第2話:図書館で一緒に勉強する

 学校が終わり、放課後になった。

 僕、市島いちしま晴人はるとには恋人がいる。ひとつ上の学年の絹澤きぬさわ海華うみかさんだ。

 普段は無愛想でつっけんどんで厳しい絹澤先輩だけど、僕は彼女のことが大好きだ。


「絹澤先輩……! お待たせしました」

「……ええ」


 放課後の図書館にて。

 僕達は待ち合わせをして、勉強をする。

 先輩はもう既に始めていたみたいで、机には教科書やノートが並べられていた。


 僕は絹澤先輩の隣に腰掛け。

 そして──教科書は開かず、黙々と勉強している絹澤先輩の横顔を眺める。

 スーッと通った鼻筋。

 白磁のように透き通ったキメ細やかな肌。

 少しつり上がった中華風の目。

 どれもこれもが彼女を美しく色っぽく装飾している。それに頬も赤らんでいるし……ああ、これは見られているからか。


 絹澤先輩はしばらく勉強を続けていたが。

 耐えきれなくなったのか、不機嫌そうにコチラをチラリと見て。


「あの、市島いちしま君……」

「はい、何でしょうか絹澤きぬさわ先輩」

「いや、何でしょうか、ではなくて……」

「何か分からない問題でもあるんですか?」

「私に分からない問題はアナタも分からないでしょう……それに私、二年生よ?」

「あはは、そうですね。でも先輩が分からなくて悩んでいるなら僕も一緒に考えたいので」

「ありがたいけど……別にいいわ。って、そんなことじゃなくてっ」


 絹澤先輩はまず僕のカバンを見る。

 中には教材が入っている。

 そして次に僕の顔を見る。

 多分「勉強しなさいよ」と言いたいんだろう。ああっ、先輩に見つめられて幸せだ。

 

 そして絹澤先輩はこう言った。


「アナタ、ここに何しに来たんですか」

「絹澤先輩の可愛い顔を見る為です」

「勉強する為でしょ……って、何よ、可愛い……とか」

「そういう仕草も可愛いです。ホント大好き」

「っ。馬鹿……」

「はい、馬鹿です。先輩が可愛すぎて馬鹿になっちゃいました」

「黙りなさいっ……もぉ、さっさと勉強したら」

「あはは、分かりました……」


 あまりしつこすぎても嫌われてしまう。

 僕は絹澤先輩を隣で感じながら。

 教科書類を取りだし、勉強を始める。

 黙々とペンを走らせていると、ふと絹澤先輩がポツリと。


「そこの問題、間違ってるわよ」

「え、どこですか」

「問3のここ。ちゃんと公式は頭に入ってますか?」

「えっと、実はよく分からなくて……」

「分からないままにしておいてはダメですよ。授業に付いていけなくなる前に、担当教員に質問しに行くこと」

「先輩に聞くのはダメですか?」


 先生に聞くより絹澤先輩に教えてもらったほうが分かりやすいから、僕は彼女にそう訊いた。すると先輩は極めてクールな口調で。


「構いませんよ。時間がある時で良ければ」

「先輩……」

「何でしょう」

「大好きです」

「っ……馬鹿」

「めっちゃ好きです。優しい」

「何が目的ですか……?」

「やだなー、彼女を褒めるのは恋人の務めじゃないですかー」

「節度をわきまえることを覚えなさい」

「先輩が可愛すぎて、わきまえることなんてできません」

「はぁ……? もぉ結構です……ほら、分からないとこ教えてあげますから、集中しなさいっ」

「ふふ、分かりました」


 今日も絹澤先輩は可愛いな。

 そんなことを思う僕だった。

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