第3話 クラスメイト

ナギと別れたケンは新一年生らしき人達が向かっているほうへ向かう。

 その先には掲示板があり新一年生のクラス表が張り出されていた。

 ケンも自分のクラスを確認しようと近づいていくが掲示板前には多くの新入生が集まっておりクラス表を確認できるほど近寄るのは難しそうだ。

 人が減るのを大人しく待とう、とケンが決めて後ろのほうで突っ立っていて少し経ったとき後ろから肩を叩かれた。反射的に後ろを振り向くとそこには先程ぶりの幼なじみのタケがいた。

「お、今ついたのか?クラス表ならあそこだけど今すぐ確認するのは難しそうだぞ」

 ケンが少し後ろに下がってタケに並びつつ現在の状況を説明する。

 するとタケは何も意外ではないといった風の顔つきで

「知ってるよ。ここに着いたのはお前とほぼ同じタイミングだからな」

「ならもっと早く声をかければよかったじゃないか?」

「いやあ、珍しくナギねえと二人きりだったんで声をかけないほうがうれしいんじゃないかなぁと」

 タケが全力でニマニマしながらからかい始める。

「う、うるさいな!そんなこと気にすんじゃねぇ!」

「いやあ、人の恋路を邪魔すると馬に蹴られるっていうしさあ」

 全力でタケのからかいを回避しようとするために奮闘するケン。

 その努力が実らないまま数分が経過すると掲示板前の人数が減ってきて、張り出されたクラス表が確認できるようになる。

「ほら!クラス確認するぞ。時間もそんなに余裕がないし」

やってきた脱出チャンスを逃さずにケンがおおげさに張り切って素早くクラスを確認するために前に進む。

 その背中の後ろをからかうことに満足したタケがついていく。

 掲示板に張り出されたクラス表をぱっと見ると多くの人の名前が書いてあり自分達の名前を探すのは少し時間がかかりそうだ。

 二人でクラス表を端っこから見ていって自分たちの名前を探す。上の方にクラス記号が書いてあってAからF組まであるらしい。

「おっあったあった。俺もお前もC組だな」

 先にタケが二人の名前をみつけてクラスを知らせてくる。

 少し遅れてケンも名前を見つけてその事実を確認する。

「本当に一緒だな。これで宿題とか色々楽できそうだ」

「だな。二人で半分ずつやれば片方は写すだけで済むな」

 入学早々に不真面目なことを二人で相談し始める。そのとき、後ろから小さいがはっきりと聞こえる声が二人に対して発せられた。

「……どいてもらえますか」

 後ろを振り向くとそこには小さな女子生徒がこちらを見つめていた。

その少女は声の印象通り背が低く、一瞬更に後ろの別の人と目が合合ってしまうほどだった。改めてその子を見るとその顔つきも幼かったが人形のようにきれいで整っている。またその髪は外国人なのか綺麗な銀色をしていて美しく余計に人形のような印象を与えた。そしてその容姿からなのか普通の人間ではないような不思議な空気を纏っているかのように見える。

 そんな女子生徒に圧倒されて二人が一瞬固まっていると彼女がもう一度口を開く。

「……あの、どいてもらえますか」

「あ、ああ、すみません」

 先にフリーズから復旧したケンが敬語になりつつ少女に謝罪する。そしてタケを連れて掲示板前から退け、そのまま自分たちの教室に向かい始める。

 歩きながらタケが話し始める。

「なんか、すごい子だったな」

「ああ、同じ新入生かな?」

「だろうな。でなきゃクラス表なんか確認しないだろ」

「それもそうか。とっさに敬語になっちゃったよ」

「そうだな、あれは敬語になってしまう」

 タケが大きく頷く。

 そうこうしてるうちに階段に差し掛かり登っていく。

 この高校の校舎は四階建てで一年の教室は最上階の四階だった。

 一番上の階だけあって登るのに思いの外疲れ、ケンが早速ぼやき始める。

「面倒臭いな、階段登るの。これが一年間か」

「こればっかりは仕方ない」

 それに対して苦と思っていないタケがあっさりと返してくる。

 そんなこんなしながら階段を登りきり、四階の廊下を歩いていってC組の教室を見つける。

中に入るとすでに多くの新しいクラスメイトが集まっていて、それぞれが何人かで固まって喋っていたり、本を読んだり、机に突っ伏していたりと思い思いの方法で時間を潰していた。

 教室の前の方を見ると黒板に席の位置が書いてある紙が張り出してあることに気づく。それを見ると席は右の列から五十音順、つまりは出席順になっていた。

 ケンとタケが教室に入ったタイミングでちょうどよくチャイムが鳴る。

「思ったよりギリギリだったな」

「いや、まだ登校時間まで五分あるから予鈴だろう」

 タケがケンのひとりごとに的確な予想をする。

「なるほどな。まあ、席に着いておくか」

「そうだな、じゃあ後でな」

「ああ」

 ケンとタケはそれぞれの席に座るために別れる。

ケンが岸本なので右寄りの席、タケが無頼なので左よりの席なので二人の席は離れた位置にあった。ケンの席は真ん中から少し左後ろのあたりの席だった。

 ケンが自分の席を見つけて腰掛ける。

ケンが落ち着いたと同時に教室に一人の女子生徒が入ってきた。そケンを含め教室にいた多くのクラスメイトがその少女に視線を奪われてしまう。

「あれは…」

 ケンが無意識に口を開く。

 それは先程の掲示板前でであった銀髪の不思議な雰囲気を纏った少女だった。

 同じクラスだったのか、とケンは少し驚くと同時に彼女に改めて興味を持つ。やはり何度見ても存在感がある。

 そしてその少女はこちら側に歩いてくると偶然にもケンのちょうど左隣の席に座ったのだった。

「…どうかした?」

「あ、いや、なんでも」

 ケンの視線に気がついた少女が声をかけてくる。

「さっきは悪かったな」

「さっき?」

 ケンの謝罪の意味がわからず少女は可愛らしく首を傾げる。

「いや、さっき掲示板の前でクラスを確認する邪魔しちゃったから」

「ああ、さっきの人…。別にもう一回謝られることじゃないよ」

「そう言ってくれるとありがたい。俺は岸本健。これから一年間よろしくな」

 ケンがそう自己紹介をすると少女はこちら側に全身を向けるように座りなおしケンとしっかり目を合わせて自己紹介をしてくれる。

「私は氷野幽(ユウ)。よろしくお願いします。」

 こうしてケンは不思議な雰囲気をもつクラスメイトの少女ユウと出会ったのであった。


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