第6話:ドーナッツ屋さん
ピピピッと。
目覚まし時計が鳴る。
時刻は朝の六時。お弁当を作る時間だ。
僕、
階段を降りてキッチンに向かう。
家族はまだ誰も起きていなかった。
僕は冷蔵を開け、材料の確認をする。
冷凍のミニハンバーグに昨日炒めておいたピーマンと人参。夕飯の残りである炊き込みご飯もある。
「よし、作るぞ……」
僕は小さくそう言って。
料理を始めるのだった。
お弁当を作り終え。
学校に行くまでテレビ観ながら食パンを食べる。映し出されていたのは美味しそうなドーナッツ屋さんの映像。この近くに最近オープンしたお店らしい。
(学校の近くだ。帰りに寄れるかな)
絹澤先輩は僕が誘ったら付いてきてくれるだろうか。そんな期待を抱えながら、僕は朝食を終え、家を出る準備をするのだった。
※※※
「ドーナッツ屋さん、ですか」
「はい。帰りに行きませんか?」
放課後。図書館で勉強中に。
僕は絹澤先輩にそう提案した。
先輩は少し考え。
「少しなら」
「良かった。ありがとうございます」
「でも、私お金あまり持っていなくて」
「奢りますよ」
「本当にいいんですか?」
「はい。お弁当を自分で作り始めて、お小遣いも上がったので」
「そうですか……なら」
そして僕達が向かったのは、通学路の間にある商店街。周りには色々なお店が並んでおり、美味しそうなお菓子の匂いやパンの香ばしい香りが鼻腔をくすぐった。
「ここですよ。ドーナッツ屋さん」
「……綺麗なお店」
「入ってみましょう」
目的先のドーナッツ屋さんへと歩を進める。夕方なこともあり、人の数はそんなに多くない。店内に流れるジャズはとてもオシャレな雰囲気で、僕達を心を盛り上げてくれる。
僕はまずトレーとトングを手に取り。
まずはひとつのドーナッツをトレーに入れる。全体をチョコでコーティングしてある定番のやつだ。すると絹澤先輩は興味深そうに。
「そうやって選ぶんですね」
「先輩はこういうお店始めてですか?」
「ええ、まあ……」
「先輩の初めてに付き添えて光栄です」
「……なんですか、それ」
絹澤先輩はムッとした顔をして。
そのあと、近くに並べられてあるいちごドーナッツを見つけると、目を輝かせる。
「……っ」
「先輩、これが食べたいんですか?」
「……別に」
「隠さなくていいですよ。じゃあこのいちごドーナッツ、トレーに入れますね」
「……馬鹿」
先輩はいつものように僕を可愛く罵倒して。あとは黙って僕がお会計するのを眺めているのだった。
僕達は二人用の席に座り。
ドーナッツと、それからコーヒーをテーブルに並べる。絹澤先輩は目の前にあるいちごドーナッツをキラキラした瞳で眺めている。めっちゃ可愛い。
僕がニコニコしながら先輩を眺めていると。
「……あの、市島君」
「何でしょうか、絹澤先輩」
「ええと……その、なんていうか……あまり見ないでもらえると嬉しいというか」
「先輩が可愛すぎて、どうしても見てしまいます」
「私のせいなの……?」
「先輩の罪深いところです」
「……はぁ?」
意味が分からないといった顔をしたあと。
恐る恐るいちごドーナッツを手に取る絹澤先輩。そしてどことなく妖美な仕草で食べる。
「ん……」
「美味しいですか?」
「……ええ」
「先輩って、友達とこういうお店来たことないんですか?」
絹澤先輩は少し間を開けて。
「私……友達と呼べるかたはいなくて」
「そう、だったんですね」
「遊びに誘って下さるかたはいらっしゃるのですけど、勉強が忙しいって断ってしまって」
「それには何か理由が?」
絹澤先輩は僕の顔をチラリと見て。
自嘲気味にこう言った。
「私、無愛想でしょ。だから、誘って下さったかたに迷惑かけてしまうかなって、そう思って……」
「勉強が忙しいというのは」
「半分断る為の嘘です。でも、今日これて良かった。多分市島君が誘ってくれなかったら……こういう場所にも来なかったと思います」
先輩は沢山いい所があるのに。
だからこそ遊びに誘われているはずなのに。先輩は周りに遠慮して、全て断っている。なんて美しい心を持っているんだ。誰かに穢される前に僕が保護してあげないと。
「先輩」
「はい……」
「今日、これて良かったですね」
「……っ、もぉ、君って子は……本当に……どうしてそんなに……の……」
ボソッと先輩が何かを呟いた。
僕は彼女に聞き返す。
本当は何を言ったか聞こえていたけれど。
「先輩、もう一度、今の言葉、もう一度言ってください」
「……っ」
「ん……? なんですか?」
僕が絹澤先輩に耳を近付けると。
先程とは違う言葉を言うのだった。
鼓膜に響く、大好きな女の子の罵倒。
「馬鹿……ほんっとに」
僕は聞こえていた。
さっき先輩は「どうしてそんなに優しいの」と言った。僕は聞き逃さなかった。もっと先輩のデレがみたい。次はいつ見れるだろうか。
甘さ多めの放課後デートを過ごす僕達だった。
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