第4話 機械化に迷う旅人

「どうしたもんだろう。きっぱりと君が決めてもらえないだろうか」

「やめといたほうがいいんじゃないですか?」

「なんで! 絶対に便利なのに!」

「じゃあ、やったほうがいいんじゃないですか」

「適当だなあ! 適当だよ! 真面目に考えてよ! そりゃ君には関係ない話かもしれないけどさあ!」


 実際、全く関係のない話だった。少なくともマリにとっては偶然出会った旅人が機械化するかどうかで迷っている話は関係もなければ興味もない。


「下半身を一気に機械化することによって、機動力がとんでもないことになるんだよ。つまり、すっげえ速く動いたり、飛んだり跳ねたりできるわけだよ」

「機動力を上げてどうするんですか?」

「どうって……その、旅が楽になるじゃない」

「そもそも機械化についてが良く分かってないんですけど、メンテナンスは必要ないんですか?」


 機械、と言っても地球で言うところの機械とは違う。この異世界での機械化は魔法具という魔法の力が込められた宝石を組み込まれた機械である。電気の変わり、という感覚だろうか。


「まあ、安上がりな機械化なら、魔法具の調整とか、魔法の入れ直しとか諸々メンテナンスは必要だろうけど、高価な魔法具を使ってる機械化なら半永久的に動くし、メンテナンスなんかほとんどいらない、はず」

「あなたがやろうとしてる機械化は、高価なほうなんですか?」

「うーん。そうだねえ。そこそこ、かな」


 マリは、この人は松竹梅でいうところの竹を選ぶ人なんだな、と思った。

 自分の父親がそうであったからか、不思議と好感がもてた。自分自身は全く思想が違う。どうせ買うなら一番高いか性能がいいのを選ぶし、そうじゃないなら一番最低限のものか、いっそ手にしないという選択をする。

 だけど、それを人に強いるのは違う。人はそれぞれ考え方が違うのだから。


「機械化したメリットは機動力が上がるだけなんですか?」

「まあ、カッコいい、ってのはあるよね。機械化するんだから。強そうだし。悪党に絡まれた時に役立つかも」


 厄介ごとに巻き込まれにくくなるのは良いことだが、機械化することがカッコいいには全く繋がらないのでマリはそっと言葉を受け流した。


「機械化した場合のデメリットは?」

「うーん。機械化したら、宿屋とかでお風呂に入れなかったりするね。公衆浴場的なところには入れなくなるんだ」


 日本でいう入れ墨やタトゥーみたいな扱いなのだろうか。よくわからないし、知りたいとも思わないが。


「あなたは一応、旅人、なんですよね?」

「ああ! 村を出て世界を見て回り、帰ったら親父の後を継ぐんだ! 今は、自分探しの旅ってところかな!」


 どこの世界にも、それが異世界でも自分探しの旅をする自称旅人は存在する。

 しかし、旅人ならば機械化はかなりデメリットが多そうだ。


「旅人が、宿屋のお風呂や公衆浴場に入れなかったら一生お風呂入れないんじゃ?」

「それは……濡れタオルでごしごしするとか。湖で体洗うとか」

「私は嫌ですね。絶対」


 異世界を旅している以上、お風呂に一週間入れないなんてことはザラだしマリもそこは割り切っている。しかし、だからこそお風呂があるところに来たのならば絶対にお風呂に入りたい。むしろそれこそがマリにとってのモチベーションだった。


「そうか……気にしないけどな。君だって、ここ数日お風呂には入ってないだろ?」

「濡れタオルでごしごししてるだけですね」

「そうか。それにしては、嫌な臭いもしないし。君はキレイだった」

「ありがとうございます」

「ずっと濡れタオルでも……」

「嫌ですね。絶対」

「そうかあ」


 少ししょんぼりしながら、旅人はググっと握手を強引にして去っていった。


「もし、いつかまた出会えたら、その時どうなってるか楽しみにしててくれよ!」


 旅人から受け取ったお金を手に、マリは次の目的地へと歩き出す。

 次の目的地は、温泉が湧いているという村だ。

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