第4話 デミウルゴスを討て! 前編

 桜夜が次に目を覚ますと、霊体となってサタンの玉座にいた。そして自分の首に、黄、赤、青の勾玉がぶら下がっていることと、自分の魂に別の魂が混ざっていることに気づいた。


『あれ? わたし桜夜さんになってる!?』


『なんだコレ! 気持ち悪いっ』


『ふふふ、これで一心同体ですね』


「お前たちが煩いから一体化させてやったのだ。不死鳥の契約者の中に入っていればデミウルゴスに殺されることもないだろう」


「サタン、なんだかんだいってサービスいいよね」


「うるさい」


 こいつツンデレか? と桜夜は思いつつ、歩き出したサタンに続いて歩く。やがて鎖で封印された扉が見えてきた。扉は中から攻撃されているのかドンドンと音が鳴り、そのたびに鎖にひびが入っていった。


「この先にデミウルゴスがいる。準備はいいな」


 桜夜はいつの間にか腰にある桜吹雪に軽く触れる。サタンはそんな桜夜には目もくれず、壊れかけの封印を解き、扉を広げた。その瞬間腐臭と邪気が漂ってきたが、サタンと桜夜はその闇の中に入っていった。暗闇の中ぼんやりと黒いローブを着た男が見えた。その肌はボロボロで、背中は曲がり、杖のようなものを持っていた。とても「神」とは思えない姿だったが、サタンはその男に話しかけた。


「久しいなデミウルゴス。あいつの封印でずいぶん弱ったようだな。殺される前に何か言いたいことは……」


 男は呻くような声を出すと杖を手放し、両手の指をこちらに向けた。そこから大量の触手が現れ、凄まじい速度でサタンと桜夜に迫った。


「いくよ! ホムラ!」


『お、おう?』


 桜夜はホムラにそういうと、右手に神剣火之迦具土を顕現した。彼はそのまま火之迦具土に鳳凰の神聖な炎とホムラの魔力を流し込む。


「焔払い!」


 横一線に火之迦具土を振ると、触手を炎の津波が飲み込み、燃やし尽くしていく。


『桜夜! なんでオレの名前が技名なんだよ!』


「えー? かっこよくない?」


『うるせえ! そもそもお前技名なんて普段言わないだろうが!』


「必殺技は男の子のロマンなんだよ?」


 ぎゃあぎゃあと騒ぐ桜夜たちにサタンはため息をつく。だがその目は冷静にデミウルゴスに注がれていた。デミウルゴスは触手から身体にまで炎が燃え移り、苦しそうにもがいていた。しかしそれは不意にピタリと止み、自分の身体を焼く炎を両手に取り込むと紫色の炎に変えて打ち返してきた。


「リオ!」


『はい!』


 リオの魔力に桜夜の黒の霊力を合わせて強力な漆黒の鉄砲水を放つ。それは紫の炎と拮抗し、それを打ち破りやがてデミウルゴスを吹き飛ばした。倒れ伏したデミウルゴスはぴくりとも動かず、死んだようにも見える。しかしサタンは気を抜くことなく観察を続けた。するとデミウルゴスは身体の関節を一切使わず、あやつり人形が立たされているかのように立ち上がった。


『いくぞ』


「はいはい」


 サタンと共にデミウルゴスに桜夜は急接近を試みる。サタンの左手には天使が持つような金色の両刃の剣が握られ、桜夜の右手には火之迦具土に変わって桜吹雪が握られていた。


「サイカ、特大の雷を頼むよ!」


『うん!』


 桜吹雪にサイカの魔力が流れ込む、バチバチと雷を纏った桜吹雪で桜夜はデミウルゴスを切りつけた。デミウルゴスはくぐもったうめき声を出す。


『今こそ至高神の裁きを』


 サタンはデミウルゴスの身体を剣で脳天から股関まで一気に切り裂く。半分になったデミウルゴスの身体がバタリと左右に倒れた。だが桜夜もサタンも嫌な感覚にかられ、飛び退くようにデミウルゴスから離れた。デミウルゴスの身体から大量のウジやハエが現れ、それらが集まって黒い巨人をかたどっていく。顔のない巨人は桜夜とサタンに拳を振り下ろす。2人は左右に飛び退くことで回避し、サタンは白い翼で空に飛び上がって巨人を見下ろす。桜夜は「魔王第2形態ってか」と嗤った。

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