荒野をゆく元勇者
荒野をしばらく歩いていた。荒涼とした地面を踏みしめながら歩いていると馬車に担がれて魔王軍との前線まで連れて行かれたことが恥ずかしく思える。俺のまわりで戦っていた人はこうして戦場まで向かっていたんだな……
自分がどれだけ人のお世話になっていたのかしみじみと感じながらしばらく歩くと悲鳴が岩陰から聞こえてきた。
そちらを見てみると盗賊らしい数人と、襲われている馬車がいた。
「これで一財産になりますねアニキ!」
「ああ、女の方は奴隷商にでも売るか。男は殺していいぞ」
やれやれ、魔王が死んで魔物が弱体化しても人間の方は早々変わらないらしい。
「助けて! 助けてください!」
しゃーないなあ……
「もしもーし! そこの盗賊! さっさと失せろ、殺すぞ」
「あ゛ぁ!」
小物がこちらを威嚇してくる。見た目からいかにも大したことのない人間だと見て取れる。武器を持って気が大きくなっているだけで雑魚以外の何でもないだろう。
「おいガキ! ぶっ殺すぞ!」
「アニキ! アイツが自警団を呼ぶかも知れませんぜ」
「そうだな、運が悪かったと思って死ねや」
交渉決裂、どうやら死にたいようだ。
俺は護身用のナイフを一本取りだし人質の近くに居るやつの元へ素早く移動して喉を掻き切る。
血がブシュッと噴出して男は倒れる。
隣の男の心臓にナイフを突き立てて殺す。後はアニキと呼ばれていた男だけだな。
「おま……お前はなんなんだよ!? 俺は……俺たちは……」
「俺が守った人間にこんなことをされると守る気も無くなるな……」
ナイフを男の眉間に向けて投げ、男の頭が破裂してしまった。力加減を間違えたようだな……どうにも全力で戦った魔王戦の感覚が抜けていない。
ナイフを拾って収納魔法で水筒をとりだし、ナイフに付いた血を洗い流す。
さて、と。
「大丈夫ですか? あの手合いってまだ居るんですね」
気軽に襲われていた人たちに声をかける。
「え、ええ……大丈夫です。ありがとうございます! 死ぬかと思いました」
あの程度の相手と命のやりとりにもならないだろうに、俺は土魔法で大穴を開けポイポイと死体を投げ込む。その上に魔力で死体を分解する速度の速くなった土をかぶせる。
悪人ではあるが人間の死体には敬意を払うべきだ。魔王との戦闘で出た死者のことはしっかりと覚えている、彼らにも家族が会って生きるために必死に戦ったのだ。悪人でもそのくらいはしてやっても構わないだろう。
「あの、あなたのお名前は……」
「ロードだ、タダのロードですよ」
「そうですか、ロード様このご恩、決して忘れませぬぞ」
「そうかね、じゃあ早いところ行くといい、いつまでも留まっているとまた襲われるぞ」
商人らしき男は顔を青くして俺に一礼してから馬車を出していった。盗賊も馬車を破壊していないようだし、あの人たちも無事王都に行けるだろう。
しかし……一度血に染まった手は綺麗にできないものだな……
俺は死体の埋まった地面を見ながら、自分が強いということは責任がついてくるのだなと感じ入った。
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