プラスチックは悪者なのか

 昨今、ニュースや新聞でも取り沙汰されているプラスチック問題。実際にプラスチックとは今後、人類社会にとって有害なものになり得るのでしょうか。


 プラスチックは身の回りに大量にあって、今やこれなしには生きていけない必要不可欠な材料です。例えばスーパーで買い物をしてプラスチックに包装されていない物なんてほとんどないほど。理由は単純で、プラスチックが他の材料(金属や木材、セラミックなど)と比べて優れた材料的な特性を持っているからです。


 一つが安価。プラスチックは高分子と言い換えてもいい物ですが(実際にはその中で可塑性を持っているもの)、これらは小分子を大量につなげて合成されています。その小分子はモノマーと呼ばれ、そのほとんどは石油から作られています。もちろん原油の値段に左右されますが、同じ物性を示す他の材料と比べて安価です。


 二つ目がその性質。プラスチックの種類によって物性は異なり、用途に合わせたプラスチックを簡便に作り分けられることができます(単にプラスチックと言っても、たくさんの種類がある)。前述の食品包装によく使われている理由は、耐久性もさることながらガスバリア性があるからでしょう。酸素や臭いの分子が透過しにくいので、腐ったり匂い移りがほとんどなくて済みます。


 強引に最後として、重要なのは極めて安定だということ。例えば私たちがよく使うポリエチレンやポチスチレンは主鎖が全て炭素-炭素結合で構成されていて、非常に安定な構造をしている。これは使う時には利点である一方で、使い終わった後には欠点になります。


 それが最近よく聞くプラスチック問題に繋がります。プラスチック問題とは何かを一言でいえば、プラスチックがとても安定で全然分解しないので、環境中に放出されてしまうとそのまま残り続けてしまう問題。それが例えばマイクロプラスチックとなって水や大気に混入し、我々が摂取する食物からも検出されるようになっている。


 ここで気になるのが、プラスチックは人類にとって悪者なのかということだ。私の現時点での答えは、悪者になり得るがまだそうではない、となる。


 プラスチックが現代社会に与えた利益は莫大なもので、今後マイナス面がそれを上回るのかを考えると、それは今後の私たちの生活の仕方にかかっていると思う。


 人間に害があるかはさておき、既に他の生物に対しては明確に害があることは間違いない。人間以外はプラスチックの恩恵をほとんど受けないので、彼らからしてみれば環境中にはもともとなかった有害なものという認識かもしれない。


 人間にとって害があるのかどうなのかは、正直まだはっきりしていないというのが実情です。研究が盛んになったのが最近のことで、マイクロプラスチックがあらゆる場所から発見されているということはいくつもの論文で報告されているが、人間に決定的に害があるという報告はまだないように思う。


 そもそもプラスチックは安定なので、身体に入ってもそれ自身はそのまま代謝されていく運命だ。身体に何か悪さをするわけではない。(医学に詳しいわけではないので、化学反応論的な観点からの推測)しかし、気になるのはプラスチックは有機物なので、例えば海中を漂っている時に有害物質が付着するとそのままとなって、それを最終的に人間が身体に取り入れてしまうかもしれないという可能性がある。


 すでにこの可能性はよく知られていて、実際的な被害がどこまであるのか調べられている段階です。プラスチックは安定なので、よく同じく安定な物質である砂粒(主に二酸化ケイ素)を食べてしまったのと同じじゃないかと言われる。つまるところ、砂は自然にある物なので当然害は小さく、それと同じ程度の振る舞いをするプラスチックも害はないのではないかという意見だ。これはその通りとも捉えられそうだが、実は違って、有機物なので無機物の砂とは違った振る舞いをして然るべきだと考えた方が良い。


 使ったプラスチックをちゃんと全てごみとして捨てて、環境に放出しなければこのまま使い続けてもいいかもしれない。しかし、それは正直なところ不可能なので、使用量削減の動きも仕方がないと思う。(世界的にはプラスチックの生産量はこれからもものすごい速度で増加していく予想がある)


 レジ袋有料化はその対策の一環だったんだろう。賛否両論あって、レジ袋に規制をかける程度ではこの問題は解決しないという意見があるのは知っている。しかし、プラスチックの環境放出を直接的に抑制できることであれば、それをすぐにでもしなければプラスチックが人類にとって悪者と認識される日は近いと思う。


 プラスチックは想定外の場所からも環境に放出されている。例えば、最近の報告では合成繊維を洗濯するだけでとてつもない量のマイクロプラスチックが排出されることが分かっている。合成繊維を使わない生活をしようとか、洗濯をしない生活をしようというのはレジ袋を使わないようにする以上に大変だろう。タイヤの摩耗もプラスチックごみのひとつだが、車を使わない生活などもはや成り立たない。つまり、他の排出先を根絶することが現状ではとても難しい。


 できるところからする。プラスチック問題を解決するためにはそれしかない。それがすぐに実効性のある結果を生む必要はない。ものごとを1と0で考えるのは危険で、0にならないのならやっても意味がないと考えるのはナンセンスだ。ほんのわずかな効果しかないとしても、現状それしか打つ手がないのだからやるしかない。


 とはいいつつ、私自身マイバッグを持っていくなんて面倒なので、毎回お金を払ってレジ袋を貰っている。帰ってきたらそれはすぐにプラスチックごみ袋に入れられて捨てられることになるんだが、これを非難するためには別の視点からプラスチック問題を見る必要があるだろう。


 プラスチック問題は大きく分けて二つ。一つは前述の環境に放出されてしまった時の影響。もう一つはそれが石油から作られていて持続可能な社会とは相容れないこと。別個の大きま問題が絡まり合っているので、余計にプラスチック問題は難しい。


 最近は分解性高分子の開発が研究ベースで広く進められている。そちらの話はまた今度。



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