第3話 主人公登場ッ!!

 取り敢えず家の前まで来たわけだが、なんだか緊張するな。

 自分の家なのに変な感じだ。

 俺は自分の頬を叩く。


「よし、ここは俺の家なんだ…」


 ドアに手をかける。

 ゆっくりとドアを開ける。


「あら、おかえり」


「今日は、早いんだな」


 いつもの光景。

 掃除する母に、休日にゲームをする父親。


 なぜか懐かしい。

 泣きそうになるほど切ない。

 この世界の俺は俺じゃない。


 …いや、俺は俺だな。

 死んでも、死んでからも。

 間違いなく俺は今生きているのだから。


「ただいま」



 ***********



 夜になった。

 俺はもう決心していた。

 どうせやらなきゃBAD ENDなんだ、それならとことんやってやる。

 大好きな玲奈ちゃんを攻略してやる。


 モブをなめるなよ。

 全キャラの好物や苦手な物を知っているモブ最強の俺達がBAD ENDからHAPPY ENDにしてやる。

 

 明日、このことは学校で誠也に話そう。


 そうして眠れぬまま朝が来た。

 推しと会えるという嬉しさと、どうやってこのゲームを攻略しようか、とか色々考えてたら眠れなかった。

 …よし学校に行こう。


「お、おーい蓮司ぃ~」


「おう、誠也か…眠そうだな…」


 誠也もやつれてる。

 寝れなかったのだろう。


「この世界のゲームについてだが…俺はこのゲームをするつもりだ、お前はどうする誠也」


「するに決まってんでしょ!」


 知ってたよ。

 お前はそういう奴だ。

 推しの為なら死ねる奴だからな。

 流石の俺でもこいつに負ける。


「よかった…教室に行こうか」


「だな!」


 俺たちは2年3組に向かう。

 因みにこの学校は、千石学院高校という私立の高校だ。

 

「おはよう!!」


「おっす…」


 俺達は教室に入るが、何か違和感がある。

 クラスメイトは変わっていない。

 何時もみたいに誠也に集る女子に、俺に話しかけてくる男子生徒。


 でもなんだ?

 この違和感。


「おい、なんかおかしくないか?」


 女子達の隙間から誠也を引っこ抜いて聞くが、こいつが分かるわけないか。


「うん、机が2つ多いね…」


「いや、聞いた俺が馬鹿だっ…ん?」


「え?だから机が2つ増えてるよね……はッ!もしかして馬鹿にされてた!?」


 うっそん。

 なんでわかんねん。

 こいつバカキャラやったやろ?


「よ、良く気付いたな」

 

 まぁ…なんだ、そういうこともある。

 あの席の一つは誰かわかるが、もう一つは誰のだ?


 と考えていると背中に人がぶつかってきた。

 

「あ、すまな…」


「いえ大丈夫です、こちらこそすいません」


 ここここここいつは!!!

 主人公!!


 と、驚いていただろう、そう過去の俺ならな。

 しかーし私天才なわけで主人公だと一目で分かってしまったのです!

 恐ろしいぃぃ!!自分の洞察力が怖いよぉお母さん!!!


 まぁ、勿論誠也も気付いたんだから驚くなんてそんな事…


「ぁぁぁぁーーーー」


 声にならない「あ」を叫んでいる。

 怖い、普通に怖いよ。

 いいや、こいつはほっとこう。


「本当に申し訳ない、えっと……」

 

 ダメだ、名前が分からん。

 適当に言ってみるか?


「さ、佐藤君!」


「神崎です……」


 終わった…

 いや、まだだ! 

 下の名前は俺の付けたキャラの名前かもしれん!!


「神崎レジ君だよね?」


「神崎新です……」

 

 あぁ……終わった。

 いや、まだだ!

 言い訳しよう!


「すまない新君、しかし許してくれ俺はクラスの大半の人の名前を憶えていない!!」


 新君は何を言ってるんだという顔でこっちを見てくる。

 そして思い切り肩に手を置く。

 

「何が言いたいかというとつまり君だけじゃない…!!」


「あぁ、そうなんですか~…ははは…」


 失笑。

 圧倒的失笑。

 魂飛んでいきました。


「お、おい大丈夫か?」 


「誠也か、いや何でもない…席に着こう」


 誠也は無言で頷いた。


 暫くすると先生が入ってきた。


「おーし、お前ら新しい生徒がこのクラスに増えるぞぉ~」


 転校生か、この時期に珍しいな。

 ん?転校生?


 ガラリとドアの開く音がする。

 ゆっくりと前を見る。


 知らない、シナリオだ。

 知らない、キャラだ。


「花宮のどかです、よろしくお願いします」


 間違いなくそこには美しいイレギュラーが立っていた。

 

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る