第5話 ホームルーム
入学式が終わるとケン達新入性は各々の教室に戻るため体育館を出て行った。
分かっていたことだがまた階段を登る必要が出たことに嫌気がさしてくるケン。
そんな階段を登りきり廊下を進んでまだ馴染みの薄い自分の教室に入り、席に座る。
担任の針沢も教室に入ると教壇に立ち、クラス全員が着席したのを確認した後に口を開く。
「入学式ご苦労さまだった。この後は十分間休憩のあとロングホームルームをやる。自己紹介とか色々なことについての説明とかだ。それが終わったら今日は終了だ。では十分間休憩!」
そういって教室を出ていく針沢。
クラスメイト達も各々雑談を始めたり、教室を出ていったりする。
タケと喋りに行こうかと思ったが、トイレにでも行くのかタケは教室を出ていく。
ケンは今は特にトイレに行きたいわけではないのでタケを追いかけることはせず、彼と話すのは諦める。
何気なく後ろを見ると男子生徒二人が雑談していたのでそこに混ぜてもらって時間を潰す。二人も今日が初対面らしくケンは自然に混ざって会話することができた。
二人と話しながらも横にいるユウのことが少し気になって時々目が移ってしまう。
というか、その二人も視界にユウが入ってしまうと気になるのか時節そちらに注意が向いている。
まあ日本に住んでいれば銀髪の人に会う機会なんてほぼないから仕方ない。さらにものすごい美少女ときた。これに興味が惹かれない男子高校生はいないだろう。
ふと周りを見ればクラス中から視線を感じる。なんだろう、と思って教室内を見渡す。分かったのはやはりクラスの皆もユウが気になるということだ。男女関係なくクラスメイトがユウに視線をチラチラと向けている。それが近くにいる自分にも向いている気がして少しソワソワする。
しかし当の本人のユウはクラス中からの視線を気にせずなにをするでもなくきれいな姿勢で椅子に座り教室の前をじっと見つめている。
そのせいでものすごく近寄りづらい空気を出していて誰も話しかけることができていない。
そんな若干居心地の悪い空気のままケンは十分間の休憩時間を過ごした。
そしてタケなどの外に出ていた生徒や担任教師が教室に戻ってくる。
もうすぐ十分が経つからだろう。
「よーし、ホームルーム始めるぞ」
担任の針沢の呼びかけでホームルームが始まる。
「まずは自己紹介からだな、じゃあ出席番号順に頼む。」
そういわれると出席番号一番の右端列の先頭の生徒から自己紹介を始める。出身校、趣味、入りたい部活などよくある内容だ。
皆が順調に自己紹介をしていく。一人が終わるごとに軽く拍手の音がなる。
その間ケンは自己紹介が終わるたびに拍手をしながらありきたりな自己紹介の内容を考え、それを頭の中で反芻して練習する。
そしてケンの番がやってくる。
ケンは立ちあがると少し緊張を持ちながら考えていた通りに自己紹介を始める。
「鎧河中学から来ました。、岸本健です。趣味はゲームと読書、読むのは主にSFや推理小説です。部活は入るかどうかは悩んでいます。これから一年間よろしくお願いします。」
早口ぎみになりながら無事噛むことなく言い終わると、まばらな拍手を受けながら着席する。
事なきを得て安心したケンは緊張が解ける。その後は聞き手に戻り一人が終わるごとに拍手する機械になっていた。
そうやって何人かが終えたタイミングで左隣の席の生徒が起立する。ユウだ。
クラスメイト中の雰囲気が変わった気がする。皆がユウに集中する。
そんなことには一切気にしないまま口を開くユウ。
「氷野幽です。今年、外国から十年ぶりに帰ってきました。好きなことは心霊スポットやパワースポット巡りです。よろしくお願いします」
ぺこり、と最後に丁寧にお辞儀して椅子に座る。そうしてまた綺麗な姿勢で前を向く。
ユウが立って話して座るまでの間、ケンはユウに釘付けになってしまっていた。
ユウの自己紹介自体は珍しいがおかしな内容ではないし姿勢や話し方も普通だった。むしろ姿勢はきちんと背筋が伸びていて話す速度も聞き取りやすい。
だが、その纏っている空気だけで周りとは全く違うものに感じられた。
他の人もそう感じたのだろう。拍手の音がなるまでに今までより間があった。
そうしてユウの後ろの席の人が更にワンテンポおいて自己紹介を始める。
そこから先の人は特に変わったこともなくするすると進んでいき、全員の自己紹介が終わる。
「よし、皆ありがとう。これから一年間一緒に勉学に励む仲間だ、仲良くやっていこう」
最後に針沢が大きな声で締める。
「では、次は来週から始まる授業や学校生活について説明していく。長くなるがしっかりと聞くように」
そう言って針沢は時々黒板に大事なことを書きながら説明を始める。
宣言通り針沢の様々な説明は長く、そしてあまり面白くないものだった。
時間が経つにつれケンの意識はまた隣のユウに引っ張られていく。
ユウは自己紹介が終わって着席したときから全く変わらない姿勢で視線だけ針沢に向けて彼の話に真面目に耳を傾けているようにみえた。
残りのホームルーム中にケンが何度そっと左横を見てもその光景はずっとそのままそこにありつづけたのだった。
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