導による電撃作戦が実行された。騎士団と四方院家を中心にしたメンバーがイグドラシル本家の家に正面から攻撃を仕掛け、その隙に裏から桜夜、鷹司、リオ、ホムラ、リンが侵入し、現イグドラシル当主に全権を娘に譲るよう脅迫するという作戦であった。問題は当主が在宅しているかだったが、リンの証言により、儀式がある8月の間は必ず在宅していることが判明した。だからこその電撃作戦だった。また電撃作戦と陽動作戦は桜夜の十八番なので、口うるさい鷹司も今回は反対しなかった。
そして作戦決行の夜。侵入作戦は気味が悪いほどに上手くいった。リンに案内されるまま当主がいる部屋にたどり着く。その観音開きの扉を1,2、3でリオとホムラが開き、鷹司と桜夜が突入した。鷹司が声を張る。
「イグドラシルの当主とお見受けする! 我ら四方院家の前に降伏せよ!」
「くくくく」
「パパ?」
窓の外の争いを眺めているイグドラシルの当主は、一振りの諸刃の剣を握っていた。刀身は淀んだ黒で、桜夜にデミウルゴスを思い出させた。当主は、鷹司の降伏勧告を無視したまま、くるりと桜夜たちの方を振り返った。その目は赤く血走り、明らかに異常だった。
「待っていたよ。水希桜夜。デミウルゴス様の命により、君を殺す。
淡々とそう口にした当主は桜夜に向かって尋常じゃない速さで近づき剣を振り下ろす。桜夜も素早く反応し、腰の桜吹雪を抜きつば競り合う。そのとき彼の心臓がドクンとはねた。
(なんだこの剣は? 穢土のように穢れにまみれている。桜吹雪が穢されて……折られる……!)
桜夜は得意の受け流しでつば競り合うのを止めバランスの崩した当主自身を切ろうとした。しかし当主は人間には不可能な動きでその桜吹雪を剣で受け止めた。再び刀を折られるビジョンにかられた桜夜は飛びのく。そんな桜夜を追撃しようと当主は動こうとする。それを阻止するため鷹司が長巻で切りかかる。
「せんだ……!」
桜夜が鷹司を呼ぶより早く鷹司は長巻ごと身体を薄皮一枚切られた。
「まだまだ……ぐっ」
鷹司は膝をつく。見れば傷口から穢土の穢れが流れ込み、彼の身体を蝕んでいた。桜夜は叫ぶ。
「リオは先代の穢れの浄化を! ホムラは姫の護衛! こいつは〝俺〟が倒す」
鷹司にとどめを刺そうとしていた当主はゆらりとその向きを桜夜の方に変える。桜夜は桜吹雪を鞘に納め、居合切りの態勢を取る。
(先生……。桜吹雪をここで喪うことになるかもしれないこと、お許しください)
一瞬だけそんなことを思うと、桜夜は桜吹雪に少ない霊力をすべて注いでいく。そんな彼に向かって当主が肉薄し、その剣を振るう。
「奥義! 百花繚乱!」
抜き放たれた桜吹雪は薄紅色のまばゆい光をまとい、穢土の剣を迎え撃つ。神刀は光は穢れを消し去らんとまばゆく輝く。しかし穢土の剣は神の力を穢し尽くし、へし折らんとつば競り合いを再び演じて見せた。桜夜は玉のような汗を額にかき、全身から冷や汗流しながら、桜吹雪に力を込める。
「祓戸大神(はらえどのおおかみ)様、桜吹雪に最後の力を!」
「デミウルゴス様! 水希桜夜をこの手で!」
祓いと穢れ、光と闇はより力を掴み、部屋中を力の放流で満たした。リオは鷹司と自分を守るために、ホムラはリンを守るために結界を張る。そんな彼女たちの努力とは裏腹に、2つの力のぶつかり合いはついに限界に達し、力の奔流は部屋を飲み込み窓ガラスを破壊して外に漏れだしていった。
力の奔流が収まりかけたとき、リオたちが見たのは刀身を失った桜吹雪を片手に立つ桜夜と、穢土の剣を持ったまま倒れる当主の姿だった。
to be continued
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