分解性プラスチックと生分解性プラスチック
表題の通り、プラスチック問題を解決する上で注目されている新しいプラスチック材料について簡単に記します。
プラスチック問題とは、環境中に放出されたプラスチックが分解を受けることなく残り続けることで引き起こされる問題でした。そしてその原因はよく使われているプラスチックが非常に安定な炭素-炭素結合で構成されているからです。
この問題を解決する上で提案されていることは環境中で分解を受けるプラスチックを作ること。単純ですが大切なことで、なおかつ使用中には分解されてはいけないのでポイ捨てされた後になってから分解されなければならないという制約までつきます。
これに当てはまるプラスチックでよく知られているのは生分解性プラスチックでしょう。これはその名の通りで環境中で生きている微生物が分解可能なプラスチックを差します。化学的に言えば、分解を受けやすいエステル結合で構成されています。普通のプラスチックと何が違うのかというと、主鎖に酸素というヘテロ原子が組み込まれていることです。この結合エネルギーは炭素-炭素結合に比べて低いので分解を受けやすくなっています。
ここで注意が必要なのは、ポリエステルであれば何でも生分解性プラスチックというわけではないことです。あくまでも微生物が分解可能なポリエステルだということです。例えばPHBHなど。欧州では既に普通のプラスチックに対する規制が強く、生分解性プラスチックでなければ使用できないようになりつつあります。日本ではカネカがPHBHの大量生産をしています。
ペットボトルはポリエチレンテレフタレートというポリエステルですが、これはほとんど生分解性を受けません。使用の際の耐久性を目的に芳香環が主鎖内に組み込まれているので、おそらくこれが構造的な原因となっています。但し、ポリ乳酸のようなモノマーユニットが自然由来のものであっても生分解性を受けにくいため、こればかりは微生物に訊いてみなければ何を分解できるのかは分かりません。
話を戻しまして、生分解性プラスチックとは環境中の微生物が分解可能なプラスチックのことでした。しかし、どこに住んでいる微生物が分解できるのかということも考えなければなりません。土壌と海中に住んでる微生物には違いがあって、それぞれが分解できるプラスチックの種類も違ったりします。そのプラスチックがどこに投棄されるのか分からないので、できるだけ多くの微生物が分解できる構造の方が良いことは間違いありません。
ただし、それを求めすぎると材料特性が落ちすぎてしまうので使えないプラスチックになってしまいます。そのいい塩梅を探すのが難しいと思います。
タイトルに挙げたもう一つが分解性プラスチックです。これはかなり大きく括っていて、生分解性プラスチックもこの中に含まれます。分解性プラスチックとは総じて、外部からの刺激で分解するプラスチックのことです。生分解性プラスチックではそれが微生物だったということになります。
では、どんな刺激で分解するプラスチックがあるのか。このあたりはまだ実用化に至っていない例がほとんどのはずで、基礎研究が進められている領域です。ですが、環境中にどんな刺激があるのかを考えていくと種類分けができそうです。
一つは太陽の光です。もともとプラスチックは太陽光、特に紫外線を受けて分解していきます。ただ、その速度は極めて遅く、土壌中や海中など太陽光が届かないところにプラスチックごみが堆積してしまうと分解を受けられないので一般のプラスチックは基本的に太陽光では分解しないと言っていいと思います。光分解性高分子はよりその分解を促進する構造を導入している高分子になります。
ここでは具体的な例を挙げていくのは大変なので、大雑把な説明だけにします。例えば、芳香環などの共役系を組み込むことで吸収可能な波長を広げて分解を促進するという方法。もしくは光分解ユニットを組み込むことで主鎖分解を促進するなどがあります。オルトニトロベンジルやフタルイミドエステルなどと検索すれば出てくると思います(出てこなければ英語でpolymer degradationなどと併記してやればでるはず)。
別の刺激は塩です。土壌に投棄されたプラスチックごみは人間の手で回収できるので、海に投棄されたプラスチックごみに焦点を当てると、海の塩による刺激で分解を促進するプラスチックの開発が考えられます。ただし、私個人としてあまりその例を知らないばかりか、どのような構造を組み込めばいいのかということも思いつきません。高分子単鎖を分解というよりは、分子間相互作用によって構築されている高分子ネットワークを塩刺激で破壊するという戦略になるかもしれません。これでは分解性という名をつけていいのか分かりませんが。
熱という刺激もありますが、地球のよくある気温程度で分解が促進されてしまうと、使用中にも分解される可能性があるので注意がいります。しかし、基礎研究でよく用いられる刺激は熱です。その次は光でしょうか。
現状は生分解性プラスチックが実用化にこぎつけている段階ですので、微生物に頼らない分解性プラスチックの開発には化学者のさらなる努力が必要でしょう。
また、ここでは詳しく説明しませんが、解重合というものもあります。分解性プラスチックがとにかく小分子にバラバラにできればいいというものに対して、解重合はそのプラスチックを構成していたモノマーに戻してやる反応になります。こちらの方が難しく、しかし達成されると再びそのモノマーを利用できるというリサイクル性が生まれます。
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