新人パーティを助ける勇者
荒野を進んでしばらくしてくると荒れ地に草が少しずつ見え始めてきて、もう少し進むと木々もポツポツと現れてきた。どうやらこの先は森のようだ。
森と言えばエルフだが、エルフは魔王軍との戦いに参加してかなりの数を減らしている。おかげで森の中で魔物が育つ環境ができてしまったらしい。
たくさん死んだんだな……俺がエルフにあったときに許してもらえるだろうか? 恨まれても仕方ないくらい犠牲を払っている。
まあ……恨みをぶつけられるならそれくらいは受け止めよう。俺が守れなかったのだから当然だろう。
そうして予想通り森に着いた。強い敵がいるような気配は感じないので勢いで入っていってもいいか。
ザクと森に踏み入ったのだが、魔王討伐でほとんどの魔物が弱体化したので雑魚しかいないな……戦うのも面倒だな。
『サンクチュアリ』
自分のまわりに雑魚よけの結界を張ってと……この森に出てくるやつなら近寄れもしないだろうな。よしよし、じゃあ行くか。
森の中を進んでいく、魔王がいたころは魔物がいたのだが、今はすっかり平和になっている。まだエルフがいる可能性があるので出来る限り森の中を荒らさないようにする。森と共生している連中を刺激してこの平和を崩すようなことをしてはならない。
森を分け入ったところ、湖畔に出て、そこでたき火をしているパーティがいることに気が付いた。もう太陽も沈んでいるというのに火の赤が光を出していた。
そこで俺は気が付いた。周囲に三匹くらいの魔物の気配を感じる。弱体化した魔物は接近されるまで気づかないほどに弱い、弱すぎて逆に感知するのが遅れてしまった。
俺は急いで湖畔にいる連中に警戒しろと叫ぶ。
「えー? なんですか?」
「――――げろ――逃げろ――」
森のせいで声が届かない。魔物の気配はもうすぐそこに感じられる。しょうがない、俺が倒すか。
ガサッと音を立てヘルキャットが三匹出てきた。どうということのない魔物だが、新人なのだろう、不意打ちに驚き戸惑っている。
「くっ……遠い……」
多少森に傷が付いてもしょうがないな! 「悪いなエルフの皆!」いるかどうかは知らないけれどお詫びはしておく。
「フレアボール!」
俺の火球でヘルキャットは全て燃え落ちた。消し炭になったのを確認して新人パーティへお説教だ。
「お前ら大丈夫か? ダメだろ森の中で見張りも立てずたき火なんかしちゃ」
「すいません! 助かりました! すっかり平和になっていたので油断して……」
魔道士であろう少女が感謝をしてくれた。一応助けた甲斐があったというものだろう。
「おい! なんで勝手に戦闘に割り込んできたやつに謝ってるんだよ! 俺の力があればあの程度の魔物……おい! あんたはなんで割り込んできたんだ!」
「明らかに魔物に気づいていなかっただろう、あの程度の魔物なら死ぬようなことはまず無いがここは森の中だぞ? まともな治療ができるのか?」
「っ……! 行くぞ! 俺たちはいずれ勇者より有名になるんだ! ここでこんな男に付き合ってる暇はねえんだよ!」
先ほど感謝してくれた少女は『ありがとうございます』とこっそり言ってから五名のパーティーは森の外へ向けて歩いていった。
「『勇者より有名に』か……」
なんとも皮肉な話じゃないか、有名になりたい目標に助けてもらってそれに気が付いていない。結局勇者などと言うのはなろうとしてなるものではないのかもな……
俺はたき火に水をかけて消し、結界魔法で魔物よけをしてから、収納魔法で野営の道具をとりだして眠りについた。あの新人たちができれば俺より有名になって、世間に注目される役目を代わってくれるように祈りながら目を閉じた。
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