第1話 四方院家を滅ぼす者

「あやつらの“娘”お主の想い人じゃぞ」


 その言葉に、桜夜は鈍器で殴られたような衝撃を受けた。回らない呂律と震える唇でなんとか言葉を発する。


「それは……あずさが四方院家に生まれてくると?」


「そうじゃ。お主たちは彼女が死んだあと転生できるよう術式をかけてほしいとワシに願ったな? 桜夜、お前は世界のどこに転生しても見つけるつもりだったようじゃが、ワシは無理だと思った。ゆえに……」


「……四方院家に生まれてくるようにしたのですね」


「うむ。余計なお節介をしたこと、隠していたことは詫びよう。わしも成功するかわからなんでな」


「はあ……しかし次期宗主様の娘、ですか」


 迎えにいくという約束だったが、次期宗主の長女となると中々に厳しい。奪ってイギリスにでも亡命するしかないのだろうか。なんて物騒なことを桜夜が考えていると、玄武が口を開いた。


「案ずるな桜夜。娘が生まれれば、お主と娘……あずさを許嫁とする。これは四方院家としての決定である」


 その提案は渡りに船と手放しに喜ぶことのできないものだった。玄武は好々爺を演じているが、その実、桜夜などおよびもつかぬ策略家だ。桜夜に恩を売って四方院家に縛り付け、その血、不死鳥を宿した血を四方院家に取り込む。それが目的だということは桜夜にはすぐに分かった。だから真顔になる。そこで鷹司が口を挟む。


「良かったじゃないか。四方院家と敵対して娘を奪う必要がなくなって」


 桜夜は真顔のまま、鷹司に顔を向ける。そして皮肉な笑みを浮かべる。


「お言葉ですが鷹司公。四方院家と敵対する内外の組織の攻撃を水際で防いでいるのは私です。イギリスのリチャード陛下、白虎家、神原家、宵宮家を後ろ盾に四方院家と戦い勝つことなぞ造作もないことです」


 その言葉に鷹司の顔が怒りにゆがんだ。


「四方院家相談役は四方院家を護る者だ。それが四方院家を滅ぼす方法を考えているなど許されることではないぞ」


「いいえ、鷹司公。相談役は四方院家を監視し滅ぼす者です。四方院家が誤った道を行かないよう破壊することも務めなのです。あなたが知らないはずありませんよね? 先代相談役殿」


 桜夜の皮肉たっぷりの言葉に鷹司は思い切り立ち上がり、拳を振るった。


「表に出ろ。長年の因縁に今こそ終止符を打ってやる」


「いいでしょう。いずれは決着をつけねばと……」


「まてまてまて!」


 桜夜が立ち上がろうとすると玄武が慌てて止めに入った。


「まず先代鷹司よ、桜夜の言っていることは正しい。相談役は戦ってでも四方院家を正さなければならないときがある。だがの桜夜、具体的なプランを話されるのはこの老骨の心臓に悪い。控えてくれい。最後に今日は祝いの席だ。2人とも座って、飲もうではないか」


 玄武の執り成しに鷹司と桜夜はしぶしぶと座りなおしたが、桜夜はこれからのことを考え、気が重くなるのだった。

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