第12話:ネコカフェデート後半

「ここです」


 絹澤先輩に案内されたのは駅からバスで10分ほどにある猫カフェ。可愛らしい見た目の建物からはまだネコの声は聞こえない。


「入ってみましょう」

「ええ……!」

「先輩、テンション上がってます?」

「……そんなことありませんよ」

「声のトーン上がってますよ」

「っ、行きますよ」


 ぷいとそっぽを向き。

 絹澤先輩はネコカフェの中へと入っていく。いつもより足取りが軽い。やっぱりテンション上がってますよね?

 頬を緩ませながら。僕は先輩の後ろを付いていくのだった。


※※※


 受付を済ませ。

 手の消毒を済ませると、いよいよネコとのご対面だ。扉の向こうから愛くるしい声が聞こえる。


「さぁ、開けますよ」

「ええ……」


 ガチャリとネコ達のいる部屋と繋がっている扉に手をかけ、いよいよご対面する時だ。ゆっくりと部屋に足を踏み入れる僕達。その先には楽園が広がっていた。


「わー……すごい」


 思わず声が漏れる僕である。

 独特の獣臭と、辺りに響く「にゃーにゃー」という愛くるしい鳴き声。

 どの子も暖かな部屋の中でつくろいでいて、社会の怖さなんて少しも知らなそうだ。

 まるで天国、楽園、ヘヴン。

 一瞬死んだかと思った。


「すごいですね、先輩」


 僕が隣にいる絹澤先輩に話しかけると。

 先輩の顔はだるんだるんに緩みきっていた。こんな顔、僕にだって見せたことない。そのくらい……正直あほ面だった。なんだか悔しい。


「ふぁ、ふぁぁ……」

「先輩? 顔すごいですよ……?」

「ネコさん……ネコ様……もふもふ天国……」


 よく分からないことをブツブツ呟く絹澤先輩。ちょっと危ない人みたいだ。ネコは校内一の秀才も骨抜きにするようだ。


 そんな時、絹澤先輩の足元に一匹の子猫がやってきた。白の体毛に小さな身体。壊してしまいそうでヒヤヒヤする身体の作りだ。


「あっ……ど、どうしましょう……! ネコさんが私の足元に……っ」

「落ち着いて下さい。取り敢えず触ってみたらどうです?」

「サワ、ル? ワタシガ? ネコサン、ヲ?」

「いや、その為に来たんでしょう」


 妙なカタコトで喋る絹澤先輩。

 いつものクールさはどこへ行ったのか。

 これはこれで可愛いな。今のうちに目に焼き付けておこう。


「わぁ……すごいです、ホントにもふもふ……市島くん、すごいです……」

「うん、もふもふですね。可愛い……」


 二人で子猫を撫でる。

 絹澤先輩はずっとふわふわした顔をしていた。猫パワー恐るべし。


「にゃー」


 子猫が絹澤先輩のスカートにしがみついてきた。どうやら相当彼女が気に入ったようだ。


「はわわっ、どうしましょう……どうすればいいでしょうか……」

「気に入られちゃったみたいですね。でもごめんね、ネコさん。先輩のスカート傷付けちゃうから離れよっか」


 僕がそう言うと。

 子猫は渋々手を離し。

 不満そうに鳴く。


「にゃー」

「ごめんね。ほら、僕のズボンなら引っ掻いていいから」

「にゃー……(ヤだよこのヤ〇チンが……)」

「なんかすごい鳴いてますね。市島君も気に入られたのでしょうか」

「そうだといいですけどね」


 猫語なんて理解できない僕達は。

 それからたっぷりとネコカフェを満喫するのだった。

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僕の彼女は普段無愛想で厳しいけど実は僕のことが大好き まちだ きい(旧神邪エリス) @omura_eas

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