第6話 訪問者
ロングホームルームが終わるとそのまま今日は解散になった。この後は在校生の方の始業式があるらしく、新入生は残らず帰宅するようにとのことだった。
ユウは解散になるとゆっくりと下校の準備をしてそのまま帰っていった。
帰りの挨拶くらいしたほうが良かったかなと少し思った。
休憩中に話した二人にはきちんと別れの挨拶をしてからタケの席に近づいていくケン。
タケも席の近いクラスメイト達と話をしていた。外からでもわかるほど盛り上がっている。ケンが近づいてきたことに気づいてタケが手招きをする。
タケの周りには男女が混じって複数人いるグループになっていた。タケは姉に似て対人能力が高いのですぐにこういう集団が出来上がる。
幼なじみ二人ほど人付き合いが得意ではないケンはそういうところが羨ましい。そんなことを思いながらケンはその中に入っていく。
「こいつは同じ中学出身のケンだ。ケン、こいつらは席が近くて今さっき仲良くなったんだ」
タケがそれぞれのことを紹介する。
それをきっかけにタケの周りの人達が簡単に自己紹介をしてくれる。皆明るくて良い人達ということはすぐに分かった。
ケンも自己紹介を返し、その後は軽く雑談をして解散する。そうしてタケと一緒に教室を出て帰宅の路につく。
「相変わらず、人付き合い上手いなぁ、お前。その性格が羨ましくなるよ」
タケに思ったことをそのまま言う。
「そうか?さっきの休憩時間にお前も席が近い奴としゃべってたじゃないか」
「まあそれはそうだけど。あそこまで話が盛り上がるほど仲良くはなれてないよ」
「初日だからな。すぐに仲良くなるさ」
タケがなんでもないことのように言い切る。
そういうところがすごいんだけどな、と今度は思ったことは口にせず心の中に留めるケン。
「そういや、さっきの話はどうする?俺は行くつもりだけど」
「んー、止めとこうかな…」
「そうか、まあまた今度行こうぜ」
「ああ」
タケが振ってきた話題は先程のクラスメイト達に誘われたカラオケだった。
ケンも誘われたのだがまだよく知らない人と行くとなにを歌えばいいのか分からないしノリも読みにくい。そういうところで気を遣うのが苦手なので、よりクラスメイト達の人柄を掴んでからのほうが楽しいだろうとケンは考えた。
こういうところで積極的になれないのは自分の弱点なんだろうなあ、と思う。けどそれを無理に変える気もケンにはなかった。
その後は道は特に記憶する必要もないようなことをしゃべりながら二人は家までの道を歩いた。
「「ただいま」」
二人でタケの家に入っていき、そのまま居間にいく。ケンは昼食もタケの家で食べることになっていた。
そこには居間と一体になっているキッチンで昼食の準備をしているタケ母の姿があった。二人に気づいた彼女は笑顔で迎えてくれる。
「あら、おかえりなさい二人共。お昼ご飯はもうちょっと待ってね」
「おっけ、あと午後は俺出かけるわ」
「あらそう、ケン君も?」
「いや、自分は違います。家でやりたいことあるので」
少し理由をごまかして問いかけを否定するケン。
「そうなのね。お昼ご飯はナポリタンね」
「わかった」
「わかりました」
昼食ができるまでぼんやりとテレビを見て過ごす。
平日の昼だけあってどのチャンネルもやっているのは情報番組だ。そのうちの一つを適当に映す。内容は昼間なのに心霊現象特集だった。
そういえば朝の番組でもやっていたことを思い出す。そして連鎖的に学校でみたネット記事、所詮オカルトだと言った自分の発言を否定してきた銀髪の少女が頭に浮かぶ。
あれはどういう意味だったのだろう
そのことを考えだしたらテレビの音と映像はさらに頭に入ってこなくなった。そうして頭を回しているうちに昼食が出来上がった。
いったん考え事は頭の隅においてテーブルに並んだナポリタンを食べることにする。
「「「いただきます」」」
ケン、タケ、タケ母は三人でテーブルに座ってきちんと挨拶をしてから食べ始める。
「そういや姉さんは?上級生も始業式だけだから午前中に終わるんじゃないの?」
「ナギなら始業式の後も生徒会の仕事が少しあるって言ってたわよ。もう少ししたら帰ってくるんじゃないかしら」
「なるほど、大変だね。姉さんも」
タケの疑問にタケ母がすぐに答える。
そんな感じで時々会話をはさみながら三人は昼食を食べきった。
「じゃあ、出かける準備してくるわ」
そう言ってタケが二階の自室に向かう。
「俺も帰るかな。おばさん、お昼ご飯ごちそうさまでした」
「はい、お粗末様でした」
ケンも昼飯の礼を行ってから自分の家に帰る。
自宅に帰り自分の部屋に入る。そして制服にしわができるのも気にせずにそのままベッドに寝転がる。
「ふう」
自宅に帰ってきて一息つく。もちろんタケの家もほとんど自宅みたいなところがあるがそれでもやはり自分の家は特別だ。自分だけの空間という感じがする。普通にタケが入ってきたりはするが…。
「ま、おかげで寝坊したりしなくて済んでるしな」
それは朝が弱い自分にとって本当にありがたい。今日もそのおかげで起きることができた。
「…さて。なにやるかな」
せっかく午後が暇なのだからなにかをやろうとする。無難にゲームでもするかと上半身を縦にする。
「あ、やべ…スマホ忘れた」
ポケットをさぐってスマホが無いことに気づく。さっき昼食を待ってる間に取り出してテーブルに置いたことをそのまま忘れていた。
「…とってくるか」
よっこらせ、と立ち上がり隣のタケの家に再び向かう。
家の玄関を出て外に出る。そこでばったりと出かけようとしていたタケに会う。
「どうした?なにかうちに忘れ物か?」
「ああ、スマホ忘れた」
タケに理由を言ってその場ですぐ別れる。そしてまたタケの家にお邪魔する。
居間に行くとタケ母はテレビを見ながらお茶を飲んでゆっくりとしていた。
「あら、どうしたの?」
「スマホをわすれちゃって」
テーブル上に置きっぱなしになっていたスマホを取ってそれを見せながら先ほどと同じことを答える。
「あらそう、あ、お茶でも飲んでいく?」
「あーじゃあ、頂きます」
タケ母の好意に甘えてお茶をもらう。淹れてもらったお茶を飲みながらタケ母と雑談をしてゆっくりと昼過ぎの時間を過ごし始めた
と、そのとき訪問者を知らせる呼び鈴が鳴った。
「あら、誰かしら?宅配便はないはずだけど」
タケ母が首をかしげながら玄関のほうに歩いていく。
しばらくするとタケ母が今に戻ってくる。
「さ、入って中で待ってて。ナギもそろそろ帰ってくるはずだから」
その後ろに誰か連れているようだ。会話からしてナギ姉の友達らしい。
そう思っていたケンは入ってくる人物を見た瞬間に思考が真っ白になった。
入ってきたのはうちの高校の制服を着た少女だった。だが、その子は高校生とは思えないほど小柄でまるで中学生のように見える。しかし、その子は美しい銀髪をもち、整った顔立ちをしていた。そして身に纏う雰囲気はその女の子がただの女子高生ではなく特別な存在であるかのようにケンに感じさせた。
その突然の訪問者はケンが今日出会った不思議な同級生の少女、ユウだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます