第1部 第3章夢捜索
第1話 尾行
私は遅番の帰宅が21時を過ぎてしまうことが多い。
聖光は近くのクリーニング店で働いていたので
少し先に帰っていることが多かったのだが
ここ一か月ほど前から
なぜか徐々に帰りが遅くなっていた。
最初は残業でもしているのかと思い
それほど気にしないようにしていたが・・・
クリーニング店オーナーの老夫婦に
さり気なく聞いてみた。やはり残業など一度も無かった。
逆に彼目当ての女性客が増えたとうれしそうに
お礼を言われたが、それをうわの空で聞いていた。
思い切って直接彼に尋ねてみたが
「ちょっとサンポしていた。」とか
「本屋で日本語の勉強のため立ち読みしていた」とか
それらしくない答えしか帰ってこなかった。
怖かった・・・
どうしようかとイマちんに相談した。
「浮気でもしてるんじゃない? (笑)」と
慌てて慰めるように
「よし、休みの日にいっしょに尾行しよう。」と提案された。
一旦は断ったのだが
彼が初めて朝帰りした翌日、彼女に一緒に"尾行"してとお願いをした。
聖光はクリーニング店の閉店15分過ぎには迷うことなく
なぜか家から反対の方向に歩きだしていた。
急ぐでもなく、身長に合った歩幅だったが
私達には、彼を見失わないように
小走りしながら追いかけなくてはならない速度ではあった。
駅前商店街のもう二本先の路地に
彼の影がすっと消えたのを見て
二人顔を見合わせ決心して
手を繋ぎながら後について行った。
なぜならそこはいわゆる飲み屋街であり
若い女性も入れるような居酒屋は
駅前ロータリー前にしかなく
ここの奥には風俗店もあるような
女人禁制ともいえる一角であったからである。
幸い他に誰ともすれ違わず、狭い路地で彼の後を追い続けられたが
心臓の鼓動も聞こえてきそうなくらい緊張が走っていた。
気が付くと繋いだ手のひらに、どちらの物ともいえない
冷汗をたっぷり掻いていた。
「もう止めようか?」と
そうイマちんに言おうと口を開きかけた時
「あっ・」
彼女が小さな声をあげた。
慌てて聖光を注視すると
どこから湧いてきたのか、ひとりの女性が聖光の首筋に
両腕でまとわりついていた。
”キスをするっ!?”
そう思った瞬間、彼は長身の身体をさらに伸びあがらせた為に
その女は彼の胸元に顎をぶつけてしまった。
それでもそれに懲りずに、そいつは彼の両手を引き
紫色の扉を開けて店の中に二人で消えていった。
スナック「MiMi ミミ」
趣味の悪いピンクの看板のネオンは、四隅が消えていた。
「なんだあ。帰りが遅いのはここに来てお酒を飲んでたんだよ。」
イマちんは私を納得させようとしてくれたが
彼がアルコールを飲まないことは、彼女も知っている。
私がいつまでもその方角を凝視していたので
「あそこに行こう。」
手を繋いだまま彼女はある店を指さした。
そこには古びて小さい焼き鳥屋があった。
入口わきの
睨んでいるようで
他に若い女性がいられる場所は無く
意を決して"ふるさと"とひらがなで書かれた
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