第4話 許し
私には両親の記憶がない。
ただ、園に入る前に男の人に抱っこされている
微かな感触は残っていたが、それが父だったのか?
はわからない。
園にいると、”寂しい”と思わない事も無かったけど
周りに同じ境遇の
それは当然の感情であったし、空気のようにいつも漂っていた。
たまに、「本当の家族ってどんなかなあ?」と
みんなで寝る前に話題にした。
あれやこれや空想して楽しんだが
その夜はよく眠れなくなった。
園ではちいさな弟・妹の面倒を看るお姉ちゃん
というよりお母さんに近い感覚だった。
だから保母さんになるのは、自然の流れだったのかもしれない。
早く結婚して本当の家庭が欲しかったけど
保母さんになって、お母さん方の家庭の愚痴を
聞くようになるとむしろ慎重になってしまった。
園に来る子の大半が両親が離婚しているからだ。
だから付き合う人は家庭的な人をと慎重になって
なかなか恋愛が出来なかった。
つきあい始めてもさらに相手にも厳しいハードルを
強いてしまっては、長続きするはずもなかった。
なのに聖光に出逢ってからは、逆になってしまった。
どんな失敗をも全て受け入れて、まるで園児に接するように
成長を感じむしろその状況を楽しんでいた。
そして気がついた、私が怖がっていたのは失敗ではなく
私自身を許すことだったのだと
聖光を失う事を畏れるのでは無く、それによって自分自身が
傷つく事を許せなかった。
そう誰も傷付かずに生きていけないし、傷付けて生きてはいないのだと
聖光は痩せの大喰らいだ。
初めて食べる私の作る日本料理の数々を
少し青みがかった瞳を爛爛と輝かせて
「美味しい」「美味い」と何度も繰り返した。
だから彼が一番たくさん知ってる単語は料理名だと思う。
あの日(聖光を拾った記念日)も腕に縒りをかけて料理していた。
後ろで彼の気配がした。
長身を
肘をつく"ラックラックー"が一発ギャグなので
こちらも目の高さに近いのを利用して
”秘孔へその穴”で撃退しようと
振り返ったが、見上げたところには彼はいなかった。
なぜか私より低く屈んでいた。
新しいギャグなのかと思い
「じゃましないの!」と笑いながら叱った。
しかし、彼は真剣な表情で片ひざをついた姿勢のまま
両手で小さな箱を差し出してきた。
そのあと彼が何か言ったはずなのだが、自分の嗚咽で全く聞こえなかった。
そしていつまでも彼の大きな胸の中で泣き続けた。
でも今、その時の左手くすり指の輝きが失せようとしていた。
私はこの失敗し傷つく事を許せるのだろうか。
彼女の話の途中から
両方の心臓がじりじりと呻いた。
理由なき核心はある。
この女性は小さい体に大きな愛を宿し
彼を信じ自分を信じ未来を信じてきた。
だが奴はそんな彼女を騙し
この世界の日本人の生活に上手く溶け込んで
その狂気の素顔を隠しながら
己の欲望のままに
またこの時代にもあの凶行を重ねようと
しているのか・・・・
彼女はうつむきながら淡々と話していたおかげで
真っ赤に充血し残忍ともいえる眼光で
俺に睨まれていたことを気が付かずに済んだ。
「お願いします。彼を探してください。」
そう言うと、スマートフォンで自撮りした
仲睦まじいカップルの画像を見せた。
その幸せが詰まった画像をみながら
俺は心の奥底から憎悪の雄たけびを揚げた。
間違いなく奴だ。やっと見つけたぞ。
この3年間まさに血まなこになって探し回り
追い続けてきたが、まさかこんな所に隠れていたのか。
今度こそ逃がさないぞ。
ジャック・ザ・リッパー 切り裂きジャック
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