第2話 通学路
ケンは家を再度出て今度は学校への道を進む。今日から通う高校は家から徒歩で通える範囲でありケンにとってそれは嬉しい点だった。
朝の教訓を生かして慣れで中学への道を行かないように注意して歩く。
高校、中学の通学路が途中まで同じなのでさっきまでケンが来ていた制服を着た学生もちらほら見かける。
その中に自分と同じことをしたおっちょこちょいがいないかなんとなく探してしまう。通学路の分岐点まで来たが残念ながら知っている顔は見かけず同志を見つけることはできなかった。
分岐点からは新たな通学路を歩き始める。全く歩いたことがない道というわけではなかったが、朝に歩くことはなかったのでケンは新鮮な気分になる。
同じ高校の制服を着た学生達の中を歩いていく。
高校の制服を着慣れた雰囲気の人もいれば自分と同じくどこか違和感があったりサイズが大きめの人もいる。在校生と自分と同じ新入生が混じっていることが分かる。中には兄弟なのかそれぞれの雰囲気を持つ人が一緒になって歩いている。少し羨ましく思いながらケンはその人達を見た。
ここを曲がったら高校が見えてくるという交差点にたどり着きそうになる。
そこには先程自分より早く出かけたナギねえがいた。
近くには同じ制服の女子生徒がいた。何かをナギねえと話しているようだ。
珍しくナギねえの顔に戸惑いがみえた。彼女はどんな人とでもコミュニケーションができるほど対人スキルが高いのでこういった光景を見る機会は少ない。
ケンがそれの光景を眺めていたら、たまたま彼女と目があった。
ナギねえはそれをチャンスとばかりにその女子生徒との会話をなんとか打ち切るとこちらに早足ぎみに向かってきた。
「ケン、ちょうどいいとこに来てくれたわ」
近くにきてよくみえるようになったナギねえの顔には明らかな安堵の色が浮かんでいた。こんなことでも思い人の役に立って褒められたことで少し嬉しく感じる。
「どうしたんだ?なにか変なことでも言われたのか?」
「いや、べつにそういうわけじゃないんだけど」
「にしては、ナギねえにしてはらしくないんじゃないか?」
「ま、まあ、そういうこともあるわよ。とりあえず学校に行きましょう」
長い付き合いのケンでなくてもなにかをごまかそうとしてるのが丸わかりな口調だったが、ケンはこれ以上追求するのをやめた。無理に聞き出そうとして機嫌を損ねるのを恐れたのだ。
なぜならこの久しぶりの二人きりの機会を失いたくなかったからという個人的な理由があったからだ。
「一緒に行くのか?なにか急いでたんじゃないの?」
このチャンスが勘違いでないかどうかをケンは気持ちを顔に出さないように意識しながら確認する。
「どうせもう間に合わないわよ。スマホを取りに戻ったのでギリギリだったんだから。後で会長達に謝らないといけないわね」
勘違いでないことに喜びつつ再度表情をつくりながら返す。
「生徒会に入ったんだっけか、面倒くさそうだな」
「そうでもないわよ。今回の入学式準備のようなことなんてそう多くはないわ。普段は書類業務みたいな雑用メインよ。」
ナギが交差点を曲がって学校までの最後の長い直進路を歩き始めながら答える。
「相変わらず、そういうことを積極的にやるよな。もっと自分の好きなことをすればいいのに」
ケンがナギの横に並んで登校を再開させつつ普段から思っていることを口にする。そのときのケンの口調はどこかトゲトゲしい。
「いいのよ、別に苦じゃないし。誰かがやらなきゃいけないことだもの。やっていれば楽しいこともあったりするしね」
そのときのナギの表情には言葉通りまったく負の感情はみえず、むしろ明るすぎるくらい明るくケンとしては何もいえなくなる。
不満が残りつつもせっかく久しぶりにナギと二人なのでなにか他の会話にしようと、ケンは話題を変える。
「今日から俺も高校生かあ。実感ねぇなあ」
「そうね、あんた達二人がもう高校生なんてね。中身はまだまだ子供なのに」
ナギが笑いながら返す。
ケンはその笑顔に若干見とれつつある事実を言う。
「ナギねえだって歳は一つしか変わらないじゃないか」
「だとしても、わたしからみたらタケとケン二人共まだまだ子供よ」
「くそぅ、いつまでも子供扱いしやがって」
ケンが悔しさを滲ませ、それをみたナギの笑顔が増す。
そして今度はナギが話題を変える。
「けどあんた達が二人共、私と同じ高校に来るとは思わなかったわ。タケはともかくあんた学力的にはギリギリだったんじゃない?」
「うるさいな、家が近くて楽だから頑張ったんだよ」
第一の理由は隠しつつ第二の理由で誤魔化そうとするケン。
「そんな理由で高校選ぶのもどうかと思うけど。まあ、レベル上のとこにちゃんと受かったんだから、すごいすごい」
ケンの本意には一ミリも気づかないまま思ったことを口にするナギ。同時にケンの頭を乱暴に撫でて褒める。
「やめい、髪が乱れる。周りから変な目で見られる」
ナギの手を払いながら注意を飛ばす。
実際、二人と同じ制服を着て道を歩いている人達から注目を浴びている。
「ごめんごめん。けどそんな変なことしてないし目立つことはないわよ。」
「…自分が目立つってことを自覚してほしい」
隣に聞こえないくらいの小さな声で文句を垂れるケン。ナギはその見た目の良さから非常に目立ちやすい。その弟のタケも同様の理由から目立ちやすいので二人と一緒に行動するとどんなところでも注目される。
「ん?なんか言った?」
「なんでもねぇよ」
「?そう、ならいいけど。ああそういえば…」
ケンのぼやきを気にせず次の話題に移るナギ。
この後、学校に着くまでの短い時間を二人は特に意味のない雑談をして過ごした。だがこの時間はケンにとっては久しぶりの少し緊張しつつも楽しい意味のあるものだった。
そして学校に到着しナギは二年生の下駄箱に向かうため別れをつげる。
「じゃあ、またあと家でね」
「おう」
名残惜しさを感じつつナギに返事をしてケンも新入生たちが集まっている方向へと歩きだした。
朝からいいことがあって上機嫌になったケンの足取りは軽いものどった。こんなことがこれからは毎日起きる可能性があるということに気づきケンはさらに高揚した。
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