第7話:図書館でおやすみなさい
今日も僕と絹澤先輩は図書館で勉強する。
放課後のゆったりとした時間だ。
先輩と一緒に勉強しながら、分からない問題を教えてもらったり。たまに先輩をからかったりしている。そうすると「馬鹿……」といって頬を染め上げるので本当に可愛い。
カツカツと響く、ペンが走る音。
絹澤先輩が隣で黙々とプリントに書かれた問題集を解いている。
絹澤先輩の横顔は絵になるほど綺麗で、髪をかきあげて「ほぉ……」と吐息を漏らす様は見惚れるほど蠱惑的だった。
こんなに美しい人の恋人になれるだなんて幸せ過ぎる。
……それにしても眠たい。
昨日は少し遅くまで起きていたから。
それに、エアコンの効いた涼しい部屋の居心地が良くて。いや、1番の理由は大好きな絹澤先輩の隣にいることだろう。彼女と一緒にいると落ち着く。本当に不思議なかただ。
僕があくびをすると。
絹澤先輩が一言。
「眠たいですか」
「えっと……まあ、少し」
「昨日は何時に寝たのですか」
「12時は過ぎてたと思いますけど」
「夜更かしはいけませんよ。身体にも悪いし、勉強にも影響が出ますから」
子を叱りつける母親のような。
厳しくも優しい口調。
僕は素直に反省する。
「すみません……」
「次から気を付けるのですよ」
「はい。ああ、でもホントに眠いな……」
先輩の隣にいるのが心地よくて。
先輩の存在が愛おしくて。
僕はもう限界になった。
「少し、寝ていいですか」
「30分だけ、ですよ」
「はい。30分経ったら教えて下さい」
「……分かりました。30分経ったら本当に起こしますからね」
「はい。お願いします」
僕は先輩を少しからかおうと。
こう言った。
「先輩」
「はい」
「子守唄、歌ってもらえませんか?」
「……馬鹿」
「無理ですよねー……ははっ」
「さっさと寝たら」
「はい。すみません……ではしばらくおやすみさせて頂きます」
「……ん」
先輩がペンを走らせるカツカツという音や。プリントをめくる紙の音、それから机に伝わる振動を感じながら。
僕はしばらく寝ることにした。少し机に突っ伏していたら、すぐに眠りの世界に突入した。ああ、幸せだなぁ。
※※※
(寝たの、かな)
私、
彼は私の……恋人だ。ああ、ダメだ。改めて考えると顔が真っ赤になってしまう。
すーすーと寝息を立てている市島君。
私はそーっと彼の肩を指でつついてみる。
……へぇ、男の子の身体って意外と柔らかいのね。触ったことなかったから知らなかったわ。
まだ起きる様子のない市島君。
今度は少し大胆にほっぺをつついてみる。
ぷにっとした感触。……わぁ、本当にぷにぷに。女の子みたい。
「……可愛い」
ポツリと私はそう口にする。
いけない、彼に聞こえたら恥ずかしくて死んでしまう。だが1度言った言葉は取り消せなくて。言葉にしたことによって、自分が彼に対してそんな気持ちを抱いていることが分かってしまい。茹で上がったように身体の体温が上がっていくのを感じた。
「……市島君」
「すーすー」
「市島君」
「……ん」
起きてない、よね。
私はそれを確認すると。
彼の背中をそっと撫でながら。
こう囁いた。
「アナタのこと、嫌いじゃないですよ……」
どんどん好きになっていく。
今は口に出せないけど。
いつか、彼に言えるといいな。
アナタのことが愛おしいと。
私は彼の為に歌を歌ってあげる。
図書館だから静かな声で。
彼にだけ聞こえるボリュームで。
「ねんねーん、ころりよ……おころりよ……坊やは良い子だ……ねんねしな──」
寝てる時の市島君は何だか可愛い。
起きている時は私を恥ずかしがらせるのが大好きなイタズラさんだけど。
……本当に馬鹿な子。でも優しい心を持った子。一直線過ぎて、たまに前が見えていない時があるけれど。
私は時計をチラリと見る。
あと5分ほど経ったら起こそう。
そしたらまた彼は私をからかって遊ぶだろう。本当に馬鹿な子。でも君のこと好きよ。最初に告白してくれた時、君の目は他の男と違ったから。本気で私と付き合いたいんだって伝わってきたもの。
……私ってチョロいのかしら。
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