僕の彼女は普段無愛想で厳しいけど実は僕のことが大好き
まちだ きい(旧神邪エリス)
第1話:先輩彼女との馴れ初め
「好きですっ。付き合ってくださいっ!」
高校に入学して。
初めて告白をした。
相手は一つ上の二年生の女性。
名前は
名前の通り絹のように美しい栗色セミロングの髪を肩まで掛け。顔立ちは可愛いというよりは美しい系。まるで有名彫刻家が彫り上げた一流の作品のように。
学年成績は入学当初から1番で、彼女に憧れる生徒も多い。
絹澤先輩は僕に告白され。
無愛想な顔をさらに無愛想にさせる。
彼女はいつも不機嫌な顔をしていて、周りの生徒からは『冷血の絹澤』なんて呼ばれていた。でも物珍しさに告白してくる男子生徒もいるらしい。
「……アナタ、何年生?」
「はっはい。一年生です」
すると絹澤先輩は一言「そうですか……」と呟き。そして──まるで僕に対してゴミを見るかのような見下した顔になる。そしてこう言った。
「こんな下らないことしてないで、勉強したらどうなんですか。それとも何、アナタ暇人なの?」
「……」
「私なんかに構っていないで、その時間をもっと有意義に過ごしなさい。それにね、私は馬鹿が嫌いなんです。何の努力もせず甘い汁だけ
酷い言われようだ。
……正直興奮した。
確かに今のままじゃ絹澤先輩に釣り合わないよな。努力しなきゃ。
僕は彼女にこう言った。
「じゃあ……もしも僕がアナタに釣り合う男になったら、付き合ってくれますか……?」
「ええ、誓います」
「具体的には、何をすれば……?」
「そうですね、なら……学年で1位の成績を収めたら、付き合ってあげます。2位や3位はダメ。1点の差でもダメよ。狙うのは1位です」
「本当に、学年1位になったら付き合ってくれるんですか……?」
「はい、誓います……では、私は忙しいので失礼しますね」
そう言って。
絹澤先輩はその場をあとにした。
僕──
──僕がそんな彼女と出会ったのは、つい昨日の話だ。
※※※
あの日、僕はいつも通り学校が終わったあと、本片手に廊下を歩いて図書館に向かっていた。友達が今日用事があって一緒に下校できないというので、久しぶりにひとりで本でも読もうと思ったのだ。
──そんな時、廊下の曲がり角で男子生徒の声が聞こえた。
「ねー、絹澤さん。一回でいいからオレと付き合ってよ。頼むっ。おねが~~い(笑)」
僕よりひとつ上の二年生の先輩だ。
どうやら誰かに告白しているようだ。
その相手が絹澤先輩だった。
チャラそうな男子生徒に半笑いで告白されている先輩の目は死んでいた。まるでウジ虫を見るかのように。
聞き耳を立てる僕。
すると絹澤先輩はポツリと。
「……そんなに」
「は?」
「そんなに私と付き合いたいんですか」
「あー……? まあ、普通に」
「そう、ですか……」
絹澤先輩は男子生徒に対してこう言った。
「私、馬鹿が嫌いなんです」
「……は?」
「正確にはなんの努力もしないで甘い汁だけ
すると男子生徒は眉をビクつかせて。
「は? は? は? 意味不すぎない?」
「意味不ではありませんよ。でも、本当に私と付き合いたいというなら、そうね……学年で2位の成績になってみなさい。1位は私だから、2番目ね」
「学年1位って……そんなの無理すぎでしょ」
男子生徒は絹澤先輩を面倒くさく思ったのか。ぶつくさと文句を言う。
「めんど……いいよもう。そんなガチで告った訳じゃないし。じゃ、俺もう行くわ……」
去っていく男子生徒を最後まで軽蔑した目で見ていた絹澤先輩。
何だか格好いい女性だなって思った。
僕は廊下の角から先輩のことをずっと見ていた。すると反対側の廊下から女子生徒がやってきて。
「絹澤さん、良かった。まだ学校にいたんだね」
「ええ、少し呼び出された……いえ、用事があったもので」
「そっか。それでね、お礼がいいたくてさ。この前勉強教えてくれてありがとう! 絹澤さんが教えてくれたとこ、ちゃんとテストに出たよ」
「そうですか……それは何よりです」
無愛想な表情で女子生徒に対応する絹澤さん。でも相手の女子生徒は本当に感謝してるって感じの顔で。心から嬉しそうだった。
……そうか、この人はちゃんと頑張った人には向き合ってくれるんだ。冷血な人間なんかじゃないんだ。僕はそう思った。
──だから告白した。
先のことを考えずに告白したのは反省するけど、僕はもう決めた。絶対学年1位の成績になって絹澤先輩と付き合うんだって。
絹澤先輩に告白したあと。
僕は猛勉強を始めた。
まずは国語。教科書に書かれている内容を頭の中で繰り返し読む。内容が完全に理解できるまで、何度も何度も。授業を聞いて大事そうだと思った部分はノートに書いてあるから、教科書と睨めっこしながら勉強を進めていく。
数学は割と簡単だった。
公式さえ覚えていれば、あとは場数を踏めばいいだけ。僕は文系科目より理系科目のほうがどちらかというと得意なので、多分そんなに苦労しないだろう。
こんな感じでほかの教科にも手をつけていく。幸いにして僕には時間がある。部活にも所属していないし、委員会にも入っていない。
……でも幼なじみの女の子はいる。
「晴人ってさ、最近ずっと勉強してるよね」
「ん? まあね」
「なに、東大でも入りたいの?」
ある日の教室で話しかけてきたのは。
同じクラスで幼なじみの
緑がかったクセっ毛の黒髪をボブカットにして、顔立ちは美しいというより可愛い系。
身長は小さくて、150センチ半ばくらいだ。
そんな伊夢に僕は言う。
「実は、絹澤先輩に告白した」
「わーお。やるね」
「そしたら、学年1位になったら付き合うって言われたんだよ」
「そりゃまた……大変だね」
僕は学年順位でいくと、真ん中より下の成績だ。どちらかというと馬鹿な僕だけど、本気で頑張れば、きっと学年1位になれるはずだ。
「絶対絹澤先輩と付き合うんだ。だから、絶対学年1位になってやる」
「頑張れ」
伊夢はグッとガッツポーズをして。
僕を応援してくれるのだった。
※※※
──そして、日は経って。
学年の成績順位の発表日になった。
ゴクリ、と生唾を飲む僕である。
掲示板に張り出されるズラーーっと横に長い紙。ここには全生徒の学年順位が書かれている。
「結果楽しみだね、晴人」
「うん……すごく」
隣にいる伊夢がポツリとそう言った。
きっと大丈夫。
だってあんなに努力したんだから。
僕は張り出された学年順位の紙を目で追う。
──そして、僕の名前を発見した。
「……そんな。嘘だ……」
結果は学年2位。
1位との差はなんと1点だった。
あと1点。されど1点。
絹澤先輩は1点の差でもダメだと言った。
きっと許してくれないだろう。
「クソ……」
本気で頑張ったのに。
本気で取り組んだのに。
なんで報われないんだ。
確かに絹澤先輩を好きになった理由は浅いし、まだ彼女のことを僕は何も知らないけど。だけど、本当に好きだったから。本当に付き合いたかったから。だからこの結果が辛かった。
「晴人……大丈夫?」
「……うん。ありがとう、伊夢」
「……教室、戻ろっか」
「…………うん」
絶望の黒を塗りたくられたような最悪な気分でその場をあとにしようとする僕達。
──その時、一年生達が騒ぐ声が聞こえた。
「お、おいっ。嘘だろ……あの
見ると、絹澤先輩が僕のほうに向かってきた。相変わらず無愛想だけど、整った容姿。栗色の髪はその名の通り絹のように綺麗で。
絹澤さんは僕の前に立つと。
横にいる伊夢にこう言った。
「彼から何か聞いていますか?」
「えっと、はい……一応」
「そう、ですか……」
絹澤先輩は少しだけ顔をうつむかせ。
そして──なんと頭を下げたのだ。
「申し訳ありませんでした……アナタの大切な人に無理をさせてしまって」
「……網澤先輩っ。僕は無理なんて……」
ピッとふらつく僕を指さし。
厳しい口調でこう言う網澤先輩だ。
「寝てないでしょ、アナタ。それに、ロクに食べてない。見て分かります。アナタが相当無理してるって」
「……っ」
何も言い返せなかった。
網澤先輩は少し表情を緩め。
「嬉しかったわ」
「え……?」
「こんな私に本気になってくれて。それが言いたかっただけ。それじゃ……」
クルッと振り返って。
後ろ姿を僕に向け、その場をあとにしようとする絹澤先輩。──なんだよ、それ。滅茶苦茶格好いいじゃないか。
僕は衝動的に何かを感じたり、行動してしまう性格だ。だからすぐに絹澤先輩のことを好きになったし、すぐに告白した。
──だから、また僕は衝動的に動いた。
「絹澤先輩……!!!」
「っ?!」
突然の大声に驚いた様子の絹澤先輩。
振り返り、立ち止まる絹澤先輩。
僕はこう言った。
「絶対次のテストでは1位になってみせます……絶対アナタと付き合ってみせます……だから、まずはお友達からっ、始めてもらえませんか……?」
一瞬、目が点になる絹澤先輩。
周りの生徒も黙り込んでいる。
緊張した雰囲気が辺りを包む中。
絹澤さんは少し恥ずかしそうに。
「お好きなように……」
これが僕達の出会い。
僕と絹澤先輩の関係はお友達から始まった。
それから数ヶ月が経って。
「やった……学年1位だ……!」
念願の学年順位1位になることができた。
すぐに絹澤先輩のもとに行った。
すると先輩はフッと柔らかな笑みを浮かべ。
「これからよろしくお願いします……」
とだけ言った。
遂に絹澤先輩と付き合えるのだ。
これほど嬉しいことはない。
そして、これから甘々な生活が始まるのだ。絹澤先輩も僕に甘えてくれて、僕も彼女に甘えて……。
そんな甘々ライフを想像していたのに。
「絹澤先輩、一緒にお昼食べましょう」
「……ええ」
「絹澤先輩、一緒に帰りましょう」
「……お好きなように」
「絹澤先輩、また明日」
「……はい」
うーん、素っ気ない。
本当に僕達は恋人になったのだろうか。
少し寂しく思って僕は絹澤先輩にこう訊く。
「絹澤先輩」
「なんでしょうか」
「大好きです」
一瞬呆気に取られる絹澤先輩。
そして──そのあと、顔を真っ赤にさせ。
「っ~~~」
「あ、顔真っ赤」
「っ、馬鹿……」
「絹澤先輩、可愛いです」
「っ! 馬鹿馬鹿馬鹿っ」
顔を真っ赤にさせたまま。
じーーっと憎らしそうに僕を睨み。
頬を膨らませる絹澤先輩。
どうやら僕は、僕が思っているより彼女に好かれているようだ。
……青春の始まりである。
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