第2話 感動の再会?
一触即発の祝いの席から十月十日、四方院あずさがこの世に産声を上げた。その知らせを受けた桜夜は、次期宗主四方院一(はじめ)とその妻、四方院香織の下を訪れていた。
「一様、この度は誠におめでとう存じます。香織様もお疲れ様でした」
「ありがとう、桜夜相談役。しかし私としては昔のように一兄さんと呼んでほしいかな」
「相変わらず変わりませんね。兄さん。次期宗主候補筆頭となられましたのに」
「人間とはそんなものだよ。さあ、それよりも、君の妻になる子だ。抱いてあげてくれ」
「その話、兄さんは納得されているんですか」
「君とあずさ君の件は知っているし、その件がなくても我が娘を託すのに君ほど男を私は知らないな」
「はあ」
なんとも言えない相槌を打つと桜夜は、香織から赤ん坊――あずさを預かるようにして抱いた。抱いた瞬間にぎゅっと抱き着いてくる赤ん坊に、桜夜もまた何かを感じるのだった。
◆◆◆
数年後、物心ついたあずさと桜夜は対面していた。あずさは目を潤ませていた。
「桜夜君、本当にまた逢えたね……」
「うん、ずっと逢いたかった」
桜夜は跪いてあずさを抱きしめた。あずさも力いっぱい抱きしめ返す。そしてどちらともなく泣き出した。しばらく泣いたあと、どちらからともなく離れると、あずさは笑顔で言った。
「じゃあ、わんこのハウスに行こうか」
「え?」
「お父様が今日からわんこのハウスに住めって。まあ前世からの許嫁なんだから当然よね」
桜夜の顔が人にはわからない程度に青ざめる。なぜなら家には彼に求婚している女性を3人も住まわせている。対面すれば修羅場は待ったなしだろう。
「そ、それはやめておいた方が……」
「なんで? わんこはあたしと一緒に住みたくないの?」
うるうると潤んだ瞳で上目遣いをするあずさ。あざとい奴め、と桜夜は思ったものの、対抗はできずに降参した。
「……わかったよ。でもなにを見ても怒るなよ」
「なに? 散らかしてるの? とにかくしゅっぱーつ!」
小さな手で桜夜の手を握ったあずさは、彼を引っ張って目的地に向かうのだった。
◆◆◆
「水希」と表札が出ている四方院家の中の私邸。その入口をわが物顔であずさは大きく開いた。その音に気付き、三姉妹が全員玄関に集まった時、桜夜は空気が凍ったような気がした。最初に口を開いたのはサイカだった。
「桜夜さん。その、こちらのお子さんは?」
その言葉に桜夜が答えるより早く、あずさが口を開いた。
「あたしの名前は四方院あずさ。桜夜君との前世からの許嫁よ。あんたたちこそ誰? なんで桜夜君の家にいるの?」
「い、許嫁!?」
「どういうことだよ! おい桜夜!」
動揺するサイカとホムラに対し、すでに相談役補佐官として桜夜とあずさを許嫁にする宣下がくだったことを知っていたリオはにっこり笑って対応する。
「初めまして、あずさ様。わたくしはリオと申します。こちらはサイカちゃんとホムラちゃん。わたくしたちはそうですね。桜夜様の婚約者でしょうか」
「はあ!? ちょっとわんこ! 本当なの!?」
「いや、本当というかなんというか……」
あずさに詰め寄られ、桜夜はわずかに身を引く。
「あれだけ切ない別れを演出しておいて、あたしを待てずに他の女に手を出していたわけ!? これだからわんこは!」
「いやあ、君との再会はずっと後のことだと思ってたからねえ……ごめん」
「ごめんで済むわけないでしょ!」
終始防戦一方の桜夜を助けるかのようにサイカとホムラをなだめていたリオが割って入った。
「まあまあ、あずさ様落ち着いて。お部屋でお茶でも飲みながらお話しましょう。ね?」
リオの発する圧力にあずさは首を縦に振ったのだった。
to be continued
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