第5話 デミウルゴスを討て! 後編

 サタンがデミウルゴスの身体を切り裂いたことで決着はついたかに見えた。しかし桜夜もサタンも嫌な感覚にかられ、飛び退くようにデミウルゴスから離れた。デミウルゴスの身体から大量のウジやハエが現れ、それらが集まって黒い巨人をかたどっていく。顔のない巨人は桜夜とサタンに拳を振り下ろす。2人は左右に飛び退くことで回避し、サタンは白い翼で空に飛び上がって巨人を見下ろす。桜夜は「魔王第2形態ってか」とつぶやくと、鳳凰を召喚しその上に乗った。


「サタン! 怪獣大決戦といこう!」


 楽しむかのような桜夜の態度にやれやれと呆れながらもサタンは姿を変えていく。知恵(グノーシス)の象徴である巨大な白い蛇の姿に。サタンは光に包まれながらデミウルゴスに巻き付き、その身体を締め付ける。苦悶の声を上げたデミウルゴスはまた大量のハエに姿を変え、サタンの拘束から解き放たれた。その時桜夜が動いた。


「燃やし尽くせ鳳凰!」


 鳳凰は口から邪悪なものだけを焼き尽くす炎を放つ。その炎はサタンを焼くことなく大量のハエをことごとく燃やし尽くしていく。炎に包まれ、ハエたちはぼとぼとと闇の大地に落ちていく。しかし倒せたか? と思う間もなく、闇の大地から再び巨人が生えて来た。巨人は口を引き裂くように開き、大きな咆哮を上げる。その衝撃でサタンも鳳凰に乗った桜夜も吹き飛ばされてしまう。

 桜夜は舌打ちをすると再び鳳凰を自分の体内に収め、変わって自身の背中から大きな鳳凰の翼を生やした。そのまま一気にデミウルゴスに接近すると、神殺しに自身の霊力と少女たちの魔力をまとわせ全力でデミウルゴスを袈裟懸けに切った。しかしデミウルゴスは消滅することはなく、苦悶の声を上げながらも右腕で払いのけた。その威力はすさまじく、桜夜は激しく地面に叩きつけられた。その衝撃で動けない桜夜にとどめを刺そうとデミウルゴスは闇の光線を放った。回避は、不可能だった。

 しかし桜夜とデミウルゴスの間にサタンが割り込んだことで、すぐに死が桜夜に訪れることはなかった。しかし大蛇と化したサタンの身体は闇の光線に蝕まれ、ついには砕け散ってしまう。桜夜は必死に態勢を立て直そうとするが、光線の速さには叶わなかった。だから彼は死ぬ。そのはずだった。だがその死の光線が桜夜を飲み込む寸前、デミウルゴスは顔を上げて叫んだ。桜夜が閉じていた目を開くと、そこにはデミウルゴスを貫く人間の手と手から発せられる黒いオーラがあった。


「よくやったサタン、水希桜夜。おかげでこの世界に入ることができた」


 手の持ち主がそう歌うように言うと、デミウルゴスの巨人はボロボロと音を立てて崩れ去っていった。しかし桜夜には別に気になることがあった。手の持ち主の声があまりにも、誰よりも聞きなれたものだったからだ。デミウルゴスが消滅すると、手の持ち主は地上に降り立った。黒い仮面に黒い服、黒いマントとどこか黒騎士を思わせた。……桜夜と同じく。


「やあ、逢いたかったよ。水希桜夜。僕の愛しい模造品」


to be continued

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