2-7

 僕は空飛ぶ煙草事件に関する一切の調査を中止した。心残りはあったものの、殺人事件に関わることを道楽で調査するわけにはいかない。

 警察はすでに煙草屋の店主を第一容疑者に絞っていたようで、僕が疑われることはなかった。情報提供を感謝され、すぐに家へ帰された。

 三日間、僕はネット記事の原稿執筆に時間を費やした。ブログに今回のことを書こうとも思ったが、少なくとも事件が解決するまではいたずらに情報を公開しないほうがいいだろう。下書きだけ作成し、文書ファイルをデータフォルダに保存するだけにとどめておいた。

 四日後の晩、行田から電話があった。

 店主が行方不明らしい。

 三日前に警察が煙草屋に踏み込んだのだが、店主の姿がなかった。男の住居スペースになっていた店内奥の小部屋に家財道具は一切なく、ただ煙草の葉が散らばっているだけだったそうだ。

「今、警察は必死になって店主の行方捜してるよ」

 行田は最後にそう言って電話を切った。

 僕はデスクチェアの背にもたれかかり、息を大きく吐いた。

 結局、謎は謎のままだ。だが、謎が謎のままであるからこそ、生きる楽しみが生まれるとも言える。

 そのとき、パソコンが一件のメールを受信した。

 それはあの日、駅の場所を案内してやった白人男性からだった。別れ際に僕のメールアドレスを教えてやっていたのだった。

 メールには無事に本国に帰り着いたことと、先日の親切を感謝する言葉が書き連ねられていた。画像が二枚貼付されている。

 一枚は別れ際に撮影した僕と白人男性のツーショット。そしてもう一枚は、僕がひとりデモ男に胸ぐらを掴まれている瞬間を捉えたものだった。その画像の下には「You and Crazy guy lol」とコメントがある。

 僕は思わず笑ってしまった。

 確かに、あのデモ男はクレイジーだったかもしれない。しかし、ひとつだけ正しいことを言っていた。

 煙草は人を殺すのだ。

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